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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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半端者

前回のあらすじ


三島家で彼らの足跡を知り、安堵を覚えた晴嵐。だが彼の下に、何者かが忍び寄る。じっと息をひそめ、やり過ごそうとした彼の期待と裏腹に、二人組の気配は化け物の死体を発見してしまう。もう隠れきれないと判断した晴嵐は――

 部屋の隅に転がった化け物――『吸血鬼サッカー』と呼んでいた死体と、それを検分する二人組を背に、晴嵐はじっと今まで息を殺していた。

 このまま上手い事、立ち去ってくれればよかったが……『まだ誰か隠れている』とバレた以上仕方ない。穏便に済むとも思えず、彼は行動を起こしていた。この位置関係なら、化け物相手にやったようにすれば、一人に重傷を負わせる事も出来ただろう。

 が、まだ彼には躊躇が残っていた。人外を積極的に殺すのにも、いっぱいいっぱいだった晴嵐に……人間二人を殺害する勇気はない。だから彼が選んだのは『隙を作って上手い事逃げ出す』事だった。二人組が警察官の制服を着用していたのも、決断を促す一要素だったかもしれない。三島の助言が生きた形だ。


 彼が取り出したのは、白い粉を詰めた小さな袋――小麦粉ではなく、肥料として保管されていた『石灰』だ。学校のグラウンドで、白線を引くために使う印象も持つだろう。他の用途として、カリ肥料として用いられる事がある。

 農場を出る前に、護身用に作っておいた物だ。加賀老人の教えの一つで、三つほど自分で製作し、腰に装備してから出発していたのだ。流石にクソだのションベンだのは配合していないが、代わりにある物を混ぜている。


「ゲホッゲホッ!? 辛っ! 辛ぇっ!?」

「目がぁっ……目がぁああぁ~~っ!?」


 煙幕を食らった二人組は、潜伏していた晴嵐の不意打ちに驚く。思いっきりせき込み、そして途中からそれは悲鳴に変わった。

 七味唐辛子配合の煙幕玉は、刺激物をタップリ含んでいる。吸い込めば喉に辛くヒリつき、目に入れば涙腺から涙を溢れさせる。その隙に扉をすり抜けて、一瞬で晴嵐は走り抜けていった。


「こ、この……!? エホエホッ!」

「か、か、隠れていやがった……っ!」


 晴嵐の存在に気が付いたが、彼は全速力で三島家から外へ向かう。入って来た窓から飛び出し、すぐに振り向き、閉じた窓に向けて二つ目の煙幕を投擲。当たり所が良かったのか悪いのか、ガラスは快音と共に砕け散った。いい具合に散布される煙幕を見届ける間もなく、すぐに舗装の道路へ駆けだしていたが……道路にたどり着いた途端、急停止をかけた。走るのをやめ、足音を消し、気配を急激に削らせていく。二人組から視線が切れている事を確認した晴嵐は、豊橋農場へ足先を向けつつ……『農場の反対側に』三つ目の煙幕を投げつけた。


 急加速から急停止し、どっと心臓が混乱を訴える。身体の感覚が歪みそうだが、出来るだけ呼吸を整えつつ、一つ隣の家の脇へ完全に気配を消して隠れていた。

 どっ……どっ……どっ……

 ドタドタっ! ダッダッダッ!

 怒り狂った足音と、晴嵐を罵る声が聞こえてくる。捕まったらタダじゃすまないだろうな……と、妙に客観的な思考が彼の頭を過ぎった。

 不意打ちの混乱と刺激物入り煙幕に、完全に奴らは出遅れていた。素直に真っ直ぐ逃げても、距離を取れたかもしれない。しかし晴嵐は走って振り切るより、所在を隠す事を優先した。この後晴嵐は『豊橋農場に帰還する』つもりでいる。物騒な奴らを連れて帰っては、疫病神扱いされるかもしれない。ここで厄落とし……と言うより、危険な二人組を振るい落としてから帰った方がいいだろう。

 激怒した二人組、警察官の衣服を身に着けたそいつらは……秩序を守る側とは思えない、荒々しい声を上げて、道路の中心で吠えていた。


「あぁクソ! 何処行きやがった!?」

「まだそんなに離れてない! 隠れている……あ、いや待て! こっちだ!」

「なんでだよ!?」

「煙幕使った感じがある。ほら! 下を見ろ! 粉が……」

「出会いがしらにふざけやがって……公務執行妨害で死刑だコラァ!!」


 三つ目の煙幕……晴嵐が自分と逆側に投げた煙幕に向けて、二人組は全速力で走り抜けていった。狙い通りだ。

 一発目は怯ませるために。二つ目は『家からの視線を切り、道路でどちらに曲がったかを見られないようにする』ために。三つめは『陽動』だ。

 追手視点で考えれば……いきなり相手から刺激物入り煙幕を食らい、抜け出したと思えば視界は塞がれ、足音からして道路まで逃げられた事は確か。右か左かで手掛かりなしの所に『片側に煙幕の痕跡』が残っていれば、そちらに逃げたと考えるだろう。身を隠すため、姿を隠すために煙幕は用いるのだから、その奥側に逃げねば意味が無い。


「だからこそ、反対側に『捨てた』……上手く行って良かった」


 幸いなことに、ニュータウンで量産された住宅街は、家と家との間もさほど遠くない。放置された車もそこそこ点在するので、煙幕無しでも身を隠す事は可能だ。土地勘と言うと大げさだけど、何度かここに訪れた事もある。分は悪くないと踏んだ一手は、追手を逆側に誘導する事に成功した。


「ふーっ……」


 ほっと息をつくが、休むわけにはいかない。戻ってくる前に、ここから距離を取り豊橋農場に帰還せねば。そして情報を持ち帰り、いくつか提案しなければならない事も出来た。

 ――農場で閉じこもっていては、外部の情報が入ってこない……

 もちろんラジオやテレビは備わっているが、この有様では政府の放送もどこまで信用して良いのやら。自分の目と耳で、現実を直視してかみ砕く必要があるだろう。


「警察もどうなっているんだか……三島や奥川さんも無事だといいが」


 久々に見た、農場の外側。変わり果てたのは街並みだけじゃない。もっと根本的な何かが変わってしまったと、晴嵐は肌で実感する。

 この感覚を、伝えなければならない。奇妙な使命感を胸に、晴嵐は豊橋農場へと急いで帰還した。

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