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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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文明復興組の拠点

前回のあらすじ


体調の悪いまとめ役の老人、加賀老人の事を気遣う晴嵐。頭はボケていないが、薬も飲まない頑固ジジイに、強めの口調で抗議する。だが『薬を使っても延命でしかない』と、寿命が近い事を悟り貴重品を自分に使うなと突っぱねる老人。けれど機械的に、合理的に、切り捨てる事は出来ないと反論する。互いに意見を曲げないまま、晴嵐は文明復興組との取引に向かう。

 翌日……物資をトラックに詰め込み、晴嵐は『文明復興組』との取引に向かった。

 組織によって、欲している物資の性質は多少異なる。生活必需品の『食料』と『医薬品』は、どこも一定の需要があるが……例えば『覇権主義者』の場合、武器類の需要が大きい。

 これから晴嵐が向かう『文明復興組』が要求するのは、精密機器や電子機器の類だ。しかも下手に解体した物より、状態の良い物の方が喜ばれる。

『雑でもいいからとりあえず使える物が欲しい』……物資が困窮した世界の傾向と真逆だ。普段は質のチェックはあまりしないのだが、この組織相手は気を遣う。輸送中も速度を出さず、衝撃に弱い品は助手席に座らせていた。


「交換レートが高いから、別にいいけどな……」


 チェックの手間と入手難易度から、どうしても交換価値は高めに設定せざるを得ない。正直、あの組織以外は使わない道具ばかりなので……『個人的には』多少値を下げたい気持ちもある。

 されど、それは『交換屋』で待つ仲間たちへの背信になりかねない。商品の交換に出向くのと同じように、物品の仕入れだって命がけなのだ。

 他の人間と遭遇すれば、資源の奪い合い……時と場合によっては殺し合いに発展するし、昼間室内を探索中に『吸血鬼サッカー』と遭遇する危険もある。ゴミ箱やらヘドロの中に手を突っ込む不快感とも戦いながら、汗水垂らして自分や仲間たちが集めて来た『商品』だ。商談は担当の人間に一任されているが、極端な取引は決してプラスにはなるまい。


(下手に贔屓ひいきしたら外からの『中立』って立場も、俺の交換屋トレーダーの中での立場も悪くなる。あくまで『商人』として、仕事をこなさないといけない)


 組織のしがらみ。集団に属する以上、自分一人の権限ですべてを決定する事は出来ない。誰も見ていない車内で唇を曲げ、憂鬱を交えた瞳が取引先のマンションを見つめた。

『文明復興派』の拠点――ニュータウンの住宅街、その奥地にある何の変哲もない色合いのマンション。強いて違和感を挙げるなら、周りの景色に『溶け込み過ぎて』いる所か。『文明復興組』の本拠点までの道も『交換屋』たちと同じように、狭い一本道に検問所がいくつも作られている。速度を落としてゆっくりと近づき、一定間隔でクラクションを三回鳴らした。


「定期巡回に来た『交換屋』です。道を開けて貰えるか?」

「ん、今日は晴嵐さんか。いいモンある?」

「微妙な所。中学校の理科室から、いくつか薬品やら機材やら頂いてきたけど……」

「あー……それだとピンキリだなぁ……」

「何が使えるか、正直俺には全然わからん。このご時世だと貴重らしい……って事ぐらいしか」

「実はオレらも」

「おいおい、身内の事だろう……」

「仕方ないだろ。薬や病原菌、ウイルス研究は頭の出来が良くないと。こんな警備員にやれるのは、未来の大先生を守る事ぐらいだ」


 晴嵐は外部の人間だが……リーダーとその周辺の人物に、個人的な縁もある。印象も良いのか、暇な時間を雑談についやせる程度の関係は築けていた。道が開いた事を確認し、交換物を積んだトラックを走らせる。数分トラックを走らせると、到着したマンションの入り口は、紫色の大型ライトが張り巡らされていた。

『紫外線ライト』だ。対『吸血鬼サッカー』に効果的な電灯。安定した電力を確保しているからこそ、使える設備でもある。見回りの人間も物々しい。人によっては息が詰まるだろうが、晴嵐が駐車した所で、すぐに駆け寄る人物がいた。


「晴嵐……! よく来てくれた! お疲れ!」

「三島……ったく、毎回出迎えなくたっていいんだぞ?」

「なんだよツレないなぁ! いいだろ? 明日にどっちかが死んでもおかしくない」

「まぁ……そりゃそうだけどさ……」


 かつて大学生活を共にした間柄、同学年の友人である三島の顔がそこにあった。

吸血鬼サッカー』出没の直後、三島はすぐに家から避難した。三島家に残されたノートの通りに、以前交流のあった『奥川一家』の所に移動していた。

 このマンションは、奥川家の所有ではないらしいが……少々複雑な所があるらしい。なんでも以前顔を出した男、宇谷遊坂うたにゆさかの関連物件らしい。あの物騒な男、浮浪者めいていた男に、どんなコネや背景があったのやら。今ではマンション丸々が『文明復興組』の一大拠点と化していた。

 何度か通った本拠点だけど、来る度につい思ってしまう。三島の前だからか、素直な言葉を投げかけた。


「しっかしこのマンション、誰が建てたんだ……?」

「さぁ? でも、世界がこうなる前から完成していたそうだぜ?」

「いや、明らかに色々とおかしいだろ……」


 巨大なマンションもそうだが……それを取り囲む塀は高く、今は有刺鉄線が張られている。他にも秘密の地下核シェルターなど、平時に建てられた建造物とは思えないが……

 道だって一つだけで、まるで防衛拠点や陣地を思わせる。納得のいかない様子の晴嵐に対し、三島は若いころから変わらない気楽さで答えた。


「でも……おかげでここは、拠点として完璧だ。何の不自由もない」

「まぁ……そうか?」

「そうだよ。大事なのは実用的な結果さね。ほら、話も程々に仕事してくれよ? 交換屋トレーダーさん」

「はいはい」


 三島相手だと、つい昔のノリ、学生時代の気分に戻って話してしまう。一瞬気が抜けたものの、二回ほど頬を叩き、取引人としての顔で『ボス』の所に向かった。

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