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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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臨む対話は望まれず

前回のあらすじ


交換屋を利用しながら、終末カルト集団は、ある儀式の素材を集める。そしてついに『地球女神ガイア』と対話するための魔法陣を起動させ、自分たちの宗派の正しさを証明しようとしたが……神の態度は、あまりに冷たい物だった。

『終末カルト』集団にしてみれば、その暴言は辛辣としか言えまい。教団員は困惑し、教義への理解が深い者は、少なからず怒りを滲ませた。

『終末カルト』の教義において――『吸血鬼サッカー』の襲来は、この世界を管理する神が、人類へ失望し、絶望し、地球への『害悪』と認定し、この惑星上から『駆除』するために出現させたと解釈している。

 そして『神』――地球全体を総括する神の名は『ガイア』……古き神話に名を遺す、地球そのものと解釈される事もある『神』だ。

『神』は人類を滅ぼそうとしている。

『終末カルト』は、その使者たる『吸血鬼サッカー』を賛美し、神が求めるのが『人類の絶滅』な事を理解している。

 故に――彼ら『終末カルト』は、神と接触出来れば、自分たちの行いを肯定されると考えていた。しかし実際に、神との対話に成功するや否や……いきなり辛辣な罵倒を食らえば、仰天するだろう。


『あなた様の意思を代行しているのに、どうして我々を侮蔑するのか? 我々は神の意志の代行者であるのに……』


 賞賛か、慈悲か、ともかく神からの肯定を予想していた『終末カルト』人員は、いわば労いや褒賞を、僅かだか期待していた。これだけの活動をしたのだから、見返りがあってしかるべきだ。それが物質的な意味か、精神的な肯定か……少なくても何らかの『プラス』の反応が有って当然と思っていた。

 故に――神からの強烈な拒絶反応を、すぐに処理することが出来ず戸惑っている。沈黙と困惑、そして変な話だが『裏切られた』という思いが、教団員の一部から生じていた。


「神よ……偉大なる地球女神ガイアよ! 何故そうもお怒りなのです? 我々はあなた様のご意思を正しく理解し、人類を終幕に導くべく……この教団に集った者。吸血鬼サッカーの意義も間違いないと確信しています。だからこそ……我々のような信仰の篤い者であれば、吸血鬼に襲われぬよう、取り計らってくれたのでしょう?」

“優先順位を下げただけ。何勘違いしてる訳?”


 冷徹。あまりに冷徹。慈愛の籠った声は、人の心を温める者だが……地球女神ガイアの言葉はあまりに冷たい。これから殺す家畜へ……いや、有害な害虫へ嫌悪を向けている。『終末カルト』集団が予期していた反応と異なり、言葉を失う中『神の意思』が信奉者の頭に響く――


“人類を駆除するのはそう。『吸血鬼』もだいたい正解。人間の……お前らの言い方に合わせるなら『最小存続可能個体数』だっけ“

「さ、最小……? なんですと?」

“……生き物が子孫を残して、一つの種族として生きていくための、最低限の数の事。ここ以外の地域でも、数を割った。もう少しで人類は絶滅する”

「おぉ……! おぉ……!! 素晴らしい!! ついにあなた様の望みが叶う訳ですね!! 我らの教義は間違っていなかった!! 神よ! ならば我々の死後は、安泰であるとお約束下さるのですね!!」

“は?”


 とことん神は人類に冷たい。全く態度を変えない地球女神ガイアに、流石に教団の人々も不安を覚える。神はひたすら冷たい眼差しで、人類の鳴き声を聞き流していた。


“死後の安泰って、どういう意味?”

「決まっているではありませんか! 我々はあなたのご意思に従い、人類滅亡に向けて活動を行って来ました! 見ての通り、あなた様を崇拝し、信奉して参りました! だから……」

“見返りが欲しいって言いたいんでしょ。それが死後の救済って事?”

「そ、そこまで明け透けに申し上げる気はありませんが……」

“クソは上品な言葉で包んでもクソだから。今更上等ぶらないでくれる?”

「――何故です? 我々の何が気に入らないのですか!?」


 神よ、我々はあなたを信じている。

 神よ、我々はあなたの意思を代行している。

 なのになぜ、ここまで冷たくあしらうのか? 理解はできないが、神の嫌悪は伝わってくる。信じた者に裏切られた……不吉な予感が教団員の胸に染みこんでくる……

 ――確かに、彼らの教義は間違っていない。

 だが彼らは――『自分たちが何者か』を、忘れていた。


“あなた達だって『人間』でしょう”

「…………な、何をおっしゃっているのです? 我々はあなたの信者で――」

“でも『人間』でしょう?”

「う……」


 何を考えていようが、どんな思想を持っていようが、地球女神ガイアから見れば『人間は人間』でしかない。地球女神からすれば……彼らの活動は、あまりに遅すぎたのだ。


“ねぇ……私を信じてくれるなら、どうして世界の破滅を止めてくれなかったの? 地球を破壊して、汚して、取り返しがつかなくなってから……こっちにすり寄って来ないでくれる? 気持ち悪い”

「で、ですが我々は人類の滅亡に手を貸し――」

“この近辺だけでしょ? 私は『地球全体』から人類を滅ぼそうとしているのだけど? 死んだ人間だって一万人も超えてない。大した数じゃないでしょう? そんなチンケな活動を貢献って言う気?”


 この近辺で宗教活動を行う者と、地球全体を俯瞰している者。

 所詮『終末カルト』の活動は、狭い島国の中での話。神の意思に従っていると仮定しても……『神の目線』から見れば、活動規模はあまりに小さい。

 皮肉な事に――地球女神ガイア信奉し、かの神の意思に従おうとした者から、神の審判を受ける事になったのだ。


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