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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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贈り物

前回のあらすじ


『文明復興組』の拠点で、交渉に入る晴嵐。用心深い番犬役の検査を終え、薬品や顕微鏡などを渡し、鶏肉や肥料を交換する話にまとまった。

 物々交換の話はまとまったが、いかんせん在庫から引っ張り出すのに時間がかかっていた。食料の方はすぐ、積み込みが終わったが……植物用の肥料は重量がかさむ。手伝いたいのは山々だが、晴嵐も晴嵐で検品しなければ。各々ですべき事、やるべき事に追われ、気遣う余裕は失われた。

 しかし、無言で淡々と作業するのも、それはそれで何か気まずい。積み込みと物資のチェックを進める中で、言葉を交わす事はあった。


「そういや、今年の天候はどうなるんだか……最近雨や曇り、多いよな?」

「気温も低い日が多い気がする。今は……どうなんだ? 七月ぐらい?」

「ギリギリ六月……いやまぁ、精確には分からんけど、ともかくそれぐらいだろう。日照不足は困るよな」

「夏野菜が育たなくて困る。それに、今年の米は高値になるかもしれない」

「あー……日照だけじゃなくて、冷夏か」

「そうそう。暑苦しくなくていい……とも言ってられない。そっちも備蓄しておいた方がいい」

「助け合いも限界あるもんなぁ……嫌な時代だよ。それを終わらせるためにも『文明復興組ココ』に来た訳だけどさ」

「研究はどうなんだ? せっかく高いレートで交換したんだし、役立ててくれてるか?」


 あまり他人事に関心のない晴嵐だけど、この『文明復興組』が主導している研究は、興味を持たずにいられない。

 彼らの悲願『文明の復活』――それには一つ大きな障害が横たわっていた。この時代をもたらした存在、すなわち『吸血鬼サッカー』への対処である。この『文明復興組』が全力で研究を進めているのは『吸血鬼』への対処法、そして特効薬や治療薬の開発だ。奴らの駆逐なしに、文明の再構築はありえない。原因の追究も並行して行っている様子だけれど、手を貸している『文明復興組』の人員は露骨に顔色を悪くした。


「それがなぁ……どうも、ウイルスや細菌が原因じゃないらしいんだ」

「え……どういう事だ?」

「そのまんまだよ。共通の病原菌が、全く見つからない。電子顕微鏡も使ったり、偉い先生とも合流できたんだけどさ……見つかるのは既存の菌やウイルスばっか。原因が分からないから、治療薬の開発も進まない」

「なんだそりゃ……? どう考えたって『感染症』っぽいが……」

「あ。やっぱりそう思う? 創作物とかでも良くある話だからさ、俺らもその前提で調査してた訳。ところが、専門家を交えて調査しても……一向に原因が見つからない。これだけ調査して発見されないから、逆説的に『病気じゃない』って結論だ」

「ふぅむ……」


 現実と創作は違う。次々と化け物へ変異していくとしても、ウイルスが原因とは限らない。そこで『原因が発見されないだけで、絶対にウイルスだ』と、素人では凝り固まった考えを持ちそうなものだが……真剣に考えている彼らは、冷静に真実を見極めようとしていた。


「じゃあなんなんだ? 寄生虫?」

「それも違うっぽい。あー……アンタ、グロい話大丈夫?」

「平気平気」

「その、なんだ……『吸血鬼』を生きたまま……」

「あー……」


 なるほど、確かにむごい話だ。化け物になってしまったとはいえ、元人間を生きたまま解体する……堂々と話せる事ではない。されど原因究明のため、必要な行動に違いない。憂鬱な顔を見せたのは一瞬、組織の彼は有益な話題に繋げた。


「でも、色々と調査した甲斐もあって、弱点については分かって来た。どうも『吸血鬼』になった奴らは、銀に触れると激しい反応を起こすらしい」

「は? 銀って……シルバー?」

「そうそう。腕に巻く奴」

「……それ年がバレるぞ」

「アンタも知ってるじゃん」

「うっ」


 冗談を交えつつ、雑談から情報を引き出す。彼らが得た『吸血鬼』への知見は、晴嵐にとっても有益な物だった。


「なんでかは知らないが……『吸血鬼』になると銀に触れただけで、焼け爛れたような状態になるらしい。専門家の方々によれば、金属アレルギーの反応に近いって言ってたけど、詳しくはわかんね」

「アレルギーか……なんでまた銀に? 金や白金プラチナじゃダメなのか?」

「銅とか鉄とか、色々試して見たけど……銀だけらしい。誰が呼び始めたのか知らないが、『吸血鬼サッカー』ってのはドンピシャだな。ヴァンパイアとか、ブラットサッカーとか」

「だったら奴らの正体は、どこかの魔術師か何かが召喚したって事?」

「非科学的だぜ、そりゃ。それに……その言い分は認めたくないな」

「あぁ……『終末カルト』の主張と被るか」


 三つの勢力は、敵対勢力を強く憎んでいた。実際に何度も戦闘が起きており、下手に名前を出せばアレルギーめいた反応が返ってくる。他意はなかったのだが、お互いなんだか気まずい空気になり、以降は無言で作業を続ける。おおよその作業を終え、出発の直前に三島がまた顔を出してきた。


「晴嵐! 今回もサンキューな! 次はいつ来る?」

「さぁ? 何事も無ければ、一週間後かな。……背中に何隠してるんだよ?」


 車内にいる晴嵐からも、三島は左手を背に回していた。にししと笑って、同級生は鞘に収まった刃物を差し出す。物騒な贈り物に眉をひそめたが、少し真剣な顔つきで三島は言った。


「『文明復興組ウチ』で作った試作品。銀でコーティングしたナイフだ。『吸血鬼サッカー』相手に使える……かもしれない」

「いいのか? 加工が面倒だし、貴重なんじゃ?」

「落とした事にしとく。んで予備の奴を後で貰っとくよ。お前の方が外出歩くだろ?」

「三島……」


 こんな世界でも変わらぬ友情に、思わず胸が熱くなる。しかし周囲の目線が照れ臭くなり、学友時代の目つきでからかった。


「……お前、ホント俺にぞっこんだな?」

「べ、別にアンタに、死んでほしくない訳じゃないんだからね!!」

「ガチでキモいからやめろ」

「何だとぉ!?」


 険悪めいたやり取りの後に、ひとしきり声を上げて二人は笑う。ふざけあえる関係に安堵を覚え、この関係を良い物と信じて疑わなかった。

 貰った刃物を腰に差し、交換物で満載の軽トラを走らせる。浸りたいのは山々だけど、晴嵐は晴嵐の日常に帰らなければ。

 こんな日が、続いてくれると信じていた。――既に、壊れているとは知らないまま。

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