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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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こんな時世の『お楽しみ』

前回のあらすじ


『覇権主義者』の拠点に、個人勢として接触する晴嵐。物騒な気配を見せる取引先に対し、毒ガスによる自衛手段を仄めかす。危険な仕掛けに手を引くが、その時女の悲鳴が聞こえた。

『覇権主義者』での、物々交換の取引中――何処からか聞こえた謎の悲鳴。周囲を見渡し、警戒心を強める晴嵐。じっと目を閉じ、刃物こそ抜いていないが、いつでも戦闘に入れるよう身構えている。臨戦態勢の彼と裏腹に、交渉相手の男は深々とため息を吐きつつ、軽く手を上げて言った。


「あー……大丈夫だ。敵の襲撃じゃない」

「女の悲鳴に聞こえたが……」

「いや、その……なんだ。幹部やボスの連中で……お楽しみの最中なんだよ」

「――――――は?」


 こんなクソッタレな終末世界で、一体何をやっているのか。強く困惑する晴嵐に、ついでと言わんばかりに注文を寄こした。


「バレたついでに言っちまうか。次の取引の時に……幼児の教育用の玩具とか、オムツや哺乳瓶があれば持ってきてもらえるか?」

「は……? 待て、子供までいるのか?」

「そりゃ好き放題、やる事やってりゃ生まれるだろ」

「そういう意味じゃない。この時世で、子供をまともに育てられるとでも?」


 周囲は化け物、人間同士でも派手にドンパチ。子供が原因で、命を落とした者を見ている晴嵐としては……こんな環境で赤子を育成するなど狂っている。自重すべきとさえ思うが、意味ありげに相手はニヤリと笑った。


「『覇権主義者ココ』は、力と能力がある奴が好きに生きれる。子供を作ろうか、何しようが自由って訳だ。下っ端は最低限生きれる代わりに、上に従うしかない。クソガキのおりだろうがな」

「……来客中ぐらいは、遠慮して欲しい物だが」

「悪いな、上の連中は『自制しなくて良い自由』を愉しんでいるんだ。歯向かおう物なら即……」

「――やっぱり、ここに所属するのは遠慮しておく」

「ははは……と、ともかく、赤ん坊や幼児向けの物があれば、こっちに回してくれ。今まで荷積みして無いだろ?」

「あぁ。そんな需要があるとは、全く思っていない。今まで見向きもしていなかった」

「在庫もないのか?」


 晴嵐は考え込む。『在庫云々』の話ではない。決して油断ならない相手から、それとなく情報を引き出すために。彼は嘘を言わずに会話を誘導する。


「あるにしても倉庫の奥だよ。どこも欲しがらないから、隅の方でホコリを被ってるか……そもそも優先的に回収もしていない。もしかしたら……『旧交換屋トレーダー』を当たった方が早いかもしれない」

「えぇ……いや、あそこはなぁ……」

「どうした? 俺より品揃えは良いだろう。個人と組織じゃ歴然だ」

「そりゃそうだがな……どうも、かなり思想が『終末カルト』に寄っているっつか……まぁ、それでも時々仕入れるけど、関わり過ぎるのもなぁ……って感じ」

「……なるほど」


旧交換屋トレーダー』連中は、家業を続けているものの……『覇権主義者』としては、露骨に嫌な空気を醸している。『終末カルト』に、ほぼほぼ飲み込まれたのが現状のようだ。

 やはり融和が早すぎる。『旧交換屋』拠点には『終末カルト』から、それとなく距離を取りたい面々もいた筈。交わした雑談を思い出すと、不意に失った片目の奥が虚しく疼いた。


 直接確かめた訳じゃない。けれど、晴嵐はほぼほぼ確信していた。

 拠点襲撃に加担した……『裏切り者』の存在を。

 彼が交換屋を止めない理由、危険を冒してでも続ける理由は二つある。

 一つは、生存のため。周囲の情勢や関係が読めないのは、知らず知らずのうちに危険を招くかもしれない。組織が力を持つ以上、完全に影響や関係を断つのも難しい……組織に所属する気はないが、動向を知る必要はある。そのためには、様々な組織を外部から観察できる『交換屋』家業は役に立つ。自前で生きていくためにも、物資の交換は少なからず身を助けるだろう。


 もう一つは……端的に言って『復讐』を計画している。

 今は『終末カルト』に飲み込まれた『旧交換屋』内で、惨劇を引き起こしておきながら……安穏と中で暮らしている『誰か』を、必ず見つけ出すために。奪うだけ奪って、素知らぬ顔で、高笑いなどさせるものか……

 彼の憎悪が、あふれ出していたのだろう。向き合う『覇権主義者』の男が、僅かに後ずさった。


「……何かおっかない事考えてないか?」

「安心しろよ。ココとは関係ない。俺の元所属にいる奴の事だ。アンタは対象外だよ。俺の邪魔をしない限りは……な」

「お、おぅ……と、ともかく今回の取引は、これで終わりで。繰り返しになるが、次は幼児向けのを頼むぞ。高めでも良い」

「どうかな。今まで誰も価値をつけてない、注目していないだけの物だ。案外探せば、簡単に見つかるかもしれない。かさ張るような物でもないし、むしろ安くしておくよ」

「ありがたいが……んな親切にベラベラ喋っていいのかよ? ぼったくるチャンスじゃねぇの?」


 晴嵐は軽く肩をすくめた。


「俺は恨みを買う気はない。そりゃ手間の分、少しだけこっちが得するように設定しているが……高すぎるレートにはしない。バレたら後が怖いんでね」

「バレなきゃ良いで、やっちまわねぇの?」

「隠し通せる自信がない。だから隠さない。それだけだ」

「ふーん……ま、こっちが損しないならいいや。また頼むぞ」

「今後も御贔屓に」


 世界のためじゃない。自分が生きる為に、そして復讐を果たすために。

 あくまで純粋な『商人』として『覇権主義者ここ』との取引を続ける腹で、晴嵐はこの場を去り――そして得た情報をもとに、彼はある場所へ行く準備を進めた。

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