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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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頭を失った教団

前回のあらすじ


終末カルトと取引中、近況を適当に話す晴嵐。どうも終末カルトのトップが、儀式に赴いてから帰って来ないらしい。捜索を依頼されるが、即突っぱねる晴嵐。完全な滅びの気配を滲ませる情勢で、晴嵐は己の末期を想像する……

『終末カルト』の面々は……主導メンバーを失った。

 神と対話する儀式に臨んだメンバーは……カルト教への信心深い者、理解が深い者、そして貢献の大きい者が占めていた。すなわち『終末カルト』内で、大きな権限を持っていた人物が、一斉に失踪してしまった……

 しかし『終末カルト』メンバーは、その事実を認知できなかった。何故か?

 彼らは――『地球女神ガイア』の意思に従い、その加護を受けていると認識している。信奉する神を呼び出す儀式を実行する……詳細は知らずとも、主導者が出発した理由は知っていた。だから、彼らの発想はこうなる。


『神を呼び出す儀式に臨んで、不測の事態が起きる筈がない。自分たちは正しく神の意思を履行しているのだから、神が自分たちを保護して下さる筈だ。今まで通り、吸血鬼サッカーから保護し、今回に限って言えば、神を信じぬ不届き者からも、守って下さるに違いない――』


 それは信仰故の過ち。妄信が現実を見つめる目を失わせた。自分たちは神を信じ、そして吸血鬼サッカーに襲われない加護を受けている。だから、神を信奉する自分たちには、絶対に不幸が降りかかる筈がない――そんなロジック。

 が、教義と現実が合致するとは限らない。ましてや、現実からの逃避に使われるカルト宗教ではより乖離が大きくなる。

 戻らない代表者たち。教義に反する疑念が湧き上がるが、あり得ないと否定するしかない。自分たちは選ばれた存在、神を信奉する自分たちに、神が不幸をもたらす事など、あってはならない。ましてや、自分たち一般信者より、情熱か、貢献か、信仰心を捧げて来た人なのだ。絶対に……絶対に、ある筈がない。彼らは信じて、待ち続けた。


 彼ら『終末カルト』にとっての、不幸中の幸いは……『覇権主義者』のように、主な主導者が不在となっても、内乱へ発展しなかった点だろう。

 宗教による統一思想は、ある意味『教義』がトップに君臨していると言える。勿論、上位の神官や主導者は存在するが……狂気の宗教にのめり込んでいたが、ある意味『終末カルト』の面々は純粋だった。

 この手の組織は……トップや幹部の人間が、信者から色々と毟り取る傾向がある。しかし終末世界と化したこの世界では、搾り取ろうにも何もない。同じ思想、近い精神性の寄せ集め集団と言った方が正しい。

 そのため、上下関係はあったものの……強権主義ではなかった。言わば「宗教の下の平等」に近い体制を形成していた。そのことが幸いし、内部分裂や抗争に発展しなかった。しかし――


「最近、使者様方の様子がおかしい……我々の信仰心が足りないのか……?」


 彼らは信仰心により……『吸血鬼サッカー』から攻撃されないと思い込んでいる。だが、上位神官が儀式に出発してからしばらくして、教団内部で『飼って』いる『滅びの使者』――すなわち『吸血鬼サッカー』が凶暴化し、教団員を襲う事例が発生し始めた。


「どうします……? 我々が襲われるようでは、危険です」

「馬鹿な。それこそ本望ではないか。穢れた人類たる我々から、地球を浄化する為の使者への転生だ。我々とていつかは死に、地球から消滅する事で、罪を贖えるのだから……別に構わないだろう。今までも教団員の中で、信心が薄くなった者が……滅びの使者様に裁かれる事はあった。貴様、まさか疑っているのか!?」

「待て待て! そういきり立つな! 現実問題として……我々は儀式に臨んだ司教様たちの帰還を待っている。だから我々には、司教様たちが無事に帰れる場所を、守らねばならない。その使命を、出発前の大司教様に仰せつかった者もいるのだ。司教様たちがここに戻られた時、我々が意識を失っていて良いのか? 我々自身として……大司教様たちの帰還を、出迎えなくて良いのか……?」


 教団員は苦しんでいた。現実と教義のすり合わせに。

 逃避するために作り上げた新興宗教ひじょうしきだが、新しく出来た集団で過ごすうち、少しずつだが、確かに精神の安らぎを得ていた。死後の安寧を約束されたと。

 だがやはり……生き物として、死への恐怖は残っている。その後が安泰と言われても、積極的に命を捨てられない。言うまでもなく……教義と実際の心情との矛盾だが……それでも信じていれば、吸血鬼に襲われずに済む。身の安全と集団での生活に安堵し、思考を止めていても問題なかった。


 ならば……今まで信じていた教義を捨て、新しく解釈しなおせば良いではないか? あるいは真っ当な思考をすれば良いのではないか? 第三者目線なら、そう感じるだろう。

 されど悲しきかな人のさが。今まで投じていた時間と労力を、無価値だった、間違いだったと思いたくない。少し不都合な現実が起きたぐらいで、積み重ねて来た信念を変える事は出来ないのだ。たとえそれが、自分に都合よく歪めた教義だとしても……

 現実が思想から離れていくのに、それでも現実を受け入れる事が出来ない。薄々疑念や疑問が浮かび上がるけど……『同じ教義』で纏まっている集団だからこそ、迂闊に異論を口にする事も出来ない。

 過ちと知りながら、変わる事の出来ない人類。

 緩やかに停滞する集団は、いずれ破滅へ至る事になる……

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