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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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魔法陣の発見

前回のあらすじ


晴嵐が『救うべき相手を考えるべきではないか?』との疑問は、既に『文明復興組』内部で終えた問答だった。覚悟なら終えていると答え、二度手間を詫びる晴嵐。が、ナンバー2は晴嵐を好意的に見る。組織の行く末を案じていなければ、出てこない質問だったからこそ……だろう。

一方その頃――

『覇権主義者』の崩壊に合わせ、近辺の情勢は大きく変化した。

 どんな状況下であれ、三すくみは拮抗を生む。一対一での対立と異なり、下手に争えば漁夫の利を狙われる。どう動くにしろ……どの組織も無理は不可能だった。

 が……『覇権主義者』の性質が裏目に出た。彼らは次期リーダーを巡り、同士討ちを始めてしまう。広がった戦火を鎮めようにも、争いのきっかけが『我こそが主導者』と叫んだ事が原因だ。第三勢力の介入を恐れて、戦闘を中断する……そんな音頭を取る者はいない。結果として『文明復興組』が『無実の人間の救出』と称して鎮圧を行い、生存者のほとんどと、無事な土地と資源を吸収する形で終息する。


 一方その頃『終末カルト』集団は――あまり大きな動きを見せていなかった。

 少数の救出隊とは言え、文明復興組から人が外部に出動している。横やりを入れるには絶好の機会だが、彼らは彼らでとある活動に熱を上げていた。ある『遺跡』の発見を求めて、各所を放浪し、人員を割いていたのである。

 この『遺跡』とは、ある種の愛称のようなモノ。本当に遺跡発掘を行ってはいない。彼らはある日、教祖が何かを感じ取り……根拠不明のまま『神託』と称し、突如として『何か』を探し始めた。

 彼らはその狂気的な信仰心により、何故か『吸血鬼サッカー』に襲われない。が、危険は化け物のみに留まらない。攻撃的な人間が、弱小勢力を形成している時代でもある。無謀にこの世界をうろつき、ただの直感で『何か』を探し求める行為は、完全に狂人と言えよう。


 彼らの行動を起こすきっかけ――それはある一冊のノートから始まった。崩壊したある一軒家で見つけられたタイトルは……『地球女神ガイアとの対話計画』――

 その命題は『終末カルト』にとって、決して無視できない表題である。彼らの教義は『地球を汚染した人類に地球女神ガイアは失望し、罪過を犯した人類の粛清を決定した。『吸血鬼』は人類がもたらした滅びの使者であり、神の意に従い、人類は死滅するべきである』――この宗教の大前提として『地球を管理する神』たる『ガイア』の存在を肯定しなければならない。


 証明不能の机上の空論。宗教とは、曖昧な領域の話だが……自分たちの主張を肯定する要素を欲するのは、正気を失っても変わらないらしい。地球女神ガイアの記述があるノートを手にして、彼らは『対話』のための魔法陣の存在を知った。

 イかれた頭で狂気の巡礼を行う、一部の熱狂的な狂信者たち。何の感覚で目星をつけたのか知らないが、彼らはその狂信の下の行動で、確かに目的物を発見した。

『ある人物たちが地球を救う為、別世界へ転移を行った魔法陣』――風化が進みはしていたが、小屋自体は無事だった。人里離れた山小屋の一角で、教祖は狂ったように叫ぶ。


「おぉ……ここが! ここが始まりの地――!! 見よ! これこそが、神との対話を果たす魔法陣! 世界意思接続魔法の痕跡である! 地球女神ガイアの実在を示す神秘の名残だ!」

「素晴らしい……! 教祖様! これで我らが教団の教えこそ、紛れもない真実であると、誰もに知らしめる事が出来ましょう!」

「うむ! 我らは魔術に疎い面はある。しかし神の声を世界に広げ、我ら罪深き人類の粛清が、真に正当な神のご意思と伝達できるだろう! そのためなら……この命も魂も、私は惜しくはない! ここを我らが聖域とする!!」

「ははーっ!!!」


 それは……世界を救済しようと願った人々にとって、完全な想定外に違いない。この魔法陣を製作し、起動した人々……『異世界移民計画』を主導した人々は、人間が地球女神ガイアに滅ぼされる事を、望んでなどいなかった。困窮する地球文明の人々を、どうにかして救済する為に、大がかりな術を作り上げた。狂気の宗教家の思想を、補強するつもりで始めた訳じゃない。こんな歪んだ解釈をされるとは……誰だって予想していないだろう。

 うっとりと夢心地で、瞳を輝かせる『教祖』……周囲の人間も同調し、手にしたノートをめくり、文字列を見つめる。恍惚と小屋を中心で『終末カルト』の長は愉悦に浸り、儀式の名残を見つめながら叫んだ。


「同朋諸君!! 我々はこの魔術――『世界意思接続魔法ガイアコネクションマジック』を再度起動させる! そして地球女神ガイアを降ろし、この世界の人間に罪状を布告する! すべての人間が、地球女神ガイアの裁きを正しく受け入れ、死後の安寧を約束するのだ!!」

「「「「「おおおぉ~~っ!!!」」」」」


 皮肉に過ぎる展開だった。

 神との対話に開発した魔法陣が

 世界を救うための『異世界移民計画』に使われ

 計画が破綻した後に、忘れ去られると思いきや――

 最後は狂信者の聖域になり、神から人類への死刑宣告に使われる。


「儀式の材料は……少々調達が困難な物も含まれる。しかし教団員諸君! 我々の救済のため! 神から全人類への許しを請う為! どんな代償も困難も支払おうではないか! すべては人類の恩赦のために!」

「「「「「すべては人類の恩赦のために――!!」」」」」


 狂気と歓喜を交えた合唱が、歪んでしまった救済を叫ぶ。

 ――しかし彼らは、致命的な過ちを犯していた。

 それに気が付くのは……もう一度神が地球人に向けて、残酷な宣言を終える時だった。

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