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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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救援と緊迫の第三波

前回のあらすじ


 死体から武器を奪い、ボウガンに苦戦しながら装填し、涙ぐましい努力を重ねて敵を迎撃する。空き缶警報装置に反応し、すぐに侵入者を追い払う。まだかまだかと待ちわびる救援の気配は、ようやくやって来たのだが……

 地下を照らす光源が揺れ、衝撃と振動が全員の五感に響く。今までも戦闘音を聞いた事があるが、今までのソレと規模が違う。

 固定された重機関銃とも異なる、連続した炸裂音。サブマシンガンやアサルトライフル系の、自動小銃に分類される銃器だ。

 今までは敵も味方も入り乱れ、連携もクソも無い突発的な戦闘が起きていた。だが音で分かる。これは違う。きっちりと統率の取れた人々が、乱れのない挙動で突入している――!


「これは――ついに来たか!?」

「雰囲気が違う。期待できそうかな……あー……アンタ、名前をもう一回聞いても?」


 奴隷を率いる奴隷が、申し訳なさそうに晴嵐に声を掛ける。何度か戦闘をこなして、記憶と意識を持っていかれた。さもありなん。彼はゆっくりと言い聞かせるように伝えた。


「大平 晴嵐……晴嵐と言えば伝わる。相手は『文明復興組』で――そうだ、俺の通信相手は『宇谷 遊坂』と名乗っている。組織連中も俺の名前はともかく、宇谷の名前なら絶対に知っている。俺の名前より効果があるかもしれない」

「ちょっと待ってくれ。メモを取っておく。また戦闘になったら、頭から飛んで行ってしまう。また同じ質問は嫌だろう?」

「そうだな。俺やお前が死んでも、紙に残しておけば安心だ」

「嫌な事を言うなよ」

「――これから一番キツいのが来るぞ。こんな軽口叩けるのは……多分、最後だ」

「「「「えっ……?」」」」


 険しい顔の男に、奴隷たちも嫌な空気を感じていた。救いの手が近付く事に、一体何故警戒するのか。晴嵐の予想する事態は、すぐに階段から聞こえてくる……

『呼び鈴』が激しく音を立て、敵襲を伝えた。

 数は6人。装備は貧弱。無駄話を打ち切り、慣れつつある迎撃戦に移る。罠も武器も補充済みで、特に言うべき盤面は無い。槍を投げ、弓矢を放ち、バリケードで迎え撃つ。決められた手順の戦闘をこなしたが、問題はその後の展開が違った事だ。


「よーし……じゃあ剥ぎ取りを――」

「いや、ダメだ。次が来るぞ!」

「何……? いや、だって『呼び鈴』が鳴ってない――」

「仕掛ける時間が無かっただろうが! 足音をよく聞け!」


 無茶な話である。上部で激しい戦闘を繰り広げられている中で、材質や重量感が異なる『階段を下りる足音』を聞き分ける事は困難だ。最初から警戒していた晴嵐だからこそ、危機を感じ取り、対応を間に合わせている。次のお客さんの登場に、一部の者は悲鳴を上げたが――槍の使いの奴隷は反応が早かった。


「こっちに来るんじゃねぇーっ!!」


 すぐに投げ槍一発。疲労もある筈だが、先頭にいた敵の肩を貫いていた。敵も動揺の声を上げて、慌てふためく……と言うよりは、疲れたような雰囲気だ。


「な、何とか避難――げぇっ!?」

「奴隷共が武装してやがる……ここも安全じゃないのか!?」

「死ねぇぇええっ!!」


 槍投げ奴隷が憎悪を込める。気迫と共に力を発揮する様は、さながら激情型のスポーツ選手のようだ。流すのは健やかな汗ではなく、ドロドロと汚れた血と感情。すっかり板についたのか、二発目は見事に直撃だ。

 それで逃げ出そうとした直後――誰にとっても予想外が起きる。逃げ出す最初の敵と、階段から降りてくる誰かがバッティングしたのだ。味方同士かと思いきや、信じられない事に、階段の上と下で交戦状態に入っている……!

 状況が読めない全員に対し、晴嵐はすぐに対応をかした。


「やっぱりか……ここからは連戦になる。今まで通り休んだり、敵から武器や防具を奪えないと思え。投げた槍、使った矢も回収は厳しい。無駄使いを控えた方が良いだろう」

「どういう事だよ!?」

「今、上では『文明復興組』と『覇権主義者』の構成員で、戦闘状態に入った。統率の取れた足音と戦闘音で、それは予測できる。問題は『覇権主義者構成員』は……今更手を取り合って『文明復興組』を追い払う事をしない」


 そもそも、最初から組織のていを保つなら、今まで通りとはいかずとも、穏便に協力し共同体を維持するつもりなら……この『覇権主義者内乱』は発生していない。第三勢力の攻撃に晒された所で、目の前にいるのは引金を引いた奴、あるいは裏切った相手だろう。激化した現場を見れば分かる。冷静になって、再び協力しあう事は不可能だ。


「身内同士で食い合っている『覇権主義者』連中は、間違いなく『文明復興組』に敗北する。向こうはきっちり組織として動いているからな。最終的に鎮圧されるだろう」

「それで、オレたちも助かるって話だろ!?」

「あぁ……形勢の悪さを察して、地下に立てこもろうとする『覇権主義者の敗走軍』連中全員を、無事に撃退できれば……な」


 人間誰だって、自分の命は惜しい物。誰かと手を取る選択は出来ない。となれば行動は絞られる。

 ここから破れかぶれに敗走するか。

 安全な場所に隠れ潜むか

 それとも最後まで抵抗するか

 この『元地下留置所』は――後半二つが脳裏に過ぎった時、十分に選択肢になり得る立地をしている。『文明復興組』の圧力が高まれば高まる程、現状を捨ててこの地下を目指す者は増えるだろう――


「……まさか、これは」

「そうだ。これは始まりだ。落ち武者共のラッシュが来るぞ。気を引き締めろ」

「お、おう……!」

「――また来た! 三名!」


 救援が近付いたと言うのに、それに安堵する余裕は、彼らには与えられない。

 早いとこ頼むぞ、宇谷――胸の内に呟く祈りの時間さえ惜しく、晴嵐と奴隷たちは、最後の落ち武者ラッシュへの対応に追われた。

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