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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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終末群雄割拠の時代・1

前回のあらすじ


暴徒集団を仕留めた人々。慣れない荒事に嫌な顔をする若い衆を尻目に、家庭を持った新たなメンバーと会話しつつ、いずれ腹黒くしたたかに生きねばならぬと話し合う加賀老人。これからは……より綺麗事を並べる人間から、死ぬことになる――

 ――一体どれほどの時間が経ったのか……多分『吸血鬼サッカー』が出没して、一年は経っていないだろう。奴らへの対処法は広まりつつあるが、いかんせん『感染源』が分からない。どこからやって来たのか? 病原菌はどこなのか? 奴らの目的は? 最初こそ襲撃者に恐怖し、逃げ惑うか、おっかなびっくり対峙するかの二択だった。が、時間が経つにつれ、対処や原因が気になってくるのも人間だろう。

 されど、残された人々の反応、想像力は個人で違う。そして属していた組織によっても、大きく解釈が分かれていた。ある人間はこう主張する。


『何らかのウイルスや細菌、ともかく病原性の何かが原因だ。治療法や予防法がある筈だ。それを研究、開発する事が出来れば、かつての世界を取り戻すことが出来る。そのために活動していきたい。多くの人の力が必要だ。些細な事でもいい。協力して欲しい』


 なるほど、それは実に理想的な主張だろう。すべて思い通りに事が運べば、誰もが喜ぶに違いない。

 世界が崩壊した原因は、人間を襲う化け物の襲来と、政府の対応が遅く、秩序への信頼が崩れてしまった事が根本にある。

 ならば『吸血鬼サッカー』への特効薬を開発すれば、強烈な安全保障を人々に分配できるだろう。事態解決に導いたのなら『新たな政府』として、人々からの信任を得られるかもしれない。

 されど――この文言を聞いて、素直に信用を置けないのも『崩壊後』の特徴だ。綺麗事を見聞きして、信じてよい時代はもう終わった。多くの人は、こんな感覚を胸の中に抱えていたのだ。


『信じていた常識に、裏切られてしまうかもしれない』


 この世に安泰など存在しない。

 この世に絶対など存在しない。

 なんとなしに信じていた常識せかいが、あっさりと崩れて奈落に飲み込まれた人々は……昔の平和な時代を望みながら、けれど『取り戻せないのではないか?』と、どうしても心に不安がぎる。その不安に対し、全く別の回答を出した組織が『二つ』台頭した。


 うち一つは……警察官か、自衛官か、ともかく元は秩序の守り人だったらしい。腕っぷしに自信のある面々が集まり、最初こそ人々を保護して回っていたようだ。

 が……途中から彼らの組織は豹変した。銃器と警棒、鍛え上げられた肉体を用いて、実に暴力的な、極めてシンプルな言い方をするなら『実力行使』を積極的に行使する集団へと変貌したようだ。

 無数の人間と、化け物どもを屍に変え――彼らはこう主張する。


「我らは今まで……日本政府の下、国民を守護してきた。しかし果たして、この国は我らが守るに値する国家だったか? 変化を嫌い、井戸端会議と自分の生活で頭がいっぱい。大局なぞ一切見ず、考えず、甘言を振り払う知恵もない、飼育されているだけの豚のような国民。

 そんな豚どもを見下しながら、その実自分の私欲を優先し、現場にクソッタレな指示ばかり寄こす政府役員共……!

 我々現場の人間が……命を張り、心を砕き、汗水垂らす中で……のうのうと文句ばかりタレるばかりのクセして、我々現場の現実など、これっぽっちも考慮すらせん! むしろ助けられて当然だ。出来て当たり前だ。それが常識だと自分のケツも拭えない、自称大人の面倒を見る気などない!

 

 そして……そうした豚のような人間を生産する事で、自らの生活を楽にしてきた政府人員は、真っ先に自らの責務を放棄した! 判断が早い! 見事な逃げ足と称賛ものだが、断言できるのは両者共にゴミ!

 今は力が物を言う時代! 今は能力が物を言う時代! 貴様らを飼育する時代は終わった! これからは……より優れた人間が、知と暴を奮って統治する時代である! 弱き者を庇護する価値は無し……この狂った時代で、生き残る『強さ』を持つ者こそが、次世代に向けて生き残るべきなのである!!」


 それは平和な時代であれば、暴論と後ろ指を指されかねない発言だった。がしかし、警察組織、自衛隊員の一部は、この意見に同調する節が見受けられた。

 自分たちは『兵器』を扱う事が出来る。化け物に対して、間違いなく優位に立て「力」を保持している。その担保たる国家も骨組みが崩壊し、残された彼らは気が付いた。

『この環境においては、間違いなく我々が強者の立場なのだ』と。国家と言う制御装置が外れた結果、彼らもある種の暴走状態に入ったとも言えるだろう。


 三つ目の勢力は……正直な所、何故このような主張が通ったのか、いまいちよく分からない。所謂『終末カルト集団』と言えば良いのだろうか? 日本ではかつて……ある事件により宗教に対して、胡散臭い目で見られる事が多くなった。

 けれど、宗教が力を持つ時期は決まっている。天変地異、終末思想、既存の常識が壊れた瞬間、人の心はうつろいやすく、拠り所を求める物。その想像力と解釈力、そして現実を歪めるほどの妄念が、様々な物語、様々な宗派を生むのだ。

 もちろん、今回の事件においての主題は――『吸血鬼サッカーの存在意義について』である。神が存在するとして、何故このような事態が引き起こされたか――その解釈は多岐に渡ったが、最も力を得たカルト集団は、このように主張する――

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