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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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女神降臨の儀式

前回のあらすじ


世界を見つめるルノミの魂は、自分の『異世界移民計画』に使った理論が、終末カルトによって歪な解釈をされた事に耐えられなかった。

思う所はある。けれど隣に立つ『亡霊』は、ルノミの行動と『終末カルト』は、逃げる方向が違うだけと指摘した。ルノミは直接の反論は出来ないものの、ゆっくりと滅亡に向かう人々の姿を、黙って何もせず受け入れろと? と吠える。こうならないように、世界を救う為に計画を練ったのに、どうしてこうなってしまったのか……

 自分たちの行動を、誰かに閲覧されているとも知らず――『終末カルト』集団は、せっせと『魔法陣』の修復を始めた。

 人々を生きたまま、別世界に移動させる為の魔法陣。この世界の神と対話する為に作成された魔法陣。どちらも『救済』のための行動なのに、どうしてこうも違ってしまったのか……

 彼らは残されたノートを手に、もう一度術式の起動を目指した。今までの『布教』と称した活動は……この世界の生き残りを『吸血鬼サッカー』に変異させるか、思想を教団に染め上げるか。ともかく他者の領域を侵害する、ロクな活動ではなかった。それが『小屋』の発見から、全くの別方向へ舵を切る――


「えぇと……『蛇の抜け殻』『金塊三キロ』『猫のヒゲ』『マグロの頭』『ツバキの実』……これらが欲しいのだが……交換屋トレーダー、在庫はあるか?」

「ある訳無いだろうバカタレ」


 彼らは……『世界意思接続魔法』を再発動する為の、材料集めに力を注いだ。拡張した勢力を使えば可能だが、急な方針転換に『文明復興組』は困惑した。『覇権主義者』が崩壊した事も、彼らの活動を後押ししたのかもしれない。二大勢力と化した故に、注意すべき相手の数が減ったのだ。

 晴嵐もまた、取引相手が減少し……結果として各種取引先との頻度は増えた。増えたがしかし、あまりに怪しげなラインナップに、交換に来た晴嵐は一喝。よく使う物なら、備蓄も在庫も用意はある。けれど今要求された物は……この世界基準で言えば『ガラクタ』としか表現できまい。

 一応は『探しておく』と答えるが、一体何に使う気なのかさっぱりだ。さも当然のように『在庫がある』前提で声を掛けないで欲しい。残念がる『終末カルト』に深々とため息を吐き、一応はメモを取りその場を去った。


(あいつら……一体何をする気だ? 詮索はしないと決めているが……)


 在庫があれば流すし、使えそうな物と交換する。どこで仕入れたとか、誰から奪ったとかは考えない。余計な思考を挟めば、確実に気が滅入る方向に、物の価値や意味を考察してしまう。流した道具の用途についても、同じことだ。

 だが……彼らが要求した『物』は、意味不明、用途不明としか思えない。はっきり言って価値はゴミ。唯一『黄金』に関しては……覇権主義者が権威を示す為、文明復興組が素材として需要があるものの、崩壊前から価値の高い物品だ。いきなり三キロも要求されて用意は不可能だ。

 不信に思いながらも、一応は要求された物。交換材料になるなら別にいい。深くは考えずに、意味を知らずに取引に応じる。

 そしてついに……『終末カルト』の一団は、儀式を実行した。


***


 ボロボロの小屋は補修を受け、中身は怪しげな素材で埋め尽くされている。

 絨毯は異臭のする糸で補修され、青い色の炎のキャンドルが室内を染める。なんだか良く分からない呪文を唱え、ローブを纏う集団が魔法陣をグルグルと回った。

 明らかな『異界』としか、表現できない。地球人であれば、遥か昔に製造された魔術の光景は、極めて不信感を覚える光景だ。頭のイかれた『終末カルト』が執り行えば、より邪悪さを引き立てるだろう。


「さぁさぁ諸君! 神に祈りを捧げるのです! 我らが母なる大地の神! 地球女神ガイアをこの場に降臨させるのです! すべての人類へ贖罪を!」

「「「すべての人類に贖罪を!!!」」」


 大合唱は小屋の外にまで。周囲に見張りとして立つ教団員も、つい口ずさむものや目を閉じて黙祷する者、神を賛美し、人類の滅亡を祈る者達が、祭壇に集い儀式を起動させていた。

 ――それは『世界意思接続魔法』を発動させる聖域。この世界の『上』にいる存在達である『神』と、対話する為の術式。

 一度目は空振り

 二度目と数回は『ベルフェ』と

 そして彼ら――『終末カルト』が最後に起動し、対話に成功した相手は……彼らが望んだ通りの相手、地球女神ガイアと接触する事に成功した。


 キャンドルの青い炎が、蕩けた蝋を伝い魔法陣に染みこむ。黒い六芒星が発光を始めると、炎の青色が移るかのように青く輝く。一方キャンドルは吸い取られたかのように、通常の炎の色、橙色に揺れる炎がキャンドルの上に灯る……

 脈打つように光が明滅し、神秘の気配に一斉に沸き立つ。怪しげなローブを纏う邪悪な司祭たちの脳裏に――気怠きだるそうな、まだ若い……いや『幼い』と言い換えた方が良いだろう。地球全体を俯瞰し、世界そのものを見守り慈愛する女神の声が、頭の中に直接響いた。


“――今更何の用? 人類さん?”

「おぉ……おぉおおっ! 見よ! 皆の衆! ついに我々は地球女神ガイアの言葉を直接、たまわる事に成功した!」

「あぁ……今日この日をどれほど夢見た事か!」

「御姿が見えぬのが心苦しい!」

「これで私たちは、死後の楽園に逝く事を約束されるのね……!」

“――……”


 その沈黙の意味を、信者たちは推し量る事は無い。自分たちの思い描く理想を、感情のままに吐き出していた。

 それは決して『対話』に程遠い。相手の目も見ず、意思も無視して、己の都合だけを喉から鳴らすだけの泣き声……


「皆、静まれ! 申し訳ありません、神よ。我らはあなた様の信奉者。ようやくお言葉をいただけたので、感極まってしまったのです」

“……”

「どうか……我々のみならず、この世界のすべての人類に……あなた様の意思をお伝えください! 人類は邪悪であると。地球を汚した大罪人であると! そして自ら死に向かう事によって始めて罪を贖えるのだと……」

“黙れゴミ”


 唐突な暴言。神が直接、その場にいた『終末カルト』の脳内に、神の嫌悪を流し込む。

 一斉に黙る『終末カルト』の面々に……地球女神ガイアは本心を叩きつけた。

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