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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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狂信の愚行

前回のあらすじ


主導メンバーを失った『終末カルト』集団。幸か不幸か『宗教による主義の統一』が為されているので、覇権主義者のような崩壊を起こさなかったが……徐々に不協和音が広がりつつあるようだ。

 内部分裂こそ起こさなかったが、活動を停止した『終末カルト』集団。微妙に内部で軋轢を生じさせながらも、集団生活を続ける事は出来ていた。

 結局……思想や哲学云々より、目の前の現実に応対するのを、人間は優先する。あれほど『滅びの使者』と崇め奉っていた『吸血鬼サッカー』が、自分たち『終末カルト』へ攻撃を始めた途端、彼らは放し飼いに近い状態から、檻へ閉じ込め拘束し始めた。


「さ、流石にやり過ぎでは……? 今まではほとんど事故か、信心が薄くなった者に裁きを下しておりました。こんなことをすれば信仰を失い、そのうち我々も皆……」

「不安は分かる。背信的な行為な事も。だがこのまま放置すれば……大司教様が帰る場所が無くなる」

「儀式は成功したのだろうか……」


 停滞した空気の中……やはり意思統一するのは難しい。宗教の解釈違いで、分裂する人物もまた、繰り返された歴史――『終末カルト』内部で純粋な……否、純粋過ぎる狂信者が、現実を見ずに吠えた。


「『滅びの使者』様を拘束するなど言語道断! かの一団の魂は腐敗したのだ! 信仰の情熱があるならば、何も恐れる事は無い!」


 ――終末カルトに属しながら、起きている現実とすり合わせて、信念を曲げてでも『大司教様』ら、儀式の一団の帰還を待つ者と――あまりに深く信仰にハマり込み、些細な矛盾も許せず、純粋に、狂信的に、吸血鬼サッカー地球女神ガイアを信奉してしまった者。恐らく後者は冷静であったが、前者の持つ狂信を見過ごしてしまった。

 ある夜……拘束された『吸血鬼』がいる小屋の中に、狂信的な者たちが忍び込んだ。見張りもいたが、その日のスケジュールは当然、狂信派が担当する日。今の『終末カルト』組の信仰の在り方に疑問を持ち……信仰の名の下に、彼らは怖ろしい愚行に走った。


「あぁ……なんとおいたわしい……滅びの使者様、吸血鬼の皆様。このような仕打ちをお許しください……」


 牢屋の中で鎖に繋がれる、目の血走った化け物たち。吸血鬼。人を襲い、血を啜り、吸血鬼によって殺された人間は、新たな吸血鬼として復活する。噛まれただけなら大丈夫だが、普通の精神であれば、間違っても『飼育』のようなマネはしない。

 だが彼ら『終末カルト』の思想に染まった者なら、今までは攻撃されずに済んでいた。ここ最近吸血鬼が、自分たちにも牙を剥く場面が起きたが……狂った思考を持った彼らは解釈を違える。


「儀式に赴けず、この場に残された我々は――信仰への情熱が欠けている! 我々の信仰の浅さが、大司教様達の帰還を妨げているのだ! 見よ! 滅びの使者を檻に拘束し、恐れるなどと……まさしく信仰心を失った証拠ではないか! 我々は真に地球女神ガイアを信奉する者! 自らの命惜しさに、教義を破るなど言語道断! 滅びの使者を解き放ち、理由をつけて真実を隠す背信者共に、断罪を下すのだ!」

「そうだそうだ!」

「私たちが信じなければ、誰も信じないじゃないか……!」

「これできっと、大司教たちも戻ってくる……」

「申し訳ありません使者様、我々の不義をお許しください……」


 ――彼らは狂っていた。間違いなく狂信者だ。彼らが最もタチが悪いのは……『これが正しい』と信じきっている所。今も檻の前で……滅びの使者こと『吸血鬼サッカー』は牙を剥き、今にもとびかかろうとしている光景だ。

 されど彼らはこう解釈する――この恐怖と立ち向かう事が試練だと。自分たちは今、信心を神に試されているのだと。拘束された彼らを解放しても……恐怖に抗い、信仰に殉じた自分たちは安全に違いないと、何の根拠も無く確信していた。

 それは、現実を見て柔軟に対応しようとした、多少理性が残った者の努力を、悉く踏みにじる行為。もはや飢えた獣と化した、人型の怪物『吸血鬼』の檻の鍵を――最悪な事に、一斉に開けてしまった。

 ガチャリと落ちる錠前、錆びつき軋んだ蝶番ちょうつがいが、音を立てて開く。自由を得た飢えた獣たちに対し、狂信者は満面の笑みで出迎えた……


 自由を得た『吸血鬼』は――まず目の前にいる人物に口を開き、両腕を広げて身体ごとぶつかる。そのまま首筋に熱烈な口付けを交わした。……激しく牙を突き立てて、喉を鳴らして大量に血液を啜る。

 それは滅びた世界において、珍しい光景ではない。『吸血鬼』は近づいた人間を襲い、相手の血を吸って殺す。死んだ相手が、新しい『吸血鬼』として蘇る――

 何度も目にした筈だった。自分たちだけは大丈夫だと思い込んでいた。信じてさえいれば、神は加護を与えて救って下さると、妄信していた。


 あぁ……かくも人とは愚かなものか。ただ一つの思想に囚われ、純粋に信じ続けた結果の盲目。純真純粋も過ぎれば悪。疑う事を知らなければ、疑念を持てなければ、現実を解釈する事を忘れれば――待っているのは、本人に都合よく歪めた、現実のような幻だけ。儀式の果てに何があったかを、知るよしも無いが……せめて警戒する者達の言葉は素直に聞き入れるべきだった。

 檻から解き放たれた『吸血鬼』は、飲み干す勢いで獲物の血を啜った。幽閉により、飢餓状態のようだ。噛みつく牙が首の筋肉まで達して、犠牲者の首がプチリと切れた。

 しかし、吸血鬼相手の場合、ある意味幸福かもしれない。

 首を切られずに絶命した狂信者が……牙を生やし、血に飢えた怪物となって復活する。意識のない獣と化し、身近にいた仲間へと襲い掛かった。

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