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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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EMP

前回のあらすじ


 まだ状況がはっきりしないが、晴嵐は未来に備える。食料と水の確保をしたいが、下手な買い占めは晒し上げを食らいそうで危険と判断。少しずつ買い溜めつつ、自給手段を考える。その中で、最終的に電子機器がすべてやられるという情報を目にし、彼が向かう先は……

 すぐに出発した晴嵐は、古本屋へと足を運ぶ。

 電子書籍の流通が進む現代において、紙の本は下火となっていた。文章であれマンガであれ、データにしてしまえば物理的にかさ張らず保管する事も出来る。情報収集の役目としても、何も紙媒体の本に頼る必要性は薄くなった。解説の動画やネット記事も、ごまんと存在している。

 もちろん晴嵐も、最初はそれだけで良いと考えていた。しかし複数の情報源を漁るうちに、電子媒体のみに頼るのは、危険だと彼は判断した。


「あった……急げ急げ」


 漫画コーナーを無視して、奥の方の実用書を探す。「災害用緊急マニュアル」という表題を素通りし「良く分かるサバイバル術」「身近に出来る保存食」などの、過酷な環境で生き延びる為の技術教本を手に取る。追加で「誰でもできる! 室内ペットボトル栽培!」とかの本も籠に入れておく。古い本ならワンコイン、百円と税金で買えるから安い物だ。


「サバイバル系は……いくつか被ってもいいから、買っておくべきか」


 情報源は複数持っておくべきだ。全く別々の本、ネットの情報源でも、同じ事が書かれていれば信憑性は高い。別々の事を書かれていたなら要注意して、自分の頭でかみ砕く必要があるだろう。それがどんな物であれ、たった一つの情報源で、真実と決めてしまうのは危険だ。が、複数の情報源を使って、現実とすり合わせれば多少確度は上がる。

 この世界に絶対はない。けれど思考する事を止めなければ、ババを引く確率は下げられる。最終的に行き着く場所が同じでも、延命する事は出来るかもしれない。そのほんの少しの差で、死神を避けられるかもしれない。予想外に重くなった買い物籠を手に、若き日の晴嵐はカウンターに向かう。


「コレ全部下さい」

「はーい、三千円になりまーす」

「う…………」


 流行りのソシャゲで、十連が一回回せるレートと聞いて、晴嵐は一瞬躊躇した。もしかしたら無駄に終わるかもしれない、心配性に過ぎる用心で、この金額を投じる必要があるのだろうか? やっぱりやめてしまおうかと考えが過ぎったが、夢に見た亡霊の影が、彼に決断を促した。

 考えるべきことを考えず、成すべき事も成せず、使うべき物に使わず……日々の愉悦だけにカネを投じてなんとする。誘惑を振り切り、諭吉を三枚差し出した。

 百円換算でも三十冊。さすがに全部は百円の本ではないが、それでも十冊以上はある。元から買い漁る予定だった晴嵐は、リュックサックに本を詰めた。ずっしりと重量が両肩にのしかかり、オンボロチャリに跨って帰宅する。


「これで役に立たなかったら……いや止そう。逆に考えるんだ。これで一番ヤバい事態は回避できた。そう考えるんだ」


 どさどさと借りた寮に戻ると、リュックからすぐに本の束を取り出す。そのままパソコンの電源を入れ、もう一度彼をこの行動に走らせた記事を読んだ。

 曰く――「核弾頭が落ちた後は、強力なEMP……電磁パルスが発生し、電子機器は軒並み壊れてしまう」らしい。スマホやパソコンはもちろんの事、冷蔵庫に炊飯器、電子レンジに給湯器まで全滅だ。最新のマンションや一軒家の場合、IH・ヒーターまで機能不全に陥るらしい。まぁ晴嵐の暮らす安い寮は、そもそもキッチンは流しのみだが。

 詳しい原理は……記事やら詳細やらを読んでもチンプンカンプン。けれど過去の実験により、核と電磁パルスには関係性がある事は確かだ。どうやらこの原理を巡って、ネット界隈が二つに割れているそうだ。


「……こっちは結論が出ていないか」


 現在日本は、海外との通信が出来ない状態にある。一週間を超えても回復しない通信障害について、核弾頭が原因ではないか? との主張が広がっていた。その根拠の一つがEMPだ。

 世界中に核が着弾した事により、磁気嵐が発生。ありとあらゆる海外の電子機器が破損し、物理的な破壊のみならず、磁気によって機械が全損したのではないか……と言うのが世界崩壊説の論拠の一つとなっている。

 が、逆にこの論調を使って「実際にただの通信障害だ」と反論する者もいた。

 このEMP……電磁パルスによる影響は、近未来SFの創作で知識を得た者も少なくない。しかしこのSFでのEMPと、実際のEMPには大きな差が在るらしい。


「創作物みたいに……EMP攻撃は敵味方を判別して、ピンポイントで破壊は出来ない。と言うよりEMP自体『範囲が広すぎて』軍事で使うには味方を巻き込みかねないほど、広範囲に影響が出る……か」


 実際の出来事と、小説や創作物で起きる事には差が在る。

 世界破滅の反対派の意見では……「もし核で世界が滅びているなら、海外どころか日本のネット回線もダウンしている」そうだ。EMPとは、それほど減衰しにくく、広範囲の電子機器を無差別に破壊するらしい。だからあり得ない、とネット掲示板で激しく口論になっているように見えて、彼は不毛な事に気が付いた。


「肯定したい人は『肯定したい人の掲示板スレット』を立てて

 否定したい人は『否定したい人の掲示板スレット』を立ててる……」


 自分が認めたいモノ、信じたい方向性の所に集まって、ネット上で井戸端会議に走っている人々。反対意見が出れば「荒らし」扱いされ、全力で異物扱いで殴られる。誰も自分の意見と言葉を吐くばかりで……「真剣な議論」「冷静な対話」をする気配が、一ミリも見られない。読むだけ無駄と判断し、最後にEMP対策について調べたが、本当にこれで良いのか不安になった。


「主に金属製の電気を通す箱に、内側に布などの電気を通さない物質で覆って、電子機器を入れる……? 本当にこんなので防げるのか?」


 真偽不明の情報、確かめようもない情報に胡散臭く眉を顰めつつも、必要な情報をUSBメモリーに保存して突っ込む。いつか役に立つんだろうか? 半信半疑のまま、準備をしつつ晴嵐は日常もこなしていく。

 一応は、自分の両親にも備えるよう伝えておくが……帰って来たのはいつも通りの、タダ晴嵐を心配するような言葉ばかりだった。


用語解説


EMP

日本語にするなら電磁パルス。特殊な波を放射し、浴びた電子機器を軒並み破壊してしまうモノ。こいつの特徴は物質をすり抜け、かなりの広範囲を無差別に破壊してしまう点。一応防ぎ方もあるらしく、調べて出て来た方法がアレです。……本当にこんなので防げるのか?



ps 某バトロワゲーを想像した人、怒らないから出てきなさい!

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