表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

426/738

変化なしの民衆

前回のあらすじ


遂に日本国民全体に、真実が公表された。核による崩壊と災禍が公開され、沈痛な面持ちで世界の様子を伝えるアナウンサー。果たしてこの後、どうなってしまうのか……

「よぉ、晴嵐……やっぱり、世界がおかしくなってたんだな」

「…………そうだね」


 あれから三週間後……あの講義室で、晴嵐とその学生は変わらぬ様子で……いや、変わらぬ様子を装って話していた。

 彼らだけじゃない。講義室にいる皆のみならず、日本人全員が緊張感を抱いていた。例の『真実』の放送の後、人々は強い不安を訴えている。

 がしかし、それでも「日常」をこなしている自分たち学生は何なのだろう? 胸の中に何か不快な塊が残る中、疲れ果てた様子で学生は言う。


「これからこの国……世界はどうなるんだろうな……」

「…………さぁね。誰も分からない事じゃないか?」

「それは、その通りだけどさ…………」


 じっと講義室に座り込む二人。鳴り響く始業の鐘。うろたえる学徒の隣で、晴嵐は誰とも目を合わせない。

 彼が開いたノートは二冊。一つは講義用、もう一つはこれからの、人の流れ、物資の流れ、世界の流れの予測事項だ。隣の相手に見せる気も無く、淡々とペンを走らせ思案を巡らせる。冷たい彼の態度を無視して、学徒は不安を吐き続けた。


「いやぁ……ネットの噂も大したもんだよな。部分的とはいえ当たってたし……核戦争が起きたなんて、未だに信じられないよ」

「……そうだな。俺らの生活は、見た目はいつも通りだ。色々値上がりした物もあるみたいだけど」

「それな! 災害対策用のグッツ、めっちゃ売れてるらしいじゃん。晴嵐はどうなの?」

「微妙。缶詰とかはちょっとだけ……一人暮らしだし、軽くつまめるからさ」

「だよなぁ……しかもどこもクッソ高いし……けどフリマアプリとかで、缶詰を高値で、大量に出品した奴ら燃えてたぜ」

「そりゃ燃えるでしょうよ……やっている事、いわゆる転売ヤーだし……」


 転売ヤー……人気の商品を市場から買い占め、その後ネットオークションサイトなどで、値段をうんと高くして流す者達の事だ。最近は企業側も認知しており、各種対策や、一部ネット民による「悪者の転売ヤーを騙す」といった話も耳にする。比較的冷めた様子の晴嵐に対し、学生は憤慨した。


「あれより悪質じゃね? プラモとかゲームとか、カードとかなら……いや、それを良い事とは言わねぇけどさ、まだ趣味の事じゃん。そりゃあ純粋なファンや、企業様から見たら大迷惑だよ? けどそれが無いと生きていけない……って言われたら、ちょっと違うじゃん。ガチオタクやファン目線だとさ、生きるのが苦しくなったり、辛くなったりするかもしれないけど……それでも命に係わる危機とは違うじゃん。

 けど、非常食を吊り上げるのはダメだろ。みんな欲しくてたまらないモノじゃん。下手したら命に係わるモノじゃん。ソレ買い占めて『欲しけりゃ金払え』って……本格的にマズくね?」


 晴嵐は……何とも言えない。学生の考え方は、完全に事後対応なのでは? と思う。

 確かに腹が立つ。自分が欲しい物を先んじて買い漁って、本当に欲する相手に供給しない……おまけに欲しければ、メーカーの定価より金を出せと言う態度は、多くの人間の神経を逆撫でするだろう。

 が、本当に欲するのならば、先に手を打つ事も考えた方も良い。それに今回に関しては、イレギュラーな要素がいくつもある。


「こんな時世じゃ、誰だって未来が不安だ。保存食はいくらあっても困らないだろうし」

「そりゃまぁ……うん。って、晴嵐? 庇うの?」

「んな訳ないよ。ヤな奴だと思う」

「だよなー」


 相手が若干の嫌悪を滲ませた所で、晴嵐は意見を少し変える。本音で何かを話す必要などない。人と円滑に話すには、相手が望むような言葉を話していればいい。自分の本音が伝わらない。聞く気が無い相手に……自分が嫌われる危険を冒して、腹を割って話す必要は無いじゃないか。冷徹な意思による処世術。全くの嘘でもないが、本心を隠し、加工した事実を話す。


「買い込むまでは……誰だってやりたいだろう。俺らだって備蓄が全くなかったら……」

「あぁ、うん。モノスゲー不安」

「でも売るのはマズいよなぁ……とは思う。百歩譲って自分で使う為なら分かるけどさ」

「それな! 親とかダチとかに分けるとかでも、まぁセーフかなって感じ。でも転売のために買い込んで足元見るのは……なんかムカツク!!」


 別に転売ヤーに限らず、足元を見る商人はいると思うが……それを話しても「めんどくせぇ」と言われそうな気がする。相手から嫌われないように、けど完全に切り捨てる事も出来ず、彼はそれとなく忠告した。


「保存食を確保しても、あまり言いふらさない方がいいかもな」

「ん? なんでさ?」

「今はいいけど……その内難癖をつけて、奪おうとする奴とか出てくるかもよ?」

「そんな事平和な日本で……いや、もう今までとは違うんだったっけ……なんか、思ったよりみんな平和的で、全然危機感が湧かないけど……」

「そう……なんだよな……放送終わった後も、派手な暴動とか全然起きないし……」


 これは本当に不思議な事なのだが……世界が核で壊れたというのに、日本国民は思ったよりはパニックにならない。現に晴嵐たち含む学生も、こうして講義を受けれている。この能天気なのか鈍いのか、極端な事は起きていなかった。


(なんか、逆に不気味だ。大丈夫じゃない気がする)


 本当の崩壊はこれから来るかもしれない。どことなく焦る彼の隣で、学徒の一人は教授の授業を律儀にノートへ書き込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ