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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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群雄割拠の始まり

前回のあらすじ


危険を振り切り、豊橋農場に帰還した晴嵐。すっかり変わってしまった、近辺の景色。ラジオやテレビの情報収集にも限界があり、自分の目で確かめるしかない。そして、老人は一つの決断を下した。『これから領土を拡大する』と。

 化け物――『吸血鬼サッカー』が出没を始めてから、一か月が経過した。

 政府組織はその権能を大きく削がれた。事態把握の遅れと、前例主義に慣れ過ぎた彼らは『新手の災害や混乱への対応に、悉く後手後手に回ってしまった』のだ。

 加えて『異世界移民計画』において、政府役員の多くが失踪してしまった。信用を失いかけた所で、さらに信用を損ねる事件が多発してしまった。


『警察官』は信用できない――嘘か真か、この段階では証拠や確証は何もない。しかし『事実』として、警察官の格好をした者が、狼藉を働く事件は発生していた。

 化け物と対決した後か、それとも化け物と化した後か……ともかく死亡した警官から衣服と武器を奪い、警官と騙って荒れた世を跋扈する者が現れたのだ。

 また……警察官の中にも、堂々と悪行に走る者も現れた。

 鍛え上げられた身体、手に出来るのは拳銃と特殊警棒。権力の笠が揺らいだとしても、分かりやすい『力』は、いつ如何なる時においても担保になる。

 化け物に対しても抵抗しやすくなる。人と人との争いの中でも優位に立てる。正義と悪は曖昧でも、腕っぷしと武器は明確だ。

 権力と国家の装置の一部、警察官。しかし今はその『国家』の骨組みが歪み、軋みを上げ、崩壊を始めている最中だ。そこに紛れて、自分一人が悪徳に走ったとしても、一体誰が咎めるのか。化け物騒動で揺れる中なら、便乗して荒らしてもバレはしない……


 悪徳警察官がやらかしたのか。警察官を騙る悪徳者が暴れたのか。順番はどちらなのか分からない。もしかしたら、ただの誤解だったのかもしれない。あるいは逆に、あくどい民衆側が警察官を貶めたのかもしれない。

 だが重要な所はそこじゃない。大事なのは『信用』が崩れたという事実。今までは常識にのっとり、何もかもを信じてはいなかったが……まぁ、それなりに国家の事を信用を置けていた。人の良心や自浄作用を期待する事もできた。それが崩れた。


 例えるなら――堕ちれば奈落、されど極めて頑丈に建造された、立派な石橋が崩れてしまった。

 叩いても壊れない。崩落を心配する方が愚かと笑っていたのは、今や過去の話。いざ崩れたその時、渡っていた不幸な人間は橋と共に落ちていった。

 運よく生き残れた者達も、自分たちは幸運だと噛みしめる余裕もない。安泰だと胡坐をかいていたせいで、新しい橋を作り上げる技術も余裕も、誰も持ち合わせていない……


――既存秩序が、もう信用が出来ない――


 何度目かの崩落。今までも常識外の出来事は何度も起きていた。足元の土台が崩れ去り、いきなり地面に落下する恐怖を知っていた。

 されど人は、知ってはいたが学びはしなかった。反省しなかった。ここが悲劇の底だと、これ以上の惨劇は訪れないと、何の根拠も確証もなく妄信していた。

 それがこのザマだ。誰も彼もが主体性を失い、集合意識たる常識に従い、自らの思考と判断を放棄した結果がこれだ。地獄の窯は開き、いずれすべての人間は飲み込まれ、死ぬしか無くなるだろう。

 が、すべての人間が絶望した訳ではない。死ぬまで生きる事を止めなかった人々もいる。既存システムと秩序が滅びたのなら、新しく自分たちでルールや常識の創作を始めるしかない。それぞれの主義や主張で集団を作り、資源と物資を確保して拠点を築き始めた。化け物……『吸血鬼サッカー』と、敵対的な人間から身を守る為に。

 訪れたのは崩壊からの再構築――すなわち、終末群雄割拠の時代、その先ぶれの始まりである。


***


「周囲の様子は?」

「大丈夫。これで国道手前まで確保できたかな……」

「トラップの見回りは必要だけど、ひとまずこれで大丈夫だろう」


 豊橋農場のメンバー、横田ともう一人は豊橋農場の外、以前晴嵐が偵察したエリアからの先、国道にぶつかるまでの道のりを堂々と昼間から歩いていた。

 彼が持ち帰った情報をもとに、加賀老人含む農場の面々は考えた。

 このまま農場だけで居座るのは危険だ。ラジオやネット、テレビからの情報取得には限界がある。今、すぐそばにある現実を直視し、迫りくる脅威や危険に備えなければならない。

 そこで――農場の集団はある行動に移った。シンプルに言うなら『領土の拡大』を始めたのだ。


「このまま引きこもっていては、いずれ自分たちの首が締まる」

「周囲の人間は、どんな行動や活動をするのかが分からない」

「何にせよ『土地の確保』は、明確な一つの『力』として外部に誇示できる要素になる」


 力を持たない人間は、相手からナメられる。精神的に軽んじられた行動は、相手の増長を招いてしまう。実際は大した力を持っていないチンピラに、下手したでに出ればつけ上がる現象と同じだ。

 これを抑止するには、明確な『力』を示す事が手っ取り早い。純粋に暴力を用いるのも良いが『土地や領土を持つ』のも効果が高い。

 すなわち――規模の大きさを見せる事で、雑魚に絡まれなくすると言う事だ。しかしこの構図に関して、若者の一人が嫌な顔をした。


「これじゃ、まるで『抑止論』だな」

「核兵器じゃないだけマシだろ」


 今、この世界が窮地に立たされている因果の糸、世界が核により滅びた事を思い出してしまう。結局のところ――分かりやすい『力』こそがすべて。荒れていく世界の中で、ため息を吐く。とはいえ、彼らの立場はマシな方だ。何せ食料不足とは縁遠い。衣類はやや心細いものの、安全な寝床も確保できている。だから彼らには……今の生活を守ろうとする意志があった。

 故に、彼らは身構える。

 遠くから聞こえるバイク音。威圧するかのようなラッパの音に、晴嵐は相棒に目配せし、彼は応対パターンを考えていた。


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