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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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奴隷たちとの会話

前回のあらすじ


復讐に走る者、覇権主義者のトップの座に座ろうとする者、殺意と欲と復讐心で暴走する人々。一体誰を救うべきなのか分からず、無線機に声を吹き込む晴嵐。まだ時間がかかると答える宇谷。救うべきは誰かと考える晴嵐。子供の証言を元に、晴嵐は本拠地の地下に向かう……

 室内の電源装置は生きていた。ライトや警報装置、スプリンクラーも正常に起動中。問題は内部で激しく銃撃戦を繰り広げたせいで、機械たちがやかましく鳴り響いている事か。

 煙を検知すれば、消火装置は役目を果たそうと水を吐き出す。リノリウムの床材はびしょ濡れで、今も土砂降りの雨のように降り注いでいた。恐らく、銃弾や手榴弾の煙を検知したか、破片でも刺さって誤作動したか……


(うっとおしいが……これは使える)


 銃撃音と爆音だけじゃない。雨音に気配を紛れさせれば、音で感知される危険性は大きく下がる。視界も決して良好とは言えないが、これもこれで都合がいい。線状に降る水の粒が、人間の認知能力を下げてくれる。

 ――滴る液体に、朱色や黒が混じっている事は無視する。とっくの昔に麻痺しているのかもしれないが、もう晴嵐は気にしない。ただ一つ、無事でまともな人間が生き残っている事を信じ、警察署内の地下を目指した。


「地図は……当てに出来そうか」


 建て替える時間も技術も、資源も無い。今ある物を軽く改造するのが手一杯の筈だ。彼が頭にたたき込もうとする間に、またしても激しい炸裂音が響く。

 慌てて近場のトイレに身を隠す。直後、激しい光が周囲を焼いた。キーン……と耳障りな高音が耳朶の奥まで貫き、ぐらりと晴嵐の感覚が揺らぐ。

 ――音が、聞こえない。脳髄を直接シェイクされたような気分だ。まともに動かない頭でも、敵の攻撃と察する。より奥の方まで撤退し、個室の中で立てこもる。

 直後、またしても閃光と高音が飛んでくる。即死しないだけマシだが、感覚がぐちゃぐちゃだ。


「これは……閃光手榴弾か……?」


 非殺傷兵器の一つ。音と閃光で感覚を潰す兵器だ。特殊部隊が鎮圧用に装備する場面を見た気がする。直後に指先に振動を感じる。恐らくは銃器……

 音が聞こえない中で、振動を頼りに敵の位置を探る。スプリンクラーと混じり、判別が難しい。ともかく静かになるまで待つしかない。やっと戻った感覚で通路に戻ると、新鮮な赤色が壁面に散らばっていた。

 絵具にならずに済んだ幸運に、感謝する余力もなく……緊張したまま晴嵐は地下を目指す。曲がり角の先、階段を足音を消して降りると、誰かの話し声が聞こえてくる……


「この期に及んで、おめぇの指示なんざ聞きたかねぇよ!」

「落ち着け! 上の音が聞こえるだろう! 相当えげつねぇ事になってる……ここで大人しくした方が安全だ!」

「うるせぇ! お前も奴隷のくせに偉そうにするんじゃねぇよ!」

「冷静になれと言っているんだ! 身分云々にこだわっている場合か!?」


 また不毛な言い争いか? これ以上は勘弁してほしい。見捨ててしまおうかと湧き上がる本音を押さえて、壁越しに晴嵐は話しかけた。


「そこの連中……声が聞こえるか?」

「!? げ! ほら見ろ狩り殺しに来やがったじゃねぇかよ!」

「阿保か! その気なら最初から奇襲している。悠長に話しかけたりしねぇよ! ……味方と素直に断言も出来ないけどさ……」


 不幸中の幸いは、片方の理性が無事な点。会話は可能と判断し、淡々と晴嵐は自分の立場と情報を伝える。


「俺は今『文明復興組』の依頼で、ここにいる。無事な人間がいれば『北のコンビニ跡地』に誘導する話だが……」

「この現状を見て物を言えよ」

「わかっているよ。ここから逃げ出せなんて言えるもんか。戦場って物を見た事は無いが、今この場はほとんど変わらんだろう。仲間を仲間と認識していない分、もっとひどいものかもしれん」


 顔は合わせていないが、壁越しに透けて見えるようだった。理性の残った男は、深く深くため息を吐く。隣で言い争っていたもう一人は、発狂寸前の声で訴えた。


「や、破れかぶれに脱出するのは!? こんな所にいたら気が狂う!」

「全員まとめて重機関銃でミンチになるか、手榴弾か銃弾で死ぬか、恨みと怒りで狂った奴隷に虐殺されるか……外に出るなら、どれで死ぬかの運試しが出来るぞ」

「い、生きて出られるって出目は無いのかよ!?」

「よっぽど慎重に動くか、運が良くなきゃ無理だ。俺だって、ここに侵入するのは……覚悟を決めて進むしかなかった。それでも賭けたいなら好きにしろ」


 進むのは、間違いなく地獄行きだろう。少数づつ脱出するならともかく、足手まといを連れてぞろぞろと逃げ出すのは無理。だから晴嵐は、次善の策を通知した。


「幸い……上の連中は派閥ごとの争いに身を投じてる。脱出した奴隷は逃げるか……今までのうっぷん晴らしに明け暮れている。まともな奴なんていやしないが……『文明復興組』の連中は、無実の人間は救出してくれるそうだ」

「えっ!? マジ!?」

「本当か?」

「本当だ。子供の泣き声を聞かせたら一発だよ。……もう一段、戦闘が激化する危険もあるが。だから……」

「巻き添え食らわないように、ここで待機していろ……って事を言いたいんだな。あんたは」


 話が早くて助かる。やっと会話できる相手に胸を撫で下ろした。


「そうだ。外に出たら巻き添えを食うぞ。俺もこの付近で待たせてもらうが、構わないな? 今から救出の手引きする余裕もない」

「は?! 戦闘で死にかけの奴ほっとく訳!?」

「こっちの命の保証が無いだろうが。あいにく、自分の命が一番なんでね。俺はヒーローでもスーパーマンでもない。救いの手が来る目処があるだけ、マシだと思ってくれ」

「おい、本当なら話をさせろ! 証拠はあるのか証拠は!?」


 やかましい奴ががなり立てる。こっちとはあまり話したくないが……しかし宇谷へ、現状の報告も必要だろう。もう一度無線機を握りしめるが……晴嵐に聞こえるのは、ノイズだけだった。


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