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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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移民計画・実行前夜 2

前回のあらすじ


遂に異世界移民計画の、実行の日が迫った。色々と不信感を抱き、出来れば第二陣に固まりたいと訴えるヴァンパイア。しかし周りの不安を煽らない為にも、別々のグループに属すべきと、共同で計画を進めた青年は言う。密かに連絡用の道具を渡した所で、話を聞いていた『もう一人のヴァンパイア』が顔を出した。

 黒の和服姿に、腰に差した日本刀。桜色の髪や恰好は、さまにこそなっているが異様に目立つ。もし彼女がヴァンパイアでなければ、瞬く間に目線を浴びてしまうだろう。彼ら種族の共有能力――周辺に気配を溶け込ませる能力で、やたらと目立つ格好を隠蔽しているのだ。

 この場にいる中で、唯一同族の相手――和服のヴァンパイアに対して、西洋貴族服のヴァンパイアが困ったような笑みを浮かべた。


「全く……君がこの計画に乗るとはね」

「勘違いするなよ。美穂みほが……夕凪ゆうなぎが計画に賛同しているからな。新しい世界と、新しい人々に歌を届けてみたい。そして新しい歌を作りたいと……」

「……彼女、もう十分歌っていなかったか? 富も名声も稼いでいたし、わざわざ異世界に行く必要なんて」

「そんな俗な輩と一緒にするんじゃない。美穂は歌いたいから歌っている。理解したいから人の目を見る。彼女は本当に……人と世界を愛している。欲した異能力チートを見れば分かるだろう? 『相手との誤解ない相互理解能力』なんて、他の連中と比べれば随分と慈悲深い能力じゃないか」


 熱演する桜髪の女性は、ちらりと遠目に一人の女性を見た。多少身なりはみすぼらしいが、その女性の立ち姿は華がある。透き通る声は美しく、表情も身振りも物腰も、すべてが柔らかく包むような雰囲気を宿していた。

 夕凪ゆうなぎ 美穂みほ……世界が崩壊する前の話だが、海外でも伸びつつある歌手だった。某動画サイトにも歌を上げており、男ヴァンパイアも何度か曲を聞いている。彼女ほどのファンではないが、顔と名前は憶えていた。


「……凡人とは違うと思うけど、そこまで入れ込む人間か?」

「異世界移民計画とやらを、大真面目に『人間と組んで』実行するお前には言われたくない」

「うっ……人間付き合いはまぁ、うん。で、でもクロイツ。君は一匹狼気質だったじゃないか。無理やりヴァンプにさせられた直後から、表とも裏とも、距離を取っていたと記憶しているけど」


 和装のヴァンプは鼻を鳴らす。「この際だから教えてやる」と、魔法陣に目を向けてとんでもない事を言い出す。


「……私は姫様の生まれ変わりの保護、護衛をする事を生き甲斐にしている」

「ちょっと何を言っているか分からない。姫様って……」

「私が人間の頃、お仕えしていた方だ」

「……『影の戦争』であの男と駆け落ちした、亡国の姫君……の事かい?」

「そうだ。次に私が姫様を見つけた時は、もう亡くなられていたが……あの男は最後まで、姫様を愛していたよ」


 それは……ヴァンパイアだけが知る、影の歴史。彼らの種族の出自、そして女神ガイアにこだわった理由の一つでもある。地球と別れる前に、二人は遠い過去に思いをはせた。


「懐かしいね。『星外の異物』と、人間の姫との大恋愛……僕らは本来『星外の異物』を駆除するための『星の免疫』だった。ガイアによって創造された『人間の変異種』……けれど」

「我々の方が優れていると、自民族至上主義に陥った。危うく暴走しかけたお前らヴァンパイアを、姫様と亡国わたしのくにの戦士達、そして有害判定を食らっていた『星外の異物』が、人類に手を貸してバランスを取ったのだから笑えてくる」

「運命はいつだって皮肉な物さ。で? それと今回の事に何か関係が?」


 ふてぶてしく笑って、和装のヴァンパイアがイかれた言葉を紡いだ。


「姫様は――生まれ変わっておられたのだ」

「ごめん、何て?」

「姫様は死後、別の人間として転生していた。二回ほど生まれ変わっていたんだ。あくまで記憶しているのは姫様としての記憶のみだが……私の事も覚えて下さったよ」

「輪廻転生かい? 馬鹿馬鹿しい……と、僕が言える立場じゃないが。でも、本当に?」

「本当だとも。私はヴァンパイアに身を落としたが……姫様は二回とも許して下さったよ。だから……あのお方を探して、護衛する。終わりのない人生の、せめてもの生き甲斐だ。今回の話に乗り気なのも……異世界云々は置いておいて、転生の話は信じている」

「あぁ、うん。君を理解できない事を理解した」


 目の前のヴァンパイア……剣鬼と呼ばれる女性は、なかなかに狂った主張を繰り広げている。勿論承知の上なのだろう。呆れる相手にも動じず、堂々と胸を張って答えた。


「フン。別に分かってくれと言わないさ。私の生き甲斐を、私以外に決められてたまるか」

「それは同感だけど……けど、美穂さんを守る理由は? まさか彼女が……」

「いいや、彼女は姫様ではないよ。姫様はお立場もあってか……もっと全体的に毒気が強い。歌なんて犬にでも食わせろと言いかねないお方だ」

「――姫の政治手腕は大したものだった。あれで毒を持っていなかったら、逆に病気だ」

「……不敬罪で叩き切られたいか?」

「亡国の法を適応しないでくれ……」

「はは、冗談だ」


 本当に冗談なのだろう。女傑は羨望の眼差しで歌手を見つめ、理解を求めるように、ゆっくりと所感を語る。


「正体を知った後でも、あくまで友人として頼って下さるし……正直、歌も好きだ。姫様とは真逆だが……そこが愛おしい」

「ゾッコンじゃないか……」

「あぁ。だから私は彼女を守りたい。不埒な目線を向ける他のメンバーから、彼女を護衛する必要がある。向こうでチートとやらを手にしたら、若気の至りで何をするかわからん。自然な恋愛なら構わないのだぞ? 構わないが……」


 まるで母親の言い分に、ダスクと呼ばれた西洋貴族が噴き出す。ひとしきり笑った後、軽めに窘めた。


「あまりでしゃばらない方が……君の基準はハードル高そうだし」

「…………姫様にも言われたよ。私は身持ちが固すぎるとな」

「……まさか君」

「それ以上言ったら斬る」

「怖いよクロイツ……」


 そうして、二人が地球で最後の会話を交わすと、青年が「準備出来ました!」と一同に呼びかける。第一陣メンバーが集まり、魔法陣の中心に立つ。

 異世界転移の作品群に、馴染みのある者達と

 計画主導者の青年、和装ヴァンパイア、そして『歌姫』が身持ちを固める。

 光に包まれ、女神ベルフェによる転送が始まる直前――計画の主導者のもう一人が、相棒に向けて手を振って叫んだ。


「一旦お別れだ、みのる君! みんなも向こうでまた会おう!!」


 感極まったのか……うるりと涙が一筋、名を呼ばれた青年の頬を伝う。

 かくして、異世界移民計画・第一陣は――地球から異世界『ユニゾティア』へと移動した……

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