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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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共食いの現場

前回のあらすじ


調子の悪い軽トラに乗り、取引を終えて去ろうとしたその時……番犬役の無線機が慌ただしくなった。なんと『覇権主義者』の拠点が、自壊を始めたらしい。警戒態勢に入る『文明復興組』から、去ろうとする晴嵐だが……部外者による偵察を依頼され、晴嵐は崩壊最中の『覇権主義者』拠点に向かう事に。

 軽トラを現場に走らせる前に、一旦荷物を仮拠点に置く。大荷物のまま、不要な物を危険な現場を持ち込む事は無い。同時に、状況に対応するための武器や道具を装備する。

 形見のサバイバルナイフと、加賀さんが握っていた拳銃……どこでどう、日本に持ち込んだのかは不明だが、どうも『米軍兵』時代に、加賀さんが愛用していた銃らしい。違法行為と逮捕されかねない行いだが、故に経緯を日記には書き残さなかった……のだろう。

 弾丸の補充も出来ない為、滅多な事では晴嵐も使わない。試射も出来ず、ぶっつけ本番で使う武器だ。試しに構えてみるが、妙に狙いずらい。片目を失った影響で、遠近感がはっきりしない。


(こりゃ……使いこなせそうにないな)


 映画よろしく、頭だけズバズバと撃ち抜くのは無理。狙いやすい胴を照準して、数を撃つスタイルの方が良さそうだ。

 上半身にも、どこからか拾ってきた軍用ジャケットを着用する。防弾やら防刃効果は詳しく知らないが、一般着よりマシだろう。収納も多く、銃弾の予備マガジンやら刃物やら、着衣に収納できる優れものだ。手榴弾入れには、手製の煙幕もしまい込める。準備を終えた晴嵐は、もう一度トラックに乗り込み『覇権主義者』の拠点に向かったが……


「あぁ……嫌な空気だ」


 何処の組織も、本拠点手前に見張りがいる。検問所は複数配置され、防衛線のように中央を防護する。だがしかし……とっくに機能不全は明らかだ。頭が弾けた死体が、そこら中に転がっている。さらに最悪な事に、まだ奥の方から激しい銃声や、人間同士の怒号が聞こえてくるのだ。


「『吸血鬼サッカー』じゃない。人間同士での争いだが……これは……」


 検問所手前でトラックを降りる。銃を抜き、煙幕を構え、すぐにトラック裏に隠れて周囲の様子を伺う。トラウマを刺激されたが、今は恐れている場合ではない。ハイエナ狙いで宝が生まれるのを待つ……と考えられるほど、この段階の晴嵐は、腐り果ててはいなかった。暗い顔つきで、宇谷から渡された通信機に向けて口を開く。


「宇谷……聞こえるか? 今『覇権主義者』の検問付近に到着した。酷い有様だ。みんな死んでる。しかも現在進行形だ」

『情報は真実だったか』

「あぁ……偵察と言ったが、どこまで? 奥地に入れる自信は無いぞ。流れ弾を貰いかねない」

『銃弾まで飛び交っているのか?』

「絶賛鉄火場だよ。今は――」


 続きを口にする必要は無かった。その瞬間、けたたましい重低音が連発する。素人でも分かる。これはハンドガンの銃声ではない。無線機にまで響いたのか、宇谷の絶句する気配が伝わって来た。


『晴嵐、大丈夫か!?』

「問題ない。今のはかなり遠方の銃声だが……なんだこの地響きは? ピストル同士の撃ち合いじゃない」

『気をつけろ。銃声から察するに……重機関銃マシンガン掃射の危険性が高い。お前の軽トラなんて、三秒でスクラップにされちまうぞ!』

「防弾仕様じゃないが……鉄の塊だぞ、軽トラは」

『あれは装甲車を穴あきチーズに出来る。一般車両なんざカマボコと変わらん!』

「何だよ腹でも減ってるのか?」

『お前のミンチは見たくない』

「それは同感だ」


 妙に詳しい事はさておき、事実なら恐ろしい兵器である。晴嵐が納入した覚えはないが、元は警察組織、ひいては自衛官を元にした組織なら……物騒な兵器を運用できてもおかしくない。鳴り響く重機関銃の音に負けないように、晴嵐は声を張り上げる。


「どうすればいい? 対策は?」

『防ぐ事、回避する事は考えるな。射手に発見されないように立ち回るしかない。遮蔽があったとしても、連射されたら木っ端微塵だ』

「当てずっぽうで撃ってきたらどうする?」

『祈れ』

「最高……」


 しばらくすると、何かの爆発音がする。同時に途絶える重機関銃の声。今が好機か? 最後にもう一度、機械に声を吹き込んだ。


「銃声が止まった。もう少しだけ距離を詰める。このまま情報をそっちに送るぞ」

『悪いな……今、合議も進めている。何とか無実の生存者を救う方向でまとまりそうだ』

「どういう意味だ?」

『奴隷階級があるんだよ。覇権主義者には。そっちを助けようって話さ』

「お人よしめ……何にしろ早めに頼むぞ!」

『分かっている!』


 最後は苛立ちも混じっている。向こうも向こうで修羅場のようだ。無線機を懐に収納し、武器を構えなおす。青い空の下で、濛々と黒い煙が立ち上る世界に……晴嵐は自分から飛び込んでいく。

 ジャンクやスクラップをいただく……なんて場合じゃない。死体漁りの余裕はなく、さらに少し進んだ先に、血みどろの抗争の現場があった。


「チキショウ! 加藤は!? 加藤派はどこだ!?」

「はぁ? 今優勢なのは瀬戸派だろうが!」

「和田様に従わない者には死を!!」


 各々に従いたい人物の名を叫びながら、派閥違いの相手に弾丸を送りあう。元々一つだった組織は、完全に空中分解の形相を見せていた。

 その傍らで……貧相な格好の女や男が、憎しみに血走った眼で誰かに追い打ちをかける。口々には聞くに値しない呪詛。宇谷が言う所の『奴隷』だろうか? 解放された瞬間、憎しみを解き放ったのか……危険な銃撃戦の中に加わり、手当たり次第に人を襲う。恨みつらみを吐き出し、暗澹あんたんとした悦を浮かべる姿は人とは思えない。苦々しく地獄を見つめる晴嵐の前で……再び重機関銃の掃射音が響く。


 非日常、と言えばそうだろう。コンクリート舗装の道路を抉り、醜く争い合う人間を等しく肉会に変えていく。どこかから聞こえる叫び声は、泣いているのか笑っているのか……一つはっきりしているのは、どいつもこいつも『壊れている』点。こんな光景を見ているのに、自分の身を淡々と案じているだけの晴嵐もまた、どこか壊れているに違いなかった。

 だが、それでも晴嵐は……腐り切っていないらしい。掃射が終わり、静かに重機関銃の視線を切りながら、少しずつ『覇権主義者』の本拠点に近づいてく。その時……信じられない物を見た。

 子供だ。誰の子供か知らないが、みすぼらしい男たちに囲まれている。護衛は一人だけ。既に何名か血を流し倒れているが、形勢不利は明らかだ。

 助ける義理などない。介入する道理もない。だが気が付けば晴嵐は、刃物を握りしめ人の群れに飛び掛かっていた。

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