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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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地獄の窯へ

前回のあらすじ


抗争の現場で、救うべき人間を探そうとする晴嵐。けれど、奴隷身分と推察される連中は、晴嵐を見かけても攻撃してくる。説得する努力はしたが、それでも命を狙われれば、やり返すしかない……

 人の罪とは何なのだろう。クソッタレな現場の中で、ぼんやりと晴嵐は考える。

 銃声は激しく、抗争は険悪。闘争は過熱し、生命は霧散する。文明が壊れてしまったこの世界において、珍しい事じゃないが……急激に消耗している現場な事は確かだ。


「何故だ。何故……誰も逃げようとしない……?」


 厳密には、ちゃんと逃げる人間もいる。接触した三人組の奴隷、一人だけ逃げ出した覚えもある。晴嵐が見ていないだけで、他にも逃げ出した奴もいるに違いない。ここまで激しく抗争が燃え広がる前に、自らの身を案じて、そそくさ逃げ出しているに違いない。


「自分から地獄に飛び込まなくても良いだろうに……!」


 そうは言いつつも、感情は全く理解できない訳じゃない。

 解放された『奴隷』の人間たち。人でありながら、人扱いされなかった者達。その人間は『自由』を渇望するだけじゃない。今まで自分を拘束していた存在に対し、復讐を願っていたのだろう。

『覇権主義者』という檻の中で、使われているだけだった人間。この世界を、この社会を、砕け壊れて、等しく地べたをはい回る瞬間を願っていた。自分でも容易に殺し得る場面を望み……それが叶った瞬間がこれだ。


「お前……お前ぇっ!!」

「ふざけんな奴隷っ! てめぇら無能は俺らに使われてりゃいいんだよ!」

「この野郎っ! 俺は、俺たちは人間だ! この日を……この日をずっと、俺達は待っていたんだ……!!」

「や、やめ……!」


 どこで、誰かとは考えない。結末は単純だった。途切れる高圧的な人間の声。響くのは鈍器の打撃音。笑い声も聞こえてくるが、不快極まる奇声と処理。動物の鳴き声としか思えない。少なくても……救うべき人間とは、思えなかった。

 それがどんな社会であろうとも、それがどんなグループであろうとも、崩壊する瞬間に立ち会う人間は、その本性をあらわにする。

『覇権主義者』は……結局、極めて強力な『初代主導者』による統率により、組織として体裁をしていた。たったのそれだけだった。トップを失った瞬間に……彼らは自らの獣性に、呑まれてしまったのだ。


「……逃げろと言って何人が聞くんだ。この状況」


 命あっての物種。けれど、人の思想は人それぞれ。命を優先する人間もいれば、命を賭けて復讐に走る人間もいる。そこに正当性云々の話はナンセンスだろう。欲望をむき出しにした人間に、善も悪も無いと思い知らされた。

 依頼を遂行しようにも、そもそも『安全な場所に逃げる』という発想が頭から抜けている。ぼろぼろの格好の――『復讐に取り付かれた覇権主義者の奴隷階級』は、無視した方が良さそうだ。


「かといって……『覇権主義者』の連中が聞き入れる訳がない」


 今まで敵対してきた組織の軍門に下る……と、彼らなら解釈するだろう。今までの主張を投げ捨てて、生き残る事を優先する?

 あり得ない。それこそ命が惜しい者は、戦闘開始直後ぐらいに脱出している。この地獄を形成しているのは、空白となったトップを巡って、派閥ごとに敵対し、交戦を始めた事がきっかけだろう。子供の護衛者は、優先すべき対象があったから、どうにか指示に従ったのだ。

 ――地獄を作ってでも、覇権主義者のトップの座は魅力的に映るらしい。一体どれだけ欲望を膨れ上がらせれば、この地獄を許容できるのか。一人生き残る事で手一杯な晴嵐には、全く理解できない心情だ。

 迂闊に進めない。しかし引けない。じれったくなった晴嵐は、無線機に声を吹き込む。


「おい宇谷……話はどうなった!?」

『晴嵐か? 状況は?』

「悪化している! 話をつけようにも……どいつもこいつも狂ってやがる! 対話できるような心情じゃない! 力ずくで武器を置かせるしか……」

『……分かった。最初から全火力を集中させる。子供だけでもどうにかならないか?』

「居場所が分からん。逃げたのか、死んだのか、どこかで縮こまっているのか……」


 会話しながら、晴嵐は思い出す。確か『元警察署地下に、留置所を改造した施設がある』と。そこなら比較的安全であり、生存者の可能性が高いと。


「――確か、地下なら生存者がいるかもしれんと子供から聞いた。隙を見て潜入する。後で増援を送ってくれ」

『……なんだ。柄でもない。お前も子供に当てられたか?』

「地獄に進んで飛び込んだ奴らの戦いに……地獄を見たくない奴を、巻き込ませたくないだけだ」

『……同感だ』

「死んだら、骨は拾っておいてくれ」

『は、そんな弱気じゃ死ぬぞ』

「そうだな――絶対に生還して見せる。これでいいか?」

『多くは言わん。出来る範囲でやれ』


 難しく考えるのは、やめだ。無線越しのまっとうな会話を最後に、晴嵐は迷いを断つ。

 結局……二足歩行していようが獣は獣。晴嵐にだって諸々の欲は存在する。やりたいようにやるしかない。何を求めるか、何を望むのかは、自分の腹の底を見つめるしかないのだ。

 ――散々、厳しい言葉を口にし、言動も刺々しい晴嵐。

 けれど彼は、決して自分の役目を投げ出す事は無い。建物内での爆発音が聞こえる。銃座の人員が引いたタイミングで――晴嵐は、元警察署内部の地下へ侵入を果たした。


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