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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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孤独の生存戦略

前回のあらすじ


『文明復興組』と接触し、情報の交換を行う晴嵐。どうやら『交換屋』拠点は『終末カルト』の一派に飲み込まれたらしい。晴嵐を警戒していたのは、スパイを疑っていたようだ。穏便に話し合う事は出来たが、身の潔白までは証明できない。今後は一人でやっていくと、晴嵐は孤独に再起する。

 時刻は深夜。月のない闇夜は、文明を失った世界を闇に沈めていた。

 蠢くのは化け物共の声。人々は対処法を確立しつつあるが、それでも夜間であれば脅威度が高い。夜行性の奴らをやり過ごす為に、不要なリスクを負わない為に、人々は夜の外出は控えるようになった。

 しかしだからこそ、晴嵐は活動を始めた。


(昼間だとどうしても、他の連中と遭遇しちまう)


 集団を失い、孤独になった晴嵐。彼は従来のやり方を続ける事が不可能になっていた。

 今までは『昼間の間に』『大型の車両複数と仲間たちで』『周囲警戒をしつつ分担して資源を回収する』事が出来ていた。役割を分担できる事も大きいが、何より一番の利点は『他の同業者と接触した時、一方的に攻撃されなくなる』点だった。


(集団相手だと、迂闊に手は出せない。逆に単独だとバレた瞬間、強気に来る奴も多い)


 もっと言うなら『強奪』しに来る場面も多かった。特に『覇権主義者』と遭遇しようものなら最悪で、集団で来ていたとしても、激しい戦闘に入る場合もある。凶暴性と攻撃力で勝てない事も多く、交換屋が集団だった頃も、撤退を余儀なくされた事も多い。

 そんなクソッタレな世界で、単独行動は極めて危険だった。集団でいるだけで、敵からの攻撃に対し抑止力になる。逆に言えば、一人でいるとバレた瞬間、急に牙を剥いてくる奴も多い。


(……となれば、集団が動かない夜に動くしか……)


 数に物を言わせて、昼間からローラー作戦を繰り広げる『三つの勢力』……彼らは集団の強さを前面に出せる故に、大がかりな施設に突入できる。個人勢の晴嵐は、絶対に歯が立たない。接触したのが『文明復興組』なら話が通じるが、他の組織の場合かなり危うい。

 ならば……集団との接触を避けるには、巨大組織が活動しないタイミングや、おこぼれや小さすぎる箇所を狙うしかない。掘り出しもの探しと言えば聞こえがいいが、労力に見合うかどうかは怪しい所だ。


(それでも……生きていくためには、こうするしかない。最後まで、俺は……)


 自殺だけはしない。自分の命が尽きるまで、完全に生命が燃焼しきるまで、生き抜いてみせる。どれだけ絶望が立ちふさがろうが、周囲との差に惨めな思いを抱こうが、それでも……晴嵐はあの日記に書かれた一つの哲学、命についての考え方に共感していた。

 彼が今いるのは、シャッターの降りた商店街。世界が終わる前に、商業価値を失って終わった町だ。錆びついたシャッターは閉じ切られ、光のない殺風景な店内で、一人息を殺して潜伏している。


「ふぅ……」


 彼が今、腰を下ろしているのは……『仮拠点』とでも言えば良いだろうか? 現状、軽トラの燃料は残量が怪しい。無駄使いできないのだから、近場でどうにか済ませるしかない。三つの組織から付かず離れずの『価値のないシャッター街』の一角を、彼は雑な休息所へと変えていた。

 背にしょい込むのは、登山用バック。特大の容量を持つバックパックだ。中身を仮拠点に吐き出し、本日三度目の出発になる。空腹と喉の渇きを癒し、軽い休息を終えた彼は出発した。


「……いくぞ」


 真っ暗闇の中、ゆっくりとシャッターを開く。錆やガタつきは丁寧に除去し、力を入れなくても持ち上がる。変にりきんで大きな物音を立てたら、化け物に囲まれてお終いだ。――そうでなくても、晴嵐はすぐに命の危機に晒される事になるのだが。

 すぐそこの曲がり角から、唸り声が聞こえてくる。晴嵐の気配を感じたのか、声の色が一段変化した。

 まずいと判断し、すぐに加賀老人の形見――大ぶりのサバイバルナイフを構える。彼が臨戦態勢に入ると同時に、化け物は曲がり角を進み、晴嵐を発見した。


「キシャアアアァァアッ!!」


 咆哮は高音。背丈は低い。表情は不明でも殺気は明確。昼間より何倍も速い『吸血鬼』相手に、晴嵐は焦りを見せなかった。

 猛スピードで突進する怪物は――その力によって自滅する事になる。晴嵐は一歩も動かないが、それを疑問に思う事もない。理性無き怪物は、ある一点を通過した瞬間――『足』に銀の茨が食い込み、激しい悲鳴を上げた。

 彼のナイフではない。この商店街に限らず『仮拠点』周辺には、特別な有刺鉄線を張り巡らせてある。雑な加工で、効果があるかは疑問だったが……『銀を塗布した有刺鉄線』は、獲物に向けてただ突撃してしまう、化け物相手には非常に効果的だった。


「……よし」


 昔は一匹殺すのにさえ、気を揉んでいた。交換屋で共同生活中でも、あまり気は進まなかった。

 でも……今は違う。恐ろしい事に、心が動かないどころか――『わざわざ物資を運んできてくれた』とさえ感じてしまう。

 人肉を食う勇気はないが、使い道はある――

 もはや倫理云々などと言ってられない。孤独に追い込まれた立場な事、あの一夜を超える際……交換屋拠点と片目を失った事、何が何でも生き延びる。その覚悟を決めた晴嵐は完全にキレていた。

 理性は残っている。判断力もある。けれど確かに……何か、人として必要な何かが、一部欠落してしまったのだろう。

 ただ冷たく、作業をこなすように。家畜を屠殺するように。化け物の喉を切り裂く。

『時間を取られた』とぼやきながら……彼は闇夜の中で、残骸漁りに励んだ。

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