真実Ⅵ
前回のあらすじ
残された異世界移民計画・第二陣。腹黒い計算を巡らせる面々に、残ったヴァンパイアは深くため息をつく。不安を抱きながらも、彼らも続いて転移した。
移民計画・第二陣が立ち去ってから……数十時間が経過した。
それ即ち――ユニゾティアにとって数年以上の時間経過を意味する。空っぽになった転移用の魔法陣は、誰も残されていない。怪しげな儀式の場は、微かな干物の臭いと、揺らぐ蝋燭の火が祭壇を照らす。すっかり短くなった白い蝋の塊、先端が突風で掻き消える。すべての明かりが消えると、黒い靄が魔法陣の中心に溜まっていく……
微かだか、誰かからの声がする。
世界の上層と繋がる魔法陣は、上位で行われていた『ある話し合い』を……僅かだが地表に流していた。それを聞き届ける者は、当時は一人もいない。ただ、過去を映像のように眺める霊体だけが……最後の扉が開く瞬間と、動機を聞いていた。
“ガイア。私はそこまでの厳罰は求めない。いっそ罰が無かったとしても、私は今回の事を許せるわ。厄介女神のベルフェゴールが、思惑外れて地団太踏んで、ばたばた転がった所を見れたから、私は満足よ?”
“なんでユニティ? あなたの世界、酷い事になったでしょ? あの住人が憎いでしょ? こんな世界なんて……綺麗さっぱり滅ぼしたいぐらいでしょ?”
“……最初はそう思った。でも私の世界の人たちは乗り越えた。それだけじゃない。ユウナギちゃんのお蔭で……私の望みの融和郷は完成した。種族がバラバラだとしても……精神性を統一すれば大丈夫なんてね。次の世界ではもっと上手くやるけど。それはそれとして、最初の成功例としてユニゾティアも存続させる。ま、厄介な目は残っているけど、後は当事者たちの自主性に任せてみるわ”
二人の女性の声が聞こえる。片方は酷く荒れた調子で、もう一人は皮肉交じりなものの、相手を責める気配が無い。許す、とさえ明言しているユニティに対し、ガイアは汚物を投げ捨てるように吐き捨てた。
“……それだって偶然。たまたまかみ合って上手く行っただけ。私の世界の人間はゴミクズだよ”
“そこまで言う? 今だってあなた、自分が管理している世界の、崩壊を止めていたでしょう?”
“――私がバカだった。ここまで文明が育った事初めてだったから……当代の知性体を甘やかし過ぎちゃった。その結果がコレ。もう愛情なんてない。他人の――他の世界から見たって、間違いなくゴミでしょ”
“きっつい言い分ね。でもあなたが言うほど、人間は悪者じゃないと思うけど”
“だからそれは偶然。上手く行ったのは特別で例外な人だっただけ。ねぇ、なんでユニティは地球人を庇うの? 女神に召し上げたユウナギちゃんに、気を使っているの?”
“何割かはそうよ。あの子に感謝しているし……彼女は故郷の救済を希望している。その様子だと無理でしょうけど”
“うん”
地球の女神は、地球人の救済を即答で拒絶した。相手のユニティが唸るが、ガイアの嘆きは止まらない。
“だってそうでしょ? 本質をちっとも学ばないじゃない。理性があるんだ、良心を持っているんだと鳴き声上げながら、腹の底は真っ黒。その欺瞞と無関心で文明を歪に育てて……地球を核兵器で焼き尽くす。そうやって自分たちで地球を、放射能塗れにしておきながら――とっとと自分たちだけ逃げ出した。挙句、移転先を侵略したんだよ? それも歴史にあった過ちと同じ構図で。しかも別の女神からの、貰い物の反則で。こんな気持ちの悪い生き物を愛すなんて、もう無理”
声だけで分かる、強烈な嫌悪。もう何も言えず、ユニティの深いため息が聞こえた。一応気を使ったのか、ガイアは適当に約束した。
“でもいいよ。そこまで言うなら……地球時間の五十年後で、生き残った人がいるなら好きにすれば? これから浄化を始めるから、無理だろうけど”
“……どうする気?”
“欲深き者どもの、手法を真似する。あの人たち、他人を嬲るのだけは一級だもの。
確か『Organic・Racist・Cleanser』……だっけ。被害種族を苗床にして、増殖して同族にして絶滅させる、生物兵器。ちょうど近いのを、人間を変異させて作った事あるから、転用する”
地球の女神・ガイアはそう言うと……試作した怪物を、人類が生存する地域へ転送準備を始める。息を呑む気配がする。いよいよ始まるガイアの裁きに、もう一人の女性は確かめるように言った。
“本当に……地球文明を滅ぼす気ね。後悔しない?”
“もう後悔は済ませた。こんな事になるまで、ズルズルと期待して処分を先延ばしにした結果がこれ。なんでこんな生き物に、期待しちゃったんだろう。なんで私、こんな生ごみを愛そうとしたんだろう。……ダメな生き物を愛する事に、酔っていたのかな。はは
ちょうど放射能で壊れたヴァンパイアがいるから、ちょちょっと改造すればすぐ完成。変異吸血鬼……ふふ、これなら簡単に人類を地球から掃除できるね!”
もはや……そこにいる女神に、人類への慈悲は無かった。今までずっと、人類に慈悲をかけてきた分、裏切られた瞬間に愛は憎悪へ反転した。
複数の地表へ、女神ガイアは『人類を殲滅するための神の使徒』を、配置していく。星の守護者はもはや、人間を駆除の対象にしたのだ。
“変異吸血鬼は人を襲い、死んだ人は化け物になって蘇る……ふふふ、もう余裕なんてないんだし、さっさと滅びて楽になりなよ。じゃあね、地球と向き合わず、追い込まれて、逃げ出して、何にも学ばなかった自称知性体さん”
憎しみを込めた贈り物は、現状の人類生存圏すべてに放たれる。
本当の終末は……神が人類を滅ぼそうとしたことから、始まったのだ。
終末の始まり
その原因は、地球を司る運営者、女神ガイアが地球人、地球文明に失望し、絶望し、憎悪を抱いた事から始まった。
無理もない。危ういバランスは崩壊し、世界中を核汚染してしまった。この段階で神に見捨てられても致し方なしだが、加えて『異世界』に逃げ出し、逃げ出した先で侵略行為を働いた種族を、どうして愛せようか?
――私たちも他人事じゃないでしょうね。私たちの在り方、生き方は神に愛されるに値するでしょうか? 我々が醜くあり続けるのなら、いつか世界の神は失望し、絶望し、人類へ愛想をつかして……絶滅させに来るかも、しれませんよ?




