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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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禁域に潜む者

前回のあらすじ

洞窟の探査に当たるシエラとは別に、逃げたオーク達を追撃する村の兵士たち。十二分な打撃を与え、壊滅は時間の問題に思えたが……オーク以外が侵入できない『グラドーの森の禁域』に阻まれ、追撃を断念した。

 必死の思いで逃げ切った、十数名のオークたち。

 一時は方向さえ見失ったが、群れの長は最速で禁域に駆け込んだ。

 この土地で縄張りを作る最大のメリットだ。オーク達は便利な石を使わずとも、身体にはっきり染みついている。我先にと安全地帯に身を隠し、後から他の仲間たちも続いた。

 全員一人残らずボロボロ。長も代用品の大剣が傷だらけで、豪奢な首飾りも……落ちのびた後では逆に虚しい。凄まじい憎悪を瞳に宿し、長は吼えた。

 

「クソっ! スーディアめ……!」


 殴りつけた樹木が悲鳴を上げ、緑の葉が大量に落ちていく。八つ当たりで何度も殴り飛ばし、理不尽に一本の木が倒壊した。

 長が愛用していた大剣。アレさえあれば、魔法の旗の効果を押し返せた。破壊した反逆者のオークを名指しし、悪態をつく心理は分かる。

 さらに言えば、混乱を巻き起こしておいて……スーディアはこの場にいない。時の巡り合わせ、運がいいだけとも呼べるが、余りに理不尽だと彼らは嘆いた。

 しかし不幸は終わらない。

 群れの一人、髪のない頭部の一点に……小さな赤い光点が灯る。知識がない彼らには、それが狙い定めるポインターだと気が付かない。


 ダーンッ! 


 独特の高音が鳴り響く。一斉に鳥たちが飛び立ち、驚いてその音源から離れた。当然、オーク達もその音に身震いする。方角を探し、各々武器を構えた。……一人を除いて。

 光点の灯っていた箇所から穴が空き、目を見開いたまま頭部に小さな穴を空けて、噴水の様に血が噴き出る。全身を巡らせる鼓動のたびに、共に逃げた仲間の顔が、青ざめ土色に変わる……


「『悪魔の遺産』!?」


 グラドーの森、禁域の深部には……決して踏み入れてはいけない。何故ならそこには、恐ろしい守護者がいるのだから――そんな伝承が、グラドーの森を根城にする、オーク達に語り継がれている。

 恐ろしいだけの、ただのおとぎ話だ。そうは思っても、そこはかとない恐怖が、深部に踏み込むのを避けていた。敵に追われ、壊走と狂乱で理性を失うまで。

 噂話の真実を――オーク達はその身で体験する羽目になる。

 甲高い破裂音が森に響く度、身体に鮮血を噴く穴が生まれる。皮製防具を雑布の様に貫き、急所を穿たれ、死んでいくオーク達。


「く、くそっ!」

 

 群れの一人が『鎧の腕甲』を起動し、全身を魔法の鎧で固めた。続けて『盾の腕甲』を持つ者も、魔法の防壁を周辺に展開する。互いの背をかばい合うように広がり、全方位に魔法の壁を張って隙間なく覆う。淡い光の魔法の壁は……次の高音で一点が砕け散った。

 魔法の鎧も、魔法の盾さえ容易く破り、『悪魔の遺産』は一方的に屠っていく。ただ壁を壊すのではなく、そのまま急所を『貫通』して、オーク一人の命が奪われた。

 見えない敵からの、防御不能の即死攻撃。ただ狩られるしかないオーク達は、恐怖が絶望に変わり足を止めた。

 膝を折る者。額を地面に擦りつける者。武器を取り落とし、引きつった笑みで天を仰ぐ者……心を折り、ただ死を待つだけの彼らへ……異形の死神が降り立った。

 ゴーレムに似た、白い金属質のボディ。流線型を模したそれは、一般的な規格に非ず。基本的にゴーレムは角ばった材質なのに、異形はまるで……まるで無理やり、金属で人型を作ろうとしたような、ある種歪んだ造形に思えた。人に近い四肢と胴体があるのに、そのくせ顔面はつるりと、部品一つない卵のような頭部をしている。薄気味悪いソレが、冷たく淡々と音声を発した。


「自民族至上主義に基づいた、生体浄化装置を十数体確保。魂魄洗浄ロンダリングを申請中」

「な、な、何言って……」

「魂魄値の増大を確認。殺処分を実行」


 腰の後ろに差した『悪魔の遺産』を両手で握り、口答えしたオークへ向けると


 ダダダダダダダダッ!


 連続する破裂音と共に、肉体が穴あきチーズのように虫食いになる。踊るように肉体を痙攣させた仲間は……べちゃ、と自らの血の海に倒れ、動かなくなった。

 長含むオーク達は凍り付いた。『悪魔の遺産』の一部を取り外し入れ替え、周辺に小さな金属の筒が飛び散ったが、そんなものに注視する余裕はない。

 勝ち目がない。逆らってはいけない。頭が恐怖と警鐘でいっぱいになり、立ちつくし相手に合わせるしかない。どっと汗を噴き出し、四肢を巡る血流の音がやかましかった。

 どれほどの時が経過したのだろう? すぐの気もするし、長期間な気もする。どこまでも冷たい人型は、事務的な音声を垂れ流した。


「承認を受諾。洗浄開始」


 直後、奇妙な高音波がオークに浴びせられた。脳の奥底に響く音波が、何の痛苦も無く意識を混濁させられていく……抗おうにも抗えぬ。奇妙な何かが、オーク達から精神を削いでいった。

 すべすべした金属のマネキンが、瞳も口も耳もなく……奇妙で不気味なそれが、無機質に見つめている。薄れゆく意識の彼岸で、瞼を重くして長は人型を見上げる。ソレは最後、微かに感情を宿した声で、地に伏せる彼らへ宣告した。


「もう一度働いてもらいます。我々地球人のために」


 何故だ何をと問う間もなく、オーク達の意識は闇に沈む。

 それを最後に、二度と彼らの意識は戻ることはなかった。


 第一章 異世界編 完

用語解説


悪魔の遺産

詳細不明。ただし共通の特徴として『作動時に破裂音がする』『肉体に穴を空けて殺傷する』『魔法による防御を貫く、高い貫通力を持つ』『遠隔から一方的に攻撃できる』特性を持つ。


謎の人型

金属質なのに、流体系の人を模した人型。侵入不能の禁域に潜む謎の存在。最後『地球人』といった単語を用いていたが……

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― 新着の感想 ―
異なる世界線の未来もしくはナウシカ的な未来 人類の生存圏に出回ってるのは禁域のおこぼれくらい?
[気になる点] やはりこの世界で日本語が使われているのは地球人が何かをしたのか?
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