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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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帰還と報酬

前回のあらすじ


 この世界に来る経緯の違いに、お互いに戸惑う晴嵐とテティ。晴嵐が今までの過程を語ると、それだけでテティは、ことこの場に至る経緯を理解して見せた。感心する晴嵐への、個人的な協力をテティは約束する。

 最初と比べて、門番の気配は物々しい。オーク達への反撃準備に追われ、村の空気全体がぴりぴりしている。村の近くにやって来ていた、晴嵐とテティの二人の影を見て「止まれ!」と鋭く静止の声が飛んだ。

 素直に止まる二人へ、村の番人がゆっくりと近寄る。やがてテティと理解すると、見張り番たちは武器を下ろした。


「テティ! お前、どうしてここに!?」

「オーク達が内部分裂したの。上手い事隙をついて逃げ出してやったわ」

「マジかよ……で、隣のアンタは?」

「森で猟をしとったが、騒がしいので様子を見に行っての。そしたら、この娘が逃げてきおった。わしも仕事終わりで丁度良かったから、そのまま村に同行した」

「ふーん……でもアンタ、獲物がないぞ」

「毎回狩れれば苦労はせんわ」

「いやごもっとも」

「……大丈夫そうだな。入ってくれ」


 軽い質疑応答を終え、再び村へと足を踏み入れる二人。シエラに連れられた道をなぞり、見覚えのある兵舎へ足を運ぶ。近寄るにつれて、鎧を身に着けた兵士の数が増え、荒々しい空気が濃度を増していった。

 一日開けただけで、空気は随分と変貌している。気の立った兵員たちに留意しつつ、二人は軍団長の姿を探す。何人かと会話する集団の中に、目的の人物を見つけた。


「いたわ、行きましょ」

「あぁ」


 焦らず悠々と足を進めると、軍団長もこちらを察知し、話題を切り上げた。一礼して去る兵士たちと入れ替えに、テティ・アルキエラが彼に報告する。


「テティ・アルキエラ、ただ今帰還いたしました」


 軽い調子で挙手敬礼すると、アレックス軍団長も同様に手を上げた。


「よくぞ無事だったな……体調に不良は?」

「軽く疲労した程度で、重傷はありません」

「そうか……悪いが、もう少し気張ってくれ。敵勢力の所感を聞きたい」

「了解です。彼はどうします?」


 若干だが……晴嵐を嫌厭する気配を当人が感じ取る。村の兵士として、部外者は招きたくないのだろう。ちらと何気なく目くばせすると、軍団長が調子を合わせる。


「シエラ兵士長の手が空いている。彼女に事情を聞いてもらおう。テティ、君は情報提供の後に休息を命じる。猟師殿もそれでよろしいな?」

「異論はない」

「私はお留守番ですね。了解」


 暗に「仕事内容はシエラに報告しろ」と指示を受け、大人しく晴嵐は従う。別れる直前、テティと目が合うと、茶目っ気たっぷりにウィンクした。多分、口裏を合わせる合図だろう。神妙に数回彼が頷いてから、自然な足取りで兵士たちの中へ消えていく。

 入れ替わるように……知った顔の兵士長が、晴嵐の前に顔を出す。安堵と喜悦が、遠目からでも見て取れた。


「セイラン君! よくやってくれた」


 お人よしの兵士長は、晴嵐の片手を握って何度か上下に振った。馴れ馴れしい動きを我慢して、兵士長から切り出すのを待つ。


「一日での帰還に、テティまで連れ帰ってくれるとは!」

「うむ……どこで話す?」

「適当に掛けてほしい。聞かれても大丈夫だろう」


 適当な柵を見繕うと、二人は腰かけて兵士たちに紛れる。猟師の衣服だけ少々浮いていたが、戦に備えて忙しい彼らに、注視する余裕はない。一応周辺を気にしてから、兵士長は報告を求めてきた。


「さて……仕事の成果は?」


 彼はテティとのやりとりを頭に入れて、証言が破綻しないように話を作る。


「テティから聞いたかもしれんが……オークどもが騒ぎ始めてな。それで位置を割り出せた。共鳴石は……気絶した馬鹿が近くに転がってな。隙を見て財布の中に仕込んで、そのまま戻してある。よっぽどのことがなければ……捨てられてはいまい」

「それなら移動しても追えるな……試していいか?」

「好きにせい」


 シエラが懐から共鳴石を握り、緑の石ころと同様に宙に浮かべる。赤黒い石の切っ先示した先は、二人が帰って来た方向と同一だ。


「うむ。その方角で合っておる。大丈夫そうじゃな」

「テティはその時に救助を?」

「助けたと言っても……あの娘は、ほとんど自前で逃げていた。精々メシと水を少し分けたぐらいじゃ。あれなら一人でも帰れた気がする」


 彼の所感を聞き届けると、しばらく無言で目を閉じるシエラ。思考を巡らせ終えると、後ろめたそうに問いかける。


「……金髪の女性を見なかったか?」

「テティ以外のか? 混乱と仕事で、そこまで注視は出来んかった。やはり知った顔がいたのか?」

「………………すまない。私には何も言えない」

「……別に構わん。お主の仕事を続ければいい」


 裏の事情を鑑みるに、晴嵐から姫の情報を欲したか。この様子だと、隠すように指示を受けているのだろう。恐らくは軍団長にだ。勿論、晴嵐は自分から明かすことはない。事態がややこしくなるし、彼女かテティなら優先すべきは後者だ。

 無念を含んた息を吐いたのち、気を取り直してシエラが労う。


「それで報酬の方だが……申し訳ないが、あまり多くは用意できない」

「だろうな。非公式の仕事なんざ、そんなもんじゃ」

「ただ……何か力になれることがあれば、遠慮なく言ってほしい。私個人の範囲で、いくらか君に助力しよう」


 当てにならない口約束を適当に流す。皮肉を浮かべた唇から、次の言葉が飛び出した。


「ふむ、それなら早速一つ良いかの?」

「今から時間は取れないぞ」

「なぁに、ちょっと尋ねるだけじゃ。この辺りで、長期滞在できる宿屋はあるか?」

「あー……それなら、テティに聞くのが早い。母親のターニーが、宿屋兼酒場に勤めていたはずだ」

「……いいことを聞いた」


 縁とは、時に妙なものだ。協力を取り付けた彼女なら信用できる。余計なことに気を回さずに済み、交渉もやりやすい。

 ぐっ、と拳を握る彼を見つめ、シエラは最後の確認を行う。


「他に火急の要件はあるか? 私も戦いの準備に入りたい」

「うむ。後は報酬の支払いだけじゃ」


 促され、シエラは金の入った布袋を、彼に手渡す。重さは毛皮より、少し軽いと感じた。

 表情に出ていたのだろう、目線を下げて兵士長は呟く。


「……これだけだ。すまない」

「気にしとらんよ。小遣い稼ぎじゃ。……あまりこのことに気を取られるでない」

「え?」

「これからドンパチやるんじゃろ? 他の事に気を取られては命取りになる。わしの仕事はこれで終わりじゃが、お主らの戦いはここからじゃ。精々わしの仕事を生かすんじゃな。でないと甲斐がない」

「……はっはっは! 言ってくれる!」


 晴嵐なりの激励を受け取り、シエラの顔から後ろめたさが霧散した。親指を立てて握ったシエラに、彼もサムスアップを返した。晴れやかに「ではな」と呟いて、シエラは兵士長としての立場に戻る。

 終わった初仕事の証、渡された金を握りしめ、しばらくその場にとどまる晴嵐。長々と一つ深呼吸と共に、置かれた現状の再認に努める。

 ねぐらの目途も十分、手持ちに資金も得た。数日なら、オーク拠点から奪った保存食で空腹を凌げるだろう。シエラとの関係も築けたし、未開の地での初動としては悪くあるまい。


(ふーっ……ちぃと疲れてしもうた)


 ずっと野宿で食事も野営。必要な行動と、心身に鞭打った弊害だ。一区切りついたのも相まって、気を抜いた瞬間、一気に倦怠感が襲い掛かる。いい加減ここらで、腰を据えて休息せねば。

 人目もある中、柵に寄りかかったまま瞳を閉じる。

 ほんの少しの間だけ、晴嵐は仮の眠りについた。

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