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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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奴隷たちと合流

前回のあらすじ


施設内でも戦闘は続いていた。スプリンクラーに濡れ、閃光手榴弾の食らいながらも、立てこもりのいる地下への階段へたどり着く。言い合いをする奴隷たちに話しかけ、説得材料として無線を通し、話を聞かせようとしたが……

 何度もボタンを押すが、無線機は全く宇谷の声を届けない。この状況において応答しないとも思えず、となると原因はこちら側にあるとしか……


「くそっ……無線が通じない」

「は!? なんだよお前、やっぱり嘘か!?」

「だから、その気ならとっくに潰しに来てるだろうが! ……すまない、みんな冷静さを失っている。何か思い当たらないか?」

「俺も今動揺している。さっきまで連絡を取れていたのに……なんで……」


 ジワリと流れる汗、手に滲む液体。ハッとして目を向けた瞬間、晴嵐は自分の失敗を悟った。


「くそ……スプリンクラーか?」

「スプ……急に何を言い出している?」

「上で派手にドンパチやってるだろ? 元警察署内だけあって、建物は良く出来ているよ。銃やら爆弾の煙を感知して、機械はきっちり仕事してやがる。お蔭でびしょ濡れだ」

「あるいは、ここが警察署の地下だからかもしれない。電波の通りは悪いかもな……」

「ちきしょうが……」


 こうなったら、晴嵐もここに立てこもるしかない。今から脱出は……一人だけなら可能かもしれないが、下手にこいつらを置いていくと、後で背後から刺されても文句は言えない。どうしたものか、と考えている最中、話せる人間が融和的に訴える。


「アンタ……こっちに来た方がいい。そこじゃ身を隠す事も出来ないだろう?」

「そうだが……俺を信用するのか?」

「完全には信じない。けど、ハメる気配は感じない」

「……武器は構えさせてもらうぞ」

「どうぞどうぞ。こっちも構えさせてもらう。一応は、互いに変な気を起こすつもりはないが……」

「あぁ。こんな時世だ。警戒は当然だろう」


 階段のすぐそばでは、引く事も進むことも、身を守る事も難しい。どう対応するにしろ、場所は移したいと考えていた。向こうの提案はありがたいが、互いにすぐには信用しない。晴嵐は加賀さんのピストルを構え降りると、出迎えたのは、全員がボロボロの格好をした連中で、それぞれに原始的な武器を構えていた。

 残骸を利用したバリケードがいくつかと、金属パイプを雑にカットした投げ槍。靴下に砂か何かを詰めた鈍器、ブラックジャックからナイフまで勢ぞろいだ。トリガーに指はかけないが、軽く構えている晴嵐に対して話し合う。


「げ! おいやべぇぞ! あいつ銃を持っている……!」

「いちいち騒ぐな馬鹿。よく見ろ。ここの連中が使っている奴と形が違う」

「え? あ……本当だ。服も警官服じゃねぇし。いや待て、俺たちを騙すつもり……」

「『覇権主義者ここ』の連中が、んな回りくどい事するかよ?」

「……しないな。絶対」


 ――警察組織の連中は、主にリボルバー銃を保持していた。対して晴嵐が持つ銃は、加賀さんの形見である。アメリカで愛用されるが故に、こちらではあまり見ないタイプだろう。着衣の差もあり『覇権主義者』に属していない証明にもなった。

 まだ懐疑の目を向けられているが、すぐに襲って来そうにない。銃を下ろして彼は問いかけた。


「ここは……元は留置所だったと聞いているが。随分様変わりしているじゃないか。防衛線を敷いたのか?」

「あぁ……あり合わせで適当に作ったモンだし、多分本気出されたら……」

「何もしないよりは良い。お前らはどこの派閥所属だ?」


 カマかけも兼ねて聞いてみる。返答は不機嫌に、そして予想通りの物だった。


「けっ、俺たちはどこの所属でもねぇよ。というか、すべての所属の共有物? 家畜扱い? まぁそんな感じ。隣のコイツを除いてだけど」


 毒を含んだ肘鉄に、露骨に嫌な顔をする両者。『覇権主義者』の文化を知らぬ晴嵐には、何の話か分からない。戸惑う彼に対し、口の回る方が証言する。


「もう想像つくと思うけどさ……ここに立てこもっている奴らの多くは、奴隷身分だった連中だ。けど、奴隷と一口に言っても、扱いや用途は微妙に違う」

「お前は……まとめ役みたいな物か。だが身分としては同じだろう?」

「違ぇよ馬鹿。コイツは俺らを売って、自分だけ良い思いしてやがるんだよ。同じ奴隷のくせして偉そうに……」

「だったらお前が奴隷を率いてくれよ。ミスったらここの奥行きだが?」

「あ、や、やっぱ、やめておく」


 奥を指すと、文句を垂れる側が急に押し黙った。彼らにしか分からない言葉だろうが、両者共に顔色が良くない。触れずに晴嵐は人数を尋ねた。


「生存者の人数は?」

「数だけなら百人近いか、超えていると思うが……」


 答える二人の歯切れは悪い。負傷者がいて、防衛戦力に加えられない……のだろう。ある程度予測を交えて、答えやすいように誘導した。


「動ける人間の数は?」

「半分以下……いや、四分の一以下だ」

「おいおいおい……」

「……高齢の人や女性、負傷者だらけなんだ。おまけに全員、戦闘は素人……」

「ちゃんと戦えるのは、アンタ含めても十人いるかどうかさ。だからその、なんだ。アンタ一人が来ただけでもビビってたって事」

「今までよく耐えたな」

「誰も真剣に攻めて来なかったんだ。撃ってくる相手に、撃ち返すのに夢中で」


 実際その通りだ。自分の身を守る、自分の欲を優先する。その人間同士で激しく互いに殺し合う光景が、上階で繰り広げられている。重く響く振動が伝わり、まだ戦闘中であることを示していた。

 柄じゃないが……晴嵐は安心させるように告げる。


「大丈夫だ。俺がここに向かう事は『文明復興組』に伝えてある。暴動が鎮圧されたり、ここに救助に来る人間が来たら……彼らと判断して良いだろう」

「名前は分かるか?」

「……晴嵐がここに様子を見に来た、と言えば彼らなら通じる筈だ」

「待て待て、アンタここから出ていく訳?」

「違う。万が一……俺が死んだときの話をしている。その時は『自分たちが殺したのではない』とちゃんと弁明を用意しておけよ」

「起こるのか? そんな事?」


 彼らの疑問を遮るように……地上階と繋がる階段から、いくつかの足音が聞こえて来た

……

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