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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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『交換屋』拠点の現状

前回のあらすじ


再起を図る晴嵐。体調を回復させた彼が向かうのは『文明復興組』の拠点。しかし異常なまでに警戒され、慎重に事を運ぶ晴嵐。番犬役の副官が、晴嵐と情報交換しつつ、危険かどうかの判断を下すつもりのようだ。

『なるほど。お前が帰った時はもう、襲撃が始まっていたのか』

「……あぁ。お蔭で直接攻撃には晒されなかったが……様子見しようと、近づいた時に奇襲を食らって、このザマだ」

『リーダー格の加賀はどうした? こちらでは生存を確認できていない。死体の発見もまだだ……あの老骨が、簡単に死ぬとは思えないが』

「……親交があったのか?」

『いや、直接顔を合わせた事は無い。が、そちらの組織のボスだろう? 動向は注視している。恐らく加賀は抵抗して亡くなったか、どうにか逃げ延びたか……』


 どんな情報網を持っているのだろうか、宇谷は。話の節々から考えるに、晴嵐が三週間の養生を強いられた間に、交換屋周辺の状況は、大きく変化したのだろう。晴嵐は……少し迷ったが、加賀老人の最後を伝えた。


「加賀さんは……死んだよ。負傷した俺と合流して、交換に使ったトラックに載せて、とりあえずその場から逃げた」

『一体どこに……』

「……どうも加賀さん、死ぬ前に『交換屋』拠点を密かに去る気でいたらしい。野良猫みたいに、ふらっと立ち去って……一人しんみりと死ぬ気だったと。死ぬまでの時間暮らすために、最低限の備蓄を用意した小屋を準備していたから、そこを拠点に」

『死ぬために用意した場所が、生き延びる為の拠点に……皮肉なものだな。加賀は……負傷で死んだのか?』

「どうだろうな……加賀さんは俺の目を処置して、次に目を覚ました時はもう……襲撃前から、かなり体調が悪かったんだ。薬も飲むことを拒んでいたし、今回の件で……限界が来たんだろう」


 キリ、と晴嵐は無意識に奥歯を噛んでいた。再び湧き上がる憎しみは、抑えようとも隠し切れない。腕にも力が入っていたのだろう。通信機に妙なノイズが入り、慌てて晴嵐は指の力を抜いた。


『……他に見た物はあるか?』

「そうだな……確かフードを被った『吸血鬼サッカー』がうろついていた。まだ夕暮れで、日は残っていたが……奴ら日光を防ぐ着衣で、平然と動いていやがった。ありゃ一体誰の入れ知恵だ……?」

『…………確かに変だ。吸血鬼に知性はない。となると……クソ、洗い直しも必要か。あの噂が本当な可能性は、考えたくないが……』


 語尾は途切れ、細かく聞き取れない。何を考えているのか、何を察したのかは知らないが……晴嵐は咎めつつ優位を作る。


「……有益な情報だったみたいだな」

『む……』

「そろそろこっちからも質問するぞ。今の『交換屋』拠点はどうなっている?」


 今まで『喋らされる』側だった晴嵐。右も左も分からないが、相手はこちらを警戒している。となれば、こちらから情報を吐き出して、向こうに精査させるしかない。

 が、このままただで提供する気はない。『良い人』では生きていけない。きっちりギブ・アンド・テイクを要求し、晴嵐の欲しい情報を引き出した。


『……『終末カルト』共が占拠している』

「なんだって? って事は、襲撃事件の犯人は……」

『断言するには早い。だが……奴らの主張としてはこうだ。

 まず最初に……所属不明の『襲撃者レイダー』が『交換屋トレーダー』拠点に攻撃を仕掛けた。激しい攻勢に晒され、交換屋は壊滅に近い被害を受けた。が、たまたま神とやらのお告げを受け、待機していた『終末カルト』集団は敵勢力を撃退した。その威光に感激した『交換屋トレーダー』の面々は、終末カルトと迎合した……って話を、内外に強く公報している』

「馬鹿な……所属不明の『襲撃者』なんて、名前も知らない弱小勢力だろう! そんなのに『交換屋』が負けるとでも? そして都合よく『終末カルト』が助けるとでも……?」

『……状況が混乱している。こちらとしては真贋しんがんが分からん。そしてお前は『交換屋』に所属していた。警戒はやむなしだ。分かるだろう』

「…………そうだな。それはしょうがない。俺も今まで知らなかった」


 ここの面々が、明らかに警戒心を見せていたのは……既に『交換屋』拠点が『終末カルト』に接収されているからか。晴嵐の来訪を、偵察やスパイの来襲と判断した……


『悪いが、今回は取引を諦めてくれ。お前の主張も真実かどうか、今の段階では判断がつかん』

「黒と断言されないだけ良しとするよ」

『そうだな。今の所お前はグレーだ。念のため確認する。お前の他に生き残りは?』

「分からない。加賀さんは死んだ。俺は生きている。あとは……山崎さんが死んだ所までしか、俺は見てない」

『……何とも言えないな』


 不満そうな宇谷に対し、何かないかと晴嵐は考える。ふと、加賀老人と話した言葉が浮かび、晴嵐の頭に電気が走った。


「そうだ……内通者だ」

『内通者?』

「加賀さんが言っていた。『見張りも反応せず、一瞬で拠点が潰された』って。俺が到着して、入り口を見た時も……正面口では争った気配がない。裏切り者が『交換屋』内部にいて、見張りを懐柔していたと……」

『……最初から傘下に加わる気で、『交換屋』を売った奴がいる……か。襲撃者云々の話は嘘か?』

「それこそ分からないが……『襲撃者』相手に裏切るとは思えない」

『そのまま『終末カルト』配下に収まっている奴がいるとすれば……そいつがお前の言う所の『裏切り者』の可能性が高いな。……こちらでも内通者には気を付けよう』

「そうしてくれ。地獄だぞ。あの景色は」

『……釈迦に説法だよ。それは』

「何?」


 不意に聞こえた言葉の、真意を問う時間は無かった。まだ『グレー』の晴嵐に対し、話せる範囲に限りがある……との判断だろう。


『悪いな。だが、時間が経てば……お前がどこの所属かもはっきりする。その間、お前が生き残れればの話だが』

「死ぬまで生きてやるさ……これから『交換屋』家業は個人でやるよ。ノウハウは積んでいる」

『……そうか』


 寂しい懐事情、特に燃料については口にせず、晴嵐は来た道を戻る。

 片目を失った彼の再起は、孤独から始まった。

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