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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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擬態

前回のあらすじ


迫る不審な二人組。奇襲攻撃を決める事も出来た晴嵐だが、人間に手を下す勇気は持っていなかった。煙幕玉を投げつけて追手を撒き、大急ぎで豊橋農場へ帰還する。


 慎重に慎重を重ねて、晴嵐は豊橋農場に帰還した。

 見張りの仲間たちも、帰って来た彼の姿にほっとする。軽口を投げかけた若者たちに対して、晴嵐の顔色は優れない。何事かと問いかける周りに、晴嵐は周辺の環境が大きく変化した事を報告した。


「今までは歩いて二十分の距離に、こんなに時間は食わなかったよ……」


 彼は出発から、四時間以上の時間が経っていた。久々に会った友人と話し込んだ……と考えていたらしい。言うほど『遅い』と判断はされていなかったようだ。

 しかし現実は違う。晴嵐は友人と会う事は出来なかった。遭遇したのは化け物と、警察官の格好をした物騒な輩。成果としては自分の生存と、外の様子を多少は知れた事だろう。三島が残してくれたノートとメモも、何かと役に立つかもしれない。見張りとの話もそこそこに、晴嵐は加賀老人の元へ報告に向かった。


「帰ったか。無事のようじゃな」

「はい……でも、外はすごい事になっていました」

「様子を聞かせてくれ」


 彼は、見て来たものを老人と共有する。

 車で詰まった道路、人の生活感が失われた住宅街、動物の気配は増し、いくつかの住居は空虚になっていた。


「化け物は……加賀さんも言っていた通り、夜行性みたいです。昼間は建物の中で寝ていました。気配を消して忍び寄れば、ナイフでも倒せます」

「ふぅむ……じゃがそうなると、家探しの時は注意が必要か。室内でばったり遭遇して、襲われる危険もある……」

「三島のノートによれば、紫外線ライトが苦手らしいですよ? 確保できれば、安全に回れそうですが」

「なんじゃそりゃ……」


 加賀老人も呆れている。というか、何故三島はそんなものを奴ら相手に試したのか、意味が分からない。よほどパニックに陥っていたのか、何かの偶然が働いたのか。何にせよ有益な情報には違いないが……しかし老人は疑いの目を向けた。


「その三島って輩は、信用が出来るのか?」

「つまらない嘘を吐く奴じゃないです。ノートにも俺の名前を残してますし……知った顔相手に、平気でガセネタ吹き込む人間じゃないと思います」

「ふむ……まぁ、そちらは参考程度にするとしてだ。襲われたそうじゃな。警官服を着た奴に」


 加賀老人は話題を変える。三島家に向かった晴嵐の経験談を求めた。彼は隠さず、その経緯と状況を説明する。尾行されていないと思う……と話すと、老人も頷く。


「そうじゃろうな。ほぼ確実に撒いたじゃろう」

「警察は……どうしたんでしょうか? もう暴徒と化してしまったんですか?」

「あり得る話じゃが……断言するには材料が足りない。大まかに考えるなら、二パターンじゃな」

「どういう事です?」

「一つはお主の言った通り、警察官が暴走してしまったパターン。もう一つは『警察官の格好をしただけの暴徒』の可能性じゃよ」


 何を言っているのだろうか? ピンと来ない晴嵐に対し、老人はクックック……と笑う。


「お主の友人の『三島』とやらも、お主も『警察官の格好をした荒くれ者』を目撃している。ここは恐らく間違いないじゃろう。ラジオやテレビから得た情報を見ても、暴徒の出没は納得できるからの」

「えぇ。でもその情報もどこまで信用していいのやら……」

「じゃな。現にお主の情報は新鮮じゃった。ここまで荒れているとはな。想像より悪い」

「……そうですね」


 実際、外に飛び出した晴嵐は……その荒れ様に愕然としたものだ。周辺の住宅に、もう少し人間がいると思い込んでいたけれど、実際はゴーストタウンと化している。農場に引きこもっていては、得られなかった知見だろう。


「では聞くがの晴嵐……こんな暴徒と化け物が跋扈している中で、次に考えるのは?」

「……食料と安全の確保……ですよね?」

「それを分かりやすく保持していそうなのは?」

「政府組織と……警察官……ですか?」

「後は自衛官じゃな。ともかくその辺りじゃよ」

「で、その話とどう関係が?」

「信用できる相手に擬態しておる。それだけじゃ」

「つまり……コスプレ?」

「言動はどうじゃった? 警官の姿勢としては……不自然じゃろ」


 晴嵐としては何とも言えない。警察官は犯罪者に対して容赦しない。故に荒っぽい言動も……一応ギリギリ通らなくはない。

 されど、いきなり住居にチャイムも鳴らさず侵入したり、晴嵐に対する態度や警戒の仕方、その言動は純粋な警察官とは異なる気もする。また、警官には厳しい体力基礎トレーニングも積む事が多い。晴嵐も畑仕事に従事している分体力はあるが、煙幕があったとはいえ、容易に振り切れるだろうか?


「って事は、彼らは警察官じゃない?」

「あくまで可能性の一つじゃがな。何せ……躊躇うじゃろ?『相手が警察官かもしれない』となれば、下手に殴りかかる事は出来まい。縋る輩を騙すにもやりやすいじゃろう」

「で、でも制服をどこで……」

「死体から剝ぎ取れる」


 現に――煙幕を使って逃げ出した晴嵐には、思い当たる節がいくつもあった。人間相手だから、と言う心理もあったが……相手が警官の格好をしていたから、彼は殺害に踏み切れなかったのかもしれない。

 愕然とする晴嵐に、加賀老人は唸る。目線を上や下に泳がせ、老人は思案し、決定した。


「どの展開にせよ、このまま豊橋農場に引きこもるのはよろしくない。少しずつじゃが……わしらの領域を広げる必要がある」

「それは、どういう……」

「決まっておろう。周囲の家や生存者を取り込んで――この辺りを、わしらの根城にする」


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