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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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森を進む軍靴

前回のあらすじ


 この世界での親子のやりとりを、意外そうに見つめる晴嵐。ちろりと舌を出したものの、テティに裏の意図を見られない。晴嵐は金の価値を訊ねて、無事に宿屋に泊まる手続きを終える。ようやくたどり着いた安寧の宿で、久々に晴嵐は深い眠りについた。

 その頃ー

「総員、注目!」


 軍団長の号令に、ホラーソン村の兵隊が背筋を伸ばした。

 招集を受けた兵士たちが、各々の得物を手に身構えている。全員の視線を受けとめ、アレックスが号令をかけた。


「先程通達した通りだ。予定を早め、我々はこれよりオーク一派へ攻勢に出る。目標は敵勢力への打撃及び、収奪された物資と人員の救助にある」


 一区切りつくと、兵士たちがざわめいた。嘆息を込めた、嫌々ながら従う。そんな空気だ。軍団長は、彼らの心理を代弁する。


「村の守り人として勤めている君らには、今回の行動は異例に見えるだろう。事実、この規模の被害なら、時と場合によっては放置した事も記憶している。今回の事情は……あえて口にしないが、明白だ」


 攫われた人員の中に、領主様の娘がいる。その経緯も経緯なだけに……兵員たちの多くは、既に事情を把握済みだ。下手に隠す方が士気が下がる。

 本人のきまぐれで、その日兵舎へ物見遊山に来た……「ヴィラーズ・キクチ」嬢は、間の悪い事にオークの襲撃とかち合ってしまった。強襲を受け、対応に追われた隙に、彼女も連れ去られた。

 軍としても手を尽くし、その場で奪還を試みたものの……『狂化』したオーク共は難敵で、領主の令嬢は囚われてしまう。こと今回の軍事行動には、彼女の影響が大きい。

 ……余談だが、偵察隊の猟師へ説明を省いたのは「身内の恥」とアレックスが認識していた部分もある。不審者と睨んだのと、あまり余所者を関わらせたくない心情が、彼への扱いに影響していた。

 渋い顔で、軍団長の言葉聴き入る兵士たちへ、腹に力を込めて喝を入れる。


「しかし兵士諸兄、確かに動機は不純と思うが……今回の戦い、果たして軍人として恥じることがあるか? 村を襲われ、人と物を奪われ、それに対し武器を取り、悪のオーク一派へ反攻を仕掛ける……村の守り人として、何も間違ったことはあるまい」


 言われて確かにと、虚を突かれる兵士たち。権力の臭気に目がくらんだが、兵士として、村の守り手として、後ろめたいことは何もない。

 意識を改めた気配の者どもに、アレックスは畳みかける。


「予定を早めた理由は、好材料が二つ増えた事だ。

 一つは、訓練中に居合わせた諸兄は知っていよう。旗持のテティ・アルキエラが、自力での帰還を果たした点だ。彼女の報告によれば、オーク共は内部でモメたらしい。混乱の隙をついて、命からがら村まで逃げてきたと言う。恐らく現在も、統率に乱れが生じている」


 兵士から小さく上がった声は、好材料を受け止め、意思を強める色をしている。アレックスは続けざまに……苦笑と皮肉を織り交ぜて、二つ目を明かした。


「もう一つは、シエラ兵士長からの報告だ。名誉のために匿名とするが……私物として、共鳴石を一組持ち込んだ馬鹿がいたらしい」


 ぷっ、と噴き出す音が何か所から発生する。共鳴石は互いの位置を把握できる石。新婚や、親密な関係の恋人同士に人気がある道具。暗に軍団長は「恋にうつつを抜かした馬鹿がいる」と公表したのだ。


「普段なら叱責ものだが、今回に限っては大目に見る。何故なら……オークの襲撃で片割れが紛失し、しかも遠方で反応がある。わかるか? オーク共は適当に漁るもんだから、自分から所在を明かす大失態を犯したのだ」


 兵員たちが色めき立つ。でっちあげの背景だが、わざわざ真実を語る必要もない。


「内乱を考慮すれば、向こうが勘付く余裕はない。しかし悪戯に時をかければ、その限りではなくなる。混乱も徐々に沈静化するだろう。増えた好材料を生かすには、即座に行動を起こさねばならない」


 早まる予定に理由が示され、兵士たちの顔が引き締まる。低かった士気は内圧を高め、兵員の胸の内で静かに血が昂った。


「もう一度言う。今回の動機は不純だ。なれど……我らが剣を握るに、十分な状況と動機はある。諸兄も心して戦いに望み、務めを果たしてもらいたい」

「「「はっ!!」」」


 今も決して士気は高くない。しかし最低から脱した兵員を見渡し、アレックスは頷いた。


「よし……全員出撃!」


 身を引き締めた者どもを率い、徒党を組んで村を出る。得物を握り、靴が大地を踏み鳴らし、森の中を進んだ。見送る村人たちの視線を背に、オークの拠点を目指す。

 先頭に立つのはシエラ兵士長。赤黒い石を道しるべにして、グラドーの森へ入り込む。道を外れ、視界が悪化する前に『旗持』へ指示を飛ばした。


フラグ展開始め」

「了解」


 まだ敵の姿も確認せずに、魔法の旗がはためいた。まだ戦意高揚の効果も、敵の戦意を挫く意味もない。なのになぜ、旗を使用したか? 理由は三つめの戦略効果にある。


『繋がった。最後尾問題なし』

『中腹も接続。ノイズもない』

「最前列も異常なし。まだ敵の気配はないが、周辺警戒を怠るな」


 魔法の旗の最大の効果はこれだ。『旗を持った者同士で、リアルタイムの相互通信が出来る』。伝令の手間と時間を取らず、即座に遠隔で状況把握と連携を可能にする。


『軍団長より通達。旗の出力落とせ。隠密を優先』

「『了解』」


 最後尾の軍団長の指示が、旗持全員に伝達する。旗の光量が落ち、通信に若干ノイズが走った。それでも通話に影響はない。


『シエラへ、目標を発見次第報告。次の行動は追って知らせる』

「伝達します」


 最前列の旗持が、シエラに軍団長の言葉を報告する。顔を見ずに了承を示し、共鳴石を握りしめ、兵士長はオークたちの気配を探す。

 森林を進む軍靴の足音。やがて女兵士長が手を上げ、行進をやめるよう合図した。すぐさま旗持が連絡を入れる。

 森の中でシエラが止まり、仲間へ指差す方向にオークの影がちらつく。息を殺し、ホラーソン村の兵士が得物を強く握った。

 旗持が、作戦を全体へ伝える。


『シエラ隊はその場で待機、後続隊は右翼に展開し、合図と同時に矢を射かけろ』

「左翼は?」

『わざと空けておく。目的はオークの殲滅ではなく、人員の救出だ。逃げて貰った方が楽出来る』

『了解』

『シエラ隊は早まるな。弓兵に厳命させておけ』

「は!」


 遂に迎えた反撃の時に、兵士たちの間で緊張が走る。

 仲間たちが配置に着くまで、シエラ達はじっと息を殺して待ち続ける。

 じれったい時間の終わりは、アレックス軍団長の号令で破られた。


『軍団長より。弓兵構え。カウント3で一斉に放て』

『「弓兵構え!」』


 正面と右翼に展開し、ひそかに狙う兵士たち。オークはどこか気の抜けた顔で、拠点周辺をうろついている。羽のない矢――この世界では一般的な物だ――を弓につかえる。

 きりきりと弦の引き絞り、号令の時を待つ。敵を睨み、指に力を込め、仕掛け時を辛抱強く、弓兵たちは待った。


「『『3……2………1…………』』」

用語解説


立体旗ホロフラグ

 味方を強化し、敵を弱体させる旗だが、この二つの効果は戦術的な効果に過ぎない。最大の戦略的な効力は『旗を持った者同士で、リアルタイム相互通信ができる』点にある。(テティが以前連絡を取ったのもこの機能に当たる)

 これにより……離れた兵士同士での相互連絡、連携を可能としている。軍勢同士で衝突する場合、この旗を扱う職『旗持』は必須役なのだ。


 この世界の矢

 何故か羽がない。現実世界ではあの羽は飾りではなく、必要な部位のはずなのだが……

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