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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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何度も崩れる世界

前回のあらすじ


交換した物資を積み込み、雑談混じりに近況を『文明復興組』の人間に問う。『吸血鬼サッカー』の弱点や対処を聞き、出発しようとすると友人の三島が現れた。試作品の銀のナイフを晴嵐に送る。変わらぬ友情に感謝していたが……

 大量の肥料と、鶏肉と卵を積載し……軽トラを『交換屋トレーダー』本拠点に向けて走らせた。搬入して売れ残った物資と、これから持ち帰る物資の積み込み、そして思ったより長話してしまい、日は既に傾き始めていた。空は青から赤に近づき、黄昏に差し掛かっている。昔ならゆっくり見つめる事も出来たが、今はそうも言っていられない。

 太陽が沈めば、怖ろしい夜がやってくる。『吸血鬼サッカー』が主に活動を始める時間だ。個体差はあるものの、日陰にいる奴は目を覚まし始める。宵闇に世界が沈む前に、安全な拠点に身を隠すべきだろう。つい『文明復興組』との雑談に花を咲かせ、時間を使い過ぎてしまった。


 とはいえ、感情を抜きに割り切る事も出来まい。築いた関係のお蔭で、腰に差した贈り物、銀でコーティングされた刃物があるのだから。

 クソッタレな世界だからこそ、緩い関係が心に染みる。悪くない。こんな日々が続いてくれればいい。ずっと安全とは言えないだろうけど、少しずつ良い方向に、未来は良くなっていけばいい。ぼんやりと考えていた晴嵐だけど、ふと遠目に見つめた拠点を見てぎょっとした。

 ――濛々と、豊橋農場の方から黒い煙が上がっている――

 化け物の死体を焼却処理したり、焼き芋よろしく枯れ葉や枯れ枝を燻す事もある。だから、農場から黒煙が噴き出す事は、ありえない話ではない。しかし――その量が明らかに異常なのだ。

 遠目で見ても分かる。複数の場所から火の手が上がっている。彼らが火を扱うにしても、農場の開けた場所、決まった所で処理をする。『複数個所』の火の手が見えると言う事は……農場手前、広げた領土の方でも火事が起きているのか?


「あぁクソっ! 最悪だ!」


 残った無事な家の中で、生活を共にする人もいる。庭先で火を使い、運悪く家まで引火してしまった……? 消防士もいない現状、消火活動も自前で行う必要がある。焦ってアクセルを踏み込んだ刹那、何かが変だと晴嵐の頭に電流が走った。

交換屋トレーダー』の拠点は『豊橋農場』だった場所。つまり貯水タンクもあるし、雨水の備蓄だって十分。ため池だっていくつも存在するのだ。ここまで火の手が上がるまで、皆が放置するとは思えない。順当に考えるなら、ボヤ騒ぎの内に抑えるだろう。加賀老人の体調が悪いとはいえ……こんな大事になるまで、あのクソジジイが判断を誤るとも思えない。

 何かがおかしい。焦りを押さえ、晴嵐は慎重に車を走らせる。事故を起こしては元も子も無い。皆、どうか無事でいてくれ……と祈る人間に対し、この世界の神が用意するのは、残酷な光景だった。


「なんだ、これは……?」


 国道を走り、近づくは農場への道。目に映るのは大型のバスが二台。窓が塞がれた車両に、晴嵐は見覚えが無い。その先に広がる黒煙と、悲鳴と喧騒は不吉しか感じられない。しっかりサイドブレーキをかけ、車を脇に留めた。

 強引に軽トラで入る事も出来たが……彼は危険を感じていた。この状況、この空気は、組織的な攻撃を受けた可能性がある。車で派手にエントリーして、八面六臂の大活躍は映画だけだ。車から降りるとサバイバルナイフを抜き、積んである望遠鏡も取り出し、現状の把握に努める。物陰に隠れつつ探りを入れると、夕焼けと黒煙の間に、牙を生やした人影が見えた。


「『吸血鬼サッカー』!? なんで!? まだ夕暮れ時だろ!?」


 もう一度空を見上げるが、まだ太陽は水平線の上にある。奴らが活動するには早い時間。けれど化け物どもの姿を再確認すると、その装備にギクリとした。

 ――化け物全員が大き目のコートを着用し、フードを被っている……まるで太陽光から、紫外線から身を守るかのように。

 馬鹿な。と晴嵐は狼狽した。『吸血鬼』と化したら最後、知性や人らしい判断力は失われる。基本的に衣服はボロボロで、着衣や身だしなみに気を使う事もない。だから『太陽光から身を守る為に、コートを身に着ける』訳が無い……


「にしたって、なんで一方的にやられているんだ……?」


 化け物の奇襲は予想外でも、国道前に見張りが警備していた筈だ。いきなり車両が二台も止まれば、絶対に警戒する。仲間にも連絡を入れ、惨事が起きる前に防げたのでは……?

 やはり何かがおかしい。晴嵐は銀でコーティングされたナイフを抜く。いきなり実戦に出くわすのは、運がいいのか悪いのか……


「みんな……無事でいてくれよ……」


 あり得ない、と頭では分かっている。けれど祈らずにはいられない。無残に踏みにじられると予感しつつも、どうにかこの場を切り抜ける奇跡を願う。歯噛みする中、黒いフードを被った吸血鬼サッカーが、猛然と牙を剥いて襲い来る。

 キシャーッ! と吠えて迫る化け物。真っ直ぐ突っ込んでくる一匹に、すれ違いざまに足の筋を切り裂く。今は時間が惜しく、足を潰して置き去りにしようとした。

 銀の刃は、ここで強い効果を発揮した。痛みを感じない化け物が、強く悲鳴を上げて悶絶した。切断面が激しく爛れ、相当な苦痛に苛まれている。

 これなら、行けるかもしれない。希望を見出し、豊橋農場へ向かう晴嵐に――背後から伸びた手に、羽交い絞めにされた。

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