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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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覇権主義者の子供

前回のあらすじ


共食いを始める元『覇権主義者』の拠点。重機関銃が唸りを上げ、激しい抗争中な事を伝える。無線で状況を知らせると、無実の人間を救出すべきと『文明復興組』は考えているらしい。偵察依頼を受けた晴嵐が目撃したのは、みすぼらしい人間の群れに囲まれる、子供と護衛者の姿だった。

 子供は一人、護衛も一人。囲む敵の数は無数。どう見ても無謀な戦いだが、まだ晴嵐の中にも甘さが残っていたか。久々に目にした子供に対し、寄ってたかって悪意ある目線で囲む光景に……大半の人間は、吐き気がするものだ。

 ただし、正面から戦うほど無謀じゃない。すぐに晴嵐は煙幕を取り出し、いっぺんに三つ、面状に煙を食らわせた。

 この間に救出を……と考えたが、隣の護衛者と子供の反応も早かった。一瞬で護衛者側に子供が近寄り、護衛者は一瞬で肩に担ぐ。煙を突っ切り接近した時には、既に逃走に入っていた。

 抜群の判断力に舌を巻きつつ、アイコンタクトで敵意の無さを示す。今までの悪意ある目線との違いを瞬時に判断。晴嵐を背に護衛者と子供が走り出した。

 が、その行き先に晴嵐はぎょっとする。向かう先は元警察署……先ほどまで重機関銃マシンガンが鳴り響いていた場所だ。現に二階の窓から、黒光りする銃身バレルが顔を出している……


「おい、大丈夫なのか!?」

「賭けだ。アレを利用する! 速く走れ!」

「クソが。死んだら化けて出てやるからな!」

「死んだら塵になるだけだよ!」

「――喋るなガキ! 舌を噛むぞ!」


 破壊力は目にしていないが、聞く限りでも恐ろしい。護衛者は大したもので、子供一人担いでいても速力が落ちない。今は無言の銃口の前に姿をさらすが、窓で見張る一人と目が合い、晴嵐はぎょっとした。

 向こうもギクリと肩を震わせ、大慌てで誰かを呼ぶ。危険を感じた晴嵐は追加の煙幕を展開。銃と自分の間の視線……射線を煙幕で塞ぐが、気休めにしかならない。


「上にバレたぞ! 急げ!」

「建物の奥、曲がり角に飛び込め! 射角の外に!」

「あぁクソ! どうにでもなれ!!」


 あふれ出る殺気を煙越しに感じ、三人は全速力で窓の死角に逃れる。直後に響く重機関銃の咆哮は、人を食らう魔物が、獲物を捕らえ損ねた不満をまき散らすようだ。

 煙幕は弾丸のソニックブームで霧散。抉れる大地。飛び散る跳弾。積まれた土嚢もはじけ飛び、暴威を存分に見せつける。あと少し遅れていたら……と恐怖が今更湧き上がり、晴嵐は冷や汗を拭った所で、子供が懐から拳銃を抜いていた。

 リボルバー拳銃……日本警察が用いている、軽量で小型のタイプだ。故に……10歳前後に見える子供でも、扱う事が出来るサイズ。戸惑いながら向ける銃口に、晴嵐は何のマネだと問いかけた。


「……目的はなんですか。ボクを助ける目的は」

「つい助けちまった……では、納得しそうにないな」

「ここに……覇権主義者ココにそんな良心的な人間がいるとは、知りませんでした」

「そりゃそうだろうな。俺は外部の人間だ。ココに出入りしていた『交換屋』だよ」

「は……? い、いや、にしたってここまで踏み込まなくても……嘘をついてるの?」


 本当にコイツは子供だろうか? 銃を向け、詰問する様は、大人連中とそう変わらない。早熟な子供に対し、護衛者が助言を添えた。


「いや……御曹司、本当です。確か個人勢の……晴嵐だったか? 子供用の諸々を注文した覚えがあります」

「……例えば?」

「パズルやら、哺乳瓶やら……幼児用の物もいくつか。間違いありません」

「その『交換屋』が、こんな地獄にわざわざ来る? ……いや、来るか。ハイエナ狙いで。なのに子供は助ける訳?」

「悪かったな半端者で。にしてもお前、頭が回り過ぎだろ……俺がその年の頃よりしっかりしている」

「子供かどうかなんて関係ありません。弱い者、使いにくい者、価値のない者は使い捨て。強い者により資源と力を集中させる。子供同士でも同じです」

「英才教育が過ぎるだろ……」


 実に『覇権主義者』らしい主義主張だが、子供にまで押し付けるのはどうなのか。別に恩を売る気はないが、銃口を向けたまま素性を問われる展開は、考えていない。

 ただ、不信感を残しつつも……晴嵐に敵意が無い事は納得した。銃を下ろし、妙に鋭い目線の子供が、護衛者に気遣う。


「ヨモ、大丈夫? 何度か刺されてた。止血する。動かないで」

「御曹司……しかし追手が」

「大丈夫。あなたも手伝って。しばらくここは安全だから」

「どうだかな……俺は見張りをやる。見ず知らずが手を出すより良いだろう?」

「……見ない方がいいと思うけどね。でも一理あるからいいや」

「何?」


 どうもこの子供、傷の処置まで出来るらしい。親の顔が見てみたいが……彼の思考は、追手によって遮られた。

 例の、みすぼらしい大人集団だ。晴嵐の煙幕を振り払い、大勢こちらに向かってくる。マズイ、と身構えた刹那、晴嵐は奴らも怯える場面を目にした。

 ――先ほど晴嵐たち三人を仕留め損ねた銃座。重機関銃は大人たちを発見する。恐らく晴嵐たちの飛び出しを警戒していたのだろうが、別の人物を発見し、ぐっと銃口を向ける――


 映画で見たような光景だった。無数の人の群れ。固定された銃座。鳴り響く重低音と排莢音。だが、絶賛無修正の光景は……着弾後の人間を生々しく彩る。

 腕が、指が、足が……血みどろとなって宙を舞い、内臓をぶちまけ、頭蓋ごと脳漿を炸裂させる。地獄は見慣れた筈だが、そう考えていた晴嵐をあざ笑うようだ。胃と腸がきゅっと締まり、酸っぱいモノが食道を逆流する。戻しはしないが、気分は最悪だ。


「――上手く行った。これで奴隷共の追撃は大丈夫」

「……これを計算したのかよ、お前」


 逃げ出した方向が『重機関銃』側で、自分から的になる気かと思ったが……狙いは『追撃に来た大人たちを、機関銃の的にする為』か。確かに、ただ煙に巻くより効果的だが……その判断を一瞬で下せる、この子供は何なのだ?

 恐怖半分、興味半分で子供を見つめる。判断に迷う中で、再び無線機がやかましく鳴り始めた。

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