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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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急襲

前回のあらすじ


 晴嵐が眠りについたころ、村の軍勢に動きがあった。彼とテティが持ち帰った情報と、好材料を上手くまとめて、兵士たちへの檄を飛ばす。魔法の旗を用いて隊列を組み、オークの拠点を目指して進軍を続ける。密かに取り囲み、弓兵たちが一斉に三方から矢をつかえて――

 オークの群れは、あからさまに意気消沈していた。

 今まで権勢を誇った群れの長は、反逆者との敗北で乱れている。張本人も荒れ狂い、商品に八つ当たりする始末だ。見てられないと、後を追うように離反する者も現れ、内部は荒れに荒れている。

 苛立ちと停滞感、生まれる不信に逼塞感が混じり、内部の空気は過去最悪。見張りもだらしなく恰好を崩し、完全に身が入っていない。油断し、統制を欠いた彼らへ、さらなる試練が襲い掛かった。

 高く風を裂く音が、森の中から突如殺到。拠点から見て正面と左方から、多数の矢雨が地に注ぐ。上がる悲鳴と怒声によって、唐突に戦端が開かれた。


「クソッ! 応戦しろ!」


 長の号令に武器を取り、展開を試みてもあまりに遅い。ホラーソン村の兵士は既に臨戦状態。強襲の一手はあまりに早く、オーク達は押し込まれた。

 大剣、フレイル、長槍、ハルバード。各々が握る武器と武器が、打楽器の如く打ち鳴り響く。屠られる悲鳴が上がるのは、オーク側が圧倒的に多い。


「お、長ぁ!『狂化』を!」


 情けなく涙ぐんでも、別のオークが現実に打ちひしがれる。


「馬鹿! もうあの剣は……!」


 今の長が持つ剣は、奪った物資から見繕った一本。周囲の仲間を『狂化』させ、魔法の旗以上に戦闘力を強化する『狂騒の大剣』は、スーディアとの決闘で破損している。図らずも彼の一撃は、群れに大打撃を与えていた。

 追い打ちのように魔法の旗が、オーク達へプレッシャーを圧し掛ける。『狂化』で跳ねのけていた脅威が、緑の肌の戦士たちに降りかかった。

 あっという間に隊列が乱れ、低い士気が地に落ちる。怖気づいたオークが壊走するに、さほど時間はかからなかった。

 一か所だけ開けられた包囲の隙間に、恐怖に飲まれた何人かが駆けていく。我先にと逃げ出す者が現れれば、集団は砂の城の如く崩れ出す……

 刃を交えて手一杯な者を除き、次から次へと右翼側に流れ込むオーク達。恐慌の飲まれた者の背に向けて、再び矢の雨が降り注いだ。

 倒れる仲間を踏み越えて、顔をくしゃくしゃにして逃げ惑う。居残り武器を振り続ける者も、いずれは敗北に至るだろう。

 それでも……戦意を折らず戦う者がいた。

 せめて戦士として前を向くのは、反逆者の勇士の影響だろうか? 逃げて、血を流して、倒れる仲間たちを背に、小型の盾とメイスを振るうオークがいる。

 

「おぁあっ!」


 先端に氷塊を生じさせ、鉄以上の硬度が大気を押し、迂闊に目を離した兵士を打撃する。腕甲を起動する前に脇腹に響く衝撃に、村の兵士は膝を折った。

 見かねた茶髪の女が割って入り、稲妻を纏わせたレイピアを振りかざす。連続で電撃を放射し、踏鞴を踏んで戦士は避けた。

 前衛とスイッチした女は、油断なくボルトレイピアを構えている。牽制の電撃をやめ、出力を上げた雷が、レイピアの先から放射された。ジグザグに森を飛ぶ稲光に対し、小型の盾をかざして身を護る。金属製のシールドに被雷し、魔法の雷は力を失って消散した。

 盾に刻まれた、一般的な魔法の効力だ。基本この世界の物理盾には、魔力を拡散させ無力化する効果が付与されている。女は稲妻の放電をやめ、細身の剣がオークの喉を狙った。


「ひゅっ!」


 鋭い呼気と共に、真っすぐ急所へ刃が迫る。盾の側面で受け流し、真上から冷気を纏ったメイスを振り下ろした。

 茶髪の兵士は左手の腕甲を起動し、光の膜が頭部を守る。氷塊が砕け空気を冷やし、二人はぶるりと肌を泡立たせた。カートリッチから魔力が供給され、ひびの入った氷塊のメイスを修復する。そのまま数回連打し、魔法の盾に強く負荷をかけた。

『盾の腕甲』の防御も無敵ではない。同じ個所を狙えば魔力を大きく消費し、性能次第では物理衝撃で破壊も狙える。

 がむしゃらな連打の最中に、女が電流を通した剣で受けに来る。メイスに触れさせ感電させる気だ。オークが慌てて手を止めた隙に、女兵士の足と手がするりと這い寄る。

『盾の腕甲』の最大の利点だ。『いつでも魔法の盾を消して、片手をフリーにして組み技に移行できる』相手の片手を掴みつつ、足と連動して女は転倒を狙った。

 転ばされる前にメイスで払い、連続の刺突を物理盾で受ける。十以上の攻防は、魔法と物理の盾が激しく火花を散らしてなお、拮抗していた。


「ち!」

「……やる!」

 

 息の上がった二人は、示し合わせたように間合いを開く。またしても電撃をけん制で放つが、勢いは落ちていた。

 カートリッチを消耗したか、それとも魔術式で気力を削ったか……何にせよ、一撃で感電させられ、気絶に追い込まれる危険はもうない。余裕を得られたと確信し、リスクを承知でオークはメイスを高々と振りかぶる。


「ふっ!」


 振り下ろしと同時に、メイスの先端にある氷塊が宙へ飛んだ。その瞬間だけモーニングスターの様に、トゲトゲの塊になって茶髪兵士に襲い掛かる。女は腕甲で防御し弾くが、数センチ後退させられた。

 失った先端は再び氷を纏い、メイスとしての機能を取り戻す。電撃と氷の魔法武器で、お互いに牽制合戦に入った。均衡が破れるきっかけを求め、じりじりと身を削りあう両者。決着のきっかけは、女兵士の後方から飛んでくる。

 風を引き裂き、一本の矢がオークの肩口に突き刺さる。握ったメイスを取り落とし、苦痛にうめき声を上げた。

 女兵士が切っ先を向け、あっけなく決着がつく。どこかやりきれない表情で見下ろす彼女へ、盾を下ろして戦士は呻いた。


「仕方ねぇさ。仕方ねぇよ」


 矢の刺さった腕をだらりと下げ、無事な手を上げて降伏を示す。女兵士が指示すると、部下が縄でくくり、オークの戦士は拘束を黙認した。

 程なくして荒事の気配は消え、洞窟周辺が制圧される。

 敗北の実感が胸に沸き、隙間風に吹かれるような悲しみが、オークの心を占めた。

用語解説


 氷塊を発生させるメイス

 ヘットの部分が、魔法で成形された氷で出来ているメイス。衝撃でヒビが入っても、ある程度復元することが可能。さらに先端の氷を、握り手を振りかぶって飛ばし、遠隔での攻撃も可能。失った先端は、氷が再成形される形で復元される。


 この世界の物理盾

 盾の腕甲、鎧の腕甲に押されがちな手持ち式の盾。たが利点の一つとして『物理盾に、魔法への防御性能を付与する』事により、両方の属性を防護できる。強力な魔法を持つ武器の普及で、この両属性を同時に防げる機能に、利点が見いだされた。


 盾の腕甲の戦術

 装備負荷が低く、かさばらないのが一点。さらにいつでも魔法の盾を消し去って、片手を自由にして組技に移行もできる。


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