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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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リーダー失格

前回のあらすじ


ようやく発見した裏切りの容疑者。横田と話すがまるで会話が通じない。すっかり教義に染まった男に対し、昔の事から話すことで切り口を探す。

「無理だよ大平。俺にはできない。こんな不安定な世界で……誰かを引っ張っていく事なんて……とてもじゃないが、心が持たない。責任を取れないんだよ。誰かの命に……」


 その表情は、晴嵐の知る横田の顔と同一だった。今までの……まさしく『教信者』としての人物像ではなく。豊橋農場で最初の『吸血鬼サッカー』と遭遇し、気弱で不安定な横田の顔と同じに見えた。やっと言葉が通じる状態になり、晴嵐にも理解できる言葉を発し始める。


「分かるだろ。こんな世界で人を引っ張っていくのが、どれだけ難しいか……一歩間違えば、みんなまとめてあの世行きだ。失敗が続けば『こんな使えないリーダーに、ついていかない』って……離反する奴だって出てくる。それどころか、後ろから刺される危険性だって……俺は……俺は、リーダーの器じゃ無かった。その事だけは、俺は自覚していた」


 自嘲を浮かべる横田に、晴嵐は反論がない。弱気に過ぎる発言だが、だからこそ……他者を主導するリーダーに不向きと言えよう。

 あぁ、そうかと、晴嵐はやっと察する。横田は全くリーダーに向いておらず、その気質も自覚している。しかし周囲の『交換屋』の人々は、加賀老人が見込んだ大平と横田のどちらかが『交換屋』拠点を引き継ぐと予測していた。

 しかし晴嵐は人心に無関心で、淡々と仕事をこなすタイプ。実務向けの人物に対し、会話に積極的なのは横田だった。横田本人は全くその気はないし、向いていない事も事実。だが、本人がいくら希望しようにも、周囲の期待は膨れ上がるばかり。晴嵐が気を向けていないうちに、横田の精神に負荷がかかっていたのだろう。

 ――その弱さに、宗教は滑り込んだ。


「だから……『宗教家』の人たちの所で交換しつつ、色々と相談に乗ってもらっていてさ……彼らの事を信じる事にしたって訳。俺一人で移動する事も考えたけど、しばらくそのままでいた方が良いって……素直に彼らの指示に従った」

「……俺達『交換屋』の人々は、信用できないと?」

「身近だからこそ……弱気は見せる事が出来なかったよ。みんな……大平より俺に期待を寄せていたし」

「隠しきれていなかったけどな」

「それは……そうだけど。俺の本心としては、全部投げ出したくて仕方が無かった。多くの人の命とか運命とか、背負うなんて無理だ。自分の事でさえ手一杯なのに、どうして……リーダーなんて務められる?」

「……」


 晴嵐で無くとも、一理あると頷ける事だろう。自分の事さえおぼつかない人間。いつも不安そうで、弱さと怯えを見せている人間に、リーダーの器は務まらない。それでも背負うしかない重圧から逃れる為に……横田は、取引先であった『終末カルト』の思想に依存するようになっていった……


「いろいろ相談していく内に、ここの人たちの言っている事も分かるようになってきた。それに、俺も『信者の加護』が付くようになって……これが本当の事なんだって」

「『加護』? なんだそれは」

「神様の加護だよ。地球女神ガイアを信仰して、人類の浄化を手伝うと強く決意すれば……『吸血鬼サッカー』はその人間を襲わなくなるんだ」

「は……? なんだ、その曖昧な基準は? 何かのトリックじゃないのか?」

「本当だよ! 現に俺……チームで商品の仕入れの時、信じ始めてから襲われなくなったんだ! 他の仲間たちがやられても……俺や、俺と一緒にココと取引に出で、話を信じていた人たちは大丈夫で……だから、ここの人たちの言う事は真実だって……」


 またしても耳障りな言葉に変わる。しかし晴嵐は……ある種の絶望を味わっていた。

 ――恐らく横田は、裏切ったのだろう。ただし本人にその自覚が無い。彼は……『親切に話を聞いてくれた、宗教家の人たちに従っただけ』なのだろう。

『終末カルト』共の言う事が、どこまで真実かは分からない。ただのトリックなのか、それとも絶望的な真実に辿りついたのか。何にせよ……『交換屋』拠点の人間に対して、裁きやら審判とやらで……信じる者、自分たちに都合の良い人物は引き入れ、異にそぐわない人間は弾いた……あるいは殺害した。

 ――横田は教義に依存した。だがそれは……晴嵐が、彼に注意を払っていれば、防げたのかもしれない。憎しみは消えないが、彼だけを悪と呼ぶのも違和感を覚えたその時、横田は無神経に、こう言った。


「なぁ晴嵐……お前もまたここで暮らさないか? 時間をかけて、ゆっくり真理を理解していけばいいんだ。大丈夫。大神官様の言葉や、神様の言う通りにしていれば……」


 ゆっくりと『洗脳されていけば』の間違いだろう。晴嵐の思想と、ここの思想は根本的に合わない。再燃する憎しみも込め、晴嵐は真っ直ぐに拒絶する。


「断る。俺は……人間を邪魔者扱いした神に、媚なんざ売りたくないね。俺は死ぬまで生きる。罪があろうが何だろうが、最後まで自分の頭で考えて、自分で行動して生き抜いて死ぬと決めた。ついでに『交換屋』を裏切った奴がいるなら、ブチ転がす事も考えたが……横田、お前はどうやら『裏切った自覚すらない』らしい。正直、復讐するにも値しない」

「復讐って……違う大平、俺は……俺はみんなを救いたかった。大神官様だってそう言っていて……」


「あぁ、そうやって責任を誰かにおっ被せていればいいさ。自分のしたこと、自分の身に起きた事を、自分以外の誰か何かのせいにしていればいい。ずっと誰かに尻尾を振っていろ。そして自分の人生を、誰かに利用され続けていればいい。俺はそういう生き方は合わない。自分で感じる事を、考える事をやめる醜さは……お前には、永遠に分からない」

「大平……地獄に堕ちるぞ」

「それがどうした? 俺は最後まで……俺として生きて、俺として死ぬ。結果地獄に堕ちようが構わん。俺は最後までき抜くと決めた。そうだな……これは言い換えるなら、俺だけの主義だ。俺だけの宗教だ。お前らの教義が入り込む余地はない」


 強烈な眼光で、明確な拒絶を表す晴嵐。見返す横田の瞳は濁り、強い怒りと失望を表している。

 ――こいつはもう、怨むのにも値しない。自分の意思と意見を放棄し、誰かの語る思想に染まり、脳みそを腐らせただけの人型に過ぎない。そんな人型の生モノに、使う時間などない。淡々と晴嵐は最後に告げた。


「――取引は取引として、ここには来る。だが、絶対に貴様らとは相容れない。神に死ねと言われて死ぬような……神様にとって都合の良い人形になんざ、なってたまるか」

「何を言ってるんだ……大平がどう考えようが、真実や真理は変わらない。足掻くだけ苦しいだけだぞ」

「足掻くのを止めたくないと言っている。もう止そう。話すほどこじれる」


 辛うじてお互いに、そこだけは納得できた。

 それだけしか、納得できなかった。

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