逃避先の違い
前回のあらすじ
『文明復興組』と『覇権主義者』の騒動の間……『終末カルト』はある魔法陣を発見していた。それはかつて、ある人物たちが、地球女神と交渉しようと試みた名残。彼らはその魔法陣を使って、神の意思をすべての人間へ伝達しようと画策している……
「――違う! こんな……ぼくは……ぼくはこんなつもりで『異世界移民計画』を始めたんじゃない!! 世界を滅ぼす為じゃないんだ! 世界を救う為に始めたのに……どうして……っ!」
――魂だけの状態で、滅びていく世界を見つめるしかない『ルノミ』は、終末カルト教団の行動に吠えた。変えられない過去、既に過ぎた事と知りながらも、異議の声を上げずにいられない。ルノミが望んだ救済と、教団の語る救済はあまりに別物過ぎた。
滅びゆく地球からの脱出を目指し、文明の存続を願った『ルノミ』と。
地球を滅ぼした罪を当然と受け入れ、人類滅亡を望む『終末カルト』集団。
どちらも『地球女神』を肯定し、意識し、始まった思想である筈なのに、両者の方向性は真逆と言えよう。一見『終末カルト』の思想は狂っているが――彼らの『狂信』を取り除き、発想と思想のみを抽出してみると……正義がどちらにあるのか、分からなくなる。
傍らに立つ『Crossroad Ghost』――核実験の犠牲者となった亡霊は、目を閉じてしばし、思案を巡らせた。
かの亡霊は……核兵器を用いた地球人に、強い憤りを覚えている。何故過ちを繰り返したと。何故核の使用を、止めてくれなかったのかと。どうして被爆者の訴えを無視して、世界を滅ぼしてしまったのだと。
だから――『亡霊』にしてみれば、『終末カルト』の思想を悪とは言い切れない。自らの犯した罪を認知し、その償いをすべきだとする主張……遅すぎる贖罪とはいえ、積極的に反省しようとする態度を、『亡霊』は否定できない。
“デモ……コレハ……”
けれど……彼らのやり方は、明らかに極端だ。今を生きて、汚染された世界で償うのではなく……神の意思に従って、自らの種の絶滅を補助する。その生き方、その在り方は、果たして賞賛に値するだろうか?
隣にいる魂……『ルノミ』の叫びが『亡霊』にも響いた。
「生きる事を諦めたい人なんているもんか! そりゃ、犯した罪を償わなくて良い訳じゃない。けど、死ねば償える訳でもない! あなた達のやり方は……ただ死んで犯した罪や現実から、逃げようとしているだけなんじゃないのか!? 死んだ後の世界なんて……誰も確かめた事もないし、確証なんてどこにも……!」
『ルノミ』の意見も一理ある。死後の安寧を得る方法が、人類の絶滅で良いのだろうか? 何の確証の無い『死後』に、『終末カルト』の人間たちは、過剰な幻想を抱いているのではなかろうか? 仮に救済を得たとして――『彼ら終末カルトに殺害された人間は、果たして彼らを許すのだろうか?』そんな偏った救済を与える『神』は、果たして信用に値するのか……?
『ルノミ』の思想はこんな所だろう。しかし『亡霊』は、彼に対して痛烈な批判をぶつけた。
“オ前ガソレヲ言ウノカ? 『異世界』ニ逃ゲタオ前ガ? オ前ト、コイツラトノ違イハ……「死後の世界」ニ逃ゲルカ『異世界』ニ逃ゲルカノ、違イジャナイノカ?”
「っ……」
『ルノミ』は、すぐに言い返せない。彼の救済計画が『異世界転移、転生の話』を土台にしたからこそ、亡霊の言霊は深く痛みを伴い、胸の奥に刺さる。
転移はともかく……異世界転生は『この世界で死んだ後』について語る題材である。初期のころはトラックに轢かれたり、ともかく事故を始まりにするケースが多い。
『死によって現世を去り』『その後について語る』と言う点において――亡霊は異世界転生と、終末カルト共の発想は同一だという。こんなイかれた奴らと同一扱いに我慢がならず、ルノミは反論を絞り出した。
「……ぼくだけが逃げようとしたんじゃない。ばくはみんなを逃がそうとしたんだ。見れば分かるだろう? こんな……こんな世界で生きたいと思う人がいるもんか! 誰だって地獄は見たくない。誰だって生き地獄に住みたくない。だから――」
“ダカラ同ジダロウ? 逃ゲル方向ガ違ウダケダ”
「……そうかもしれない。けど……けど……生きる事を諦めたい人がいるもんか! 死んで償える罪じゃないのは分かっている。ぼくらは死ぬまで、故郷を汚した罪人なのは分かっているよ! でも――でも生きていれば、いつか償う方法を見つけられるかもしれないじゃないか!」
『ルノミ』はほとんど衝動的に叫んでいた。拙いながらも彼は、自分の感情のまま訴える。
「移動した先で――もしかしたら『異世界』で、放射能汚染を回復する方法が、見つかるかもしれない。仮に出来なくたって、生きてさえいれば……向こう側の人々と協力して、地球を治せるかもしれないじゃないか! 確かに……確かに、ぼくは救うつもりで、地球から逃げたんだと思う。その気は無くても、あなたから見れば……きっと逃げなのだと思います」
“…………”
「『異世界移民計画』を立ち上げて、実行した時……ぼくは『地球に帰る』事は、全く考えていませんでした。あなたにしてみれば……『汚すだけ汚して逃げやがった』って心情でしょう。ぼくも、彼らも、一人残らず地球を破壊した罪人なんでしょう。
でも――ならこの光景を我慢できますか!? みんな緩やかに、希望と資源と、体力と知恵を失って……訳の分からない事を言いながら、争い合って死んでいくんですよ!? こんな事になる前に、世界がやせ細ってしまう前に……地球から脱出させたかったのに、どうして……」
肝心の記憶、最大の空白、移民計画が何故失敗したのか……『ルノミ』には、その一点が抜けている。ユニゾティアの歴史書で『第一陣』が千年前に着地したのは確かだが、一体そこで何があった? チートスキルを保持し、無双しようと試み、ユニゾティア住人に撃退された……恐らくそんな感じだろう。
何故そんな発想をしてしまった? 地球の事を忘れたのか? こんな地獄から、人々を救うために『異世界移民計画』を実行したのに、どうして……
深く嘆くルノミの魂。怨恨に沈む、鋼鉄の肌を持つ『亡霊』は――責める事も忘れ、じっとルノミを見つめていた。




