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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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泣き落とし

前回のあらすじ


煙幕を使って子どもを救出を試みる晴嵐。護衛者も呼応し走り出すが、向かう先は中央の建物……銃座の置かれた建物に近づいていく。危険を感じつつも何とか通過し、追いかけて来た敵はバラバラになる。これを計算していたらしい子供にぞっとする中、無線機が再びなり始めた。

 今更ながら、迂闊さを呪った。戦闘中に居場所を知らせる危険性があったのに、無線機の電源を落としていなかった。もし子供を救う寸前に鳴り出したら……先に居場所が発見され、自分の身を守る事で手一杯になっていた可能性が高い。一歩間違えば地獄行きだからこそ、慎重に立ち回らねばならないのに。

 ちらりと子供と護衛者を気にしたが、結局は無線機のスイッチを入れる。応答相手は宇谷。珍しい事に、安堵するような吐息が最初に聞こえた。


『晴嵐……無事だったか?』

「なんとか、さっき目の前で人間が肉塊になった所だよ」

『負傷は?』

「問題ない。だが、どいつもこいつも殺し合ってる。子供でも容赦なしだ。何とか一人保護したがな」

『本当か? ……それは使えるかもしれん』

「は? 一体何の話だ」

『誓って悪いようにはしない。その子供、話せるか?』

「話せ過ぎで怖いぐらいだが……少し待ってくれ」


 ちらりと目線を向けると、子供の目つきはむしろ、どこか腑に落ちたように見えた。こちらの腹を見透かすような雰囲気に、改めて背筋に冷たい物が走る。妙に頭の回る子供は、既に晴嵐の立場を読み取っていた。


「……雇われたんですね。誰かに」

「……そうだ。対価は後払いだがな」

「ですよね。こんなリスクある現場に、理由なく飛び込む訳が無い」

「ハイエナ狙いも間違っていないぞ」

「にしてももう少し落ち着いてから、落ち武者狩りの方が安全でしょう。で? なんでこっち見ているの? まさか依頼者の希望? 話すにしたって、隣の彼の方が……」

「そのまさかだよ。子供をご指名だ。理由は知らん」

「ふーん……分かった。貸して」


 一応攻撃を警戒していたが、素直に子供は無線機を受け取る。子供も子供で淡々としていたが、頷いたかと思えば、急に年相応の涙声で訴えた。


「力のある人たち同士で、自分が次のトップになるんだ……そう言い合いながら、気に入らない人間を見つけては、殺し合っています。騒ぎに乗じて奴隷扱いだった人も、牢から脱出していますけど……今まで虐げられた怒りと憎しみで、誰彼構わず襲い掛かってきます。ボクも囲まれて危なかったんです。でも、その、たまたまこの人と、護衛してくれる人がいたから助かりましたけど……」


 さっきまでの神童っぷりはどこへ置いていったのか? 数回宇谷と話したかと思いきや、急に弱弱しい子供の様子で、現状をどこかに伝えている。急変っぷりに寒気がしたが、子供は晴嵐の事など気にせず、無線機に声を吹き込み続ける。


「ついさっきだって……後ろにいた人が重機関銃マシンガンで……父さんや母さんも無事かどうか……こ、ここには無実な人も、奴隷の人も、そして子供だってたくさんいるんです! 戦う気のない人だっているんです! お願いです! 早く! 誰でもいいから助けて下さい……!」


 しゃっくりのような、上ずった嗚咽を漏らし、泣いているような声色を発する。しかし無線機を握る子供は、そこまで顔は崩れていない。どう見ても演技。しかし表情が見えない向こう側では効果的だったのか、子供の声色は明るくなった。


「ほ、本当ですか!? あ、ありがとうございます! あ、で、でも中央の建物には近づかないで下さい! 二階の窓から、いくつも銃座があるんです! ……安全な場所? えぇと……そうだ! 北側の元国道沿いに、物を取り尽くしたコンビニ跡地が……そこに集まる様に言ってみます! え? あ! そうですよね! 元の人に返します」


 上ずった、子供特有の高い声で訴え、無線越しにも何か憤慨するような声が聞こえてくる。余韻の音声の中、晴嵐に無線機を返す子供はニヤリと笑って見せた。

 見事に大人たちを手駒にとって、望む形に誘導した……空恐ろしい子供である。思いっきり眉を吊り上げ、不機嫌を前面に押し出した表情の彼に対し、宇谷は気が付いたのかそうでないのか、どっちとも取れない返答を寄こした。


『上手く行った……子供の泣き声は効果抜群だ』

「何の話だ?」

『覇権主義者拠点に赴き、無事な人間を救出すべきか否かで、議会が荒れていた。今の子供の声を全員に聞かせたよ。『救援すべきだ』とやっと話がまとまった』

「……単純だな」

『言うなよ。現地の情報が無きゃ迂闊に動けん。それに『覇権主義者』と、戦闘の機会もあった。理想は高くても、綺麗事で感情は……いや、動いたな。たった今』

「俺はお役御免か?」


 増援の隊が来るなら、偵察を依頼された晴嵐は引き上げを考えたい。子供相手に無茶をしておいて今更だが、これ以上の危険は考え物だ。宇谷も少し考えて、曖昧に要求する。


『可能な範囲で踏みとどまり、要救助者と思われる人間を……今その子供が指定したポイントに誘導してくれ。誰を優先して救出するべきか、どこまでを敵として排除するのか……判断と裁量はすべてお前に任せる』

「難しい事を言ってくれる……ここは闇鍋状態だぞ? 後で代金上乗せするからな!」

『死なない程度に無茶してくれ』

「あいよ」


 戦火の中で避難誘導……ただの偵察依頼が、とんだ事態に発展したものだ。しかし地獄の窯の中に、子供が投げ込まれる光景を傍観するのは、確かに忍びない。

 苦く唇を結ぶ晴嵐の顔と、どこか見透かしたような子供の目線が交錯した。

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