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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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会話不能

前回のあらすじ


只者ではない子供。追及をしたいがはぐらかされる。無事な人間を『北のコンビニ跡地』に誘導する任を受けたと答える晴嵐は、護衛者の説得を試みる。半端な年の方が取り返しが聞かない。ゴネるかと思いきや素直に引き下がる。別れ際に子供から、手製の爆弾を受け取り、晴嵐は再び地獄に身を投じる……

 晴嵐は地獄を見た。それはかつて見た『交換屋』で見た物とは、似て非なる惨状と言える。敵の急襲を受け、戦場めいた鉄火場は同じだ。しかしその内容は……『化け物の奇襲攻撃と、内部からの見張りと組織の腐敗』な事と『同じ組織に属していた人間同士での、憤懣と怨恨を交えた激しい戦闘』な点だろう。

 爆弾も、銃声も、同じ知性を持つ人間同士が、相手をブチ転がそうと放つ殺意。殺すしかない化け物と違い、共に生活した相手同士での泥沼の殺し合い……


「いや、違うか……ここの主義を考えると」


『覇権主義者』――力と暴力、能力こそがすべての組織。となれば同じ所属であろうと、競争相手でしかない。組織特有のルールもあるのだろうが……何かの拍子に外れた途端これだ。

 晴嵐の武器は加賀さんの形見、残弾僅かの拳銃とサバイバルナイフ。煙幕は消費したが、子供から貰った缶詰手榴弾が三つ。どこまで信用して良いか分からないが、少なくても時限式で晴嵐をハメる罠では無さそうだ。

 銃は握らず、刃物と手榴弾を手に地獄に居座る晴嵐。時折響く重機関銃。建物からの射線に最大限注意し、どうにか侵入できないか観察するが……


「難しいな……発見されたら終わりだ」


 装甲車でさえ貫く砲台は、人間相手にオーバーキル。貫通力、連射力、攻撃性能……どれをとっても危険の一言。宇谷曰く『絶対に見つかるな』『祈れ』と語るだけあり、一個人ではどう足掻いても勝ち目はない。

 しかし、常に銃座に人間がいる訳じゃない。建物の中でも激しく撃ち合っており、派閥に分かれてドンパチやっている……のだろう。恐怖はあるが、タイミングを見れば接近は可能だ。問題は――


「逃げない奴は奴隷だ! 逃げる奴はよく訓練された奴隷だ! ほんとココは地獄だぜぇ~~っ!! フゥーハハハハハッ!!」


 どこからか聞こえる、実に楽しそうな笑い声。大量の重機関銃が火を噴き、射線に立つ人々を薙ぎ払っていく。なんとか数名抜け出してきた、ボロボロの衣服の人々と晴嵐が鉢合わせると、すぐに向こうは銃を向けた。

 説得する間もない。急いで小型のナイフを投擲。指を狙った一撃に怯み、銃器を取り落とした相手に足払いをかけた。

 残るは二名。幸い銃を持つのは一人だけのようだ。刃物を握りしめ、晴嵐を狙うもう一人の動きは拙い。へなへなと突き出される腕を、見てから避けて腹部、胸、喉と、テンポ良く拳を叩き込みダウン。最後の一人は女。震えあがり、武器こそ握っていても完全に竦み上がっていた。

 今なら交渉できる。油断はせずに、淡々と伝えた。


「……おい女。俺は敵対する気はない。争う気が無いなら……武器を捨てて、北のコンビニ跡地に向かえ」

「な、な、何よ……あんた何者な訳?」

「ただの雇われだ。覇権主義者の仲間じゃない」

「本当に……?」

「信じるか信じないかは好きにしろ。ただ――このまま地獄に留まって、良い事があるか?」


 奴隷身分の人間たち。わざわざ脱出の機会を得れたのだから、留まる道理もない。話を聞いた女は戸惑い、晴嵐が指さすと、すぐに走り出す。だが、晴嵐にいなされた人間たちは、恨めしい目つきで再び殺意を振りかざした。

 ――攻撃される理由はない。あるとすれば殴られた程度。けれど……何もかも失った貧者には、些細な傷さえ激情に値する。――警告はした。今度は本気で、晴嵐はボロボロの相手と対決した。


「見下してんじゃねぇ! おれたちは人間だ! 奴隷なんかじゃない……!」


 誤解と知りつつ、晴嵐は容赦をしない。

 一度目は加減した。格好が『子供を囲んでいた連中』と同一であり……『覇権主義者』の制服である、警官衣装を身に着けていないから、判別は容易の筈だ。晴嵐もやや色落ちてこそいるが、一般的な洋服を着用しており、その差を理解できない訳が無い。

 激情に飲まれ、判断力を失った馬鹿者……遠巻きに見るなら別にどうでもいいが、襲い掛かってくるなら、敵だ。逃げ出す女とは違って、刃物を握り、唾を吐いて、顔を激しく高揚させて二人は襲い来る……


「この……馬鹿どもが!」


 説教をする時間はない。分かりあう余地も無い。ならば争うしかない……何に怒りを抱いたのか分からぬまま、晴嵐は二人組を同時に相手にする。雑魚相手なら余裕と侮ったが、しかし思いのほか苦戦を強いられる……

 片方の突進を避け、意識を刈り取ろうと肘鉄を構えた。が、その脇から迫る別の殺意に反応し、咄嗟に晴嵐は身を引く。刃物が風を切る音。反撃で手首を掌打しょうだするが落とさない。ぐらりと揺れる相手。追撃は別の相手に阻まれる……


(……雑魚でも、二対一は不利か)


 数的優位を侮っていた。二回分別々に行動できる優位を。一応まだ『無力化』を考えていた晴嵐だが……苦々しく、晴嵐は腹を決める。

 同時に飛び掛かる両者。すっ、と身を引き、晴嵐は敢えて背中を見せる。弱り目を見せた相手に追いすがり――晴嵐は、反転と同時に投げナイフを投擲した。

 狙いは首筋――片方に集中して投げられたソレが、勢いよく血を吹き出す。呆然と目を向いて、そのまま目玉が上方向にグリンと剥き、どしゃりと地面に倒れる。もう一人が呆然とする中、無造作に晴嵐はサバイバルナイフを振っていた。


 ――晴嵐は、最初は命を奪う気は無かった。説得が通じると思っていた。恐らく奴隷な事も、憐れな身分な事も想像がついた。

 ――だから、積極的に殺す気は無かった。最初は。

 けれど、敵として時間を取られるのも、一方的に不当に暴力を振るわれるのも違う。説得する努力を捨てたのは確か。正当防衛と訴えて通るのだろうか? ……ともかく、気分が悪かった。


「……何を以て、無罪とするのかね。『文明復興組』の連中は」


 二つの死体を見下ろして、晴嵐はぼんやりと呟く。

 死体は、何も答える事は無かった。

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