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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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悪者にならない為に

前回のあらすじ


一週間経っても、回復しない海外との通信。情報が錯綜する中、変わらないように見える日常に身を投じる学生たち。不安を覚えながらも、いつか専門家や偉い人が何とかしてくれる……と言う人々を振り切り、晴嵐は備えに入る。

 あの悪夢から一週間。具体的な行動はまだだが、晴嵐は段取りを考えていた。

 何せまだ確定情報が無い。しかし裏を返せば……情報が確定した時に動いては、既に出遅れと言える。まだ周りが迷っている間に、予兆の段階で動いた方が、良い結果を得られるのは真理だ。早とちり、拙速とも取られるかもしれないが……その時は後で笑い話にすればいい。


(さて……周りの国が全部滅びたとして、これから何が起こるだろうか……)


 崩壊がどれぐらいの規模なのかは、分からない。すべての国家が完全に消え去ってしまったのか、まだいくつか息のある国が残っているのか……詳細は不明だ。しかし明確に予測できるのは「生き残った国は、自分の国家生存を最優先するだろう」と言う事。

 余裕がある時なら、いくらでも温和な顔で交流は出来る。が、自分の身が困窮に陥っている時、他人に構っている余裕はない。個人でも国家の付き合いでも、まずは自分自身が第一だ。


(となると、真っ先に必要なのは食料と水だけど……)


 災害用の長期保存可能な水、そして保存食も現在では多数販売されている。すぐに思いつきはしたが、しかし晴嵐は首を振った。

 大量に買い込むのは、それはそれで危険な気がする。勿論必要だとは思うが、もしその行動が目についたら……逆に悪目立ちしてしまうかもしれない。

 今はまだ、日本内部のネットワークは生きているのだ。変に特定や晒し上げを食らえば、危険な目に合うかもしれない。既に晴嵐は……他人に対して冷たい目線を身に着けていた。


(追い込まれてから場当たり的に、考える奴はいるかもしれない。そんな時に――『アイツ買い占めに走っていた』なんて掲載されたら、力ずくで奪いに来るかもしれない。それも一人や二人じゃなくて、大多数で)


 昨今の炎上騒動を見れば、その光景は容易に想像できてしまう。

「悪者」と烙印を押した相手に対しては、人間はどこまでも残酷になれる。自分は悪くない、悪いのはアイツなんだ。こっちには正当性があると、自分こそが正しいと思い込めれば、それでいい。おまけに今回は自分たちの命が掛かっている。となれば、容赦なく身ぐるみ剝がされるかもしれない。


(冷静に考えれば、酷い話だけど。なんで先に考えて、自分の食い物備蓄した人が悪者なんだか……)


 そうして行動した相手に対し、衆愚が行う事は押し込み強盗だ。大勢に押しかけられたら、晴嵐一人では成すすべがない。

 そんな事いちいち気に留める奴なんて……と言う考えは甘い。昨今はSNSですぐに情報特定や拡散が行われてしまうのだ。壁に耳あり障子に目あり。例えば食料を買い占めた店の店員が、匿名掲示板でべらべらと喋らないと言い切れるか? どうなるにせよ悪い注目は、買わないに越した事はない。


(目立たないように別の店で、少しずつ買い溜めた方がいいか。格好も地味な奴にして、印象をぼかそう。それに、一番大事な買い物はそっちじゃない)


 保存食と水は、程々の購入に留めた方がいいだろう。仮に何事も無かったとしても、賞味期限が近付いた所で、少しずつ消費すればいいのだ。

 それよりも――最も重要な物がある。すぐに食える食料も大切だが、本当に重要なのは「食料の自給」だ。

 畜産、狩猟、栽培、漁……人が生きるために必要な、食料の確保手段。いくら保存食を用意していようが、食い物は結局消耗品である。そして保存期間にも限界がある。ならば「新しく食料を確保する」方法を押さえておかなければ。


(幸い、ネットの情報は確保できているけど……)


 とはいえ、匿名の人間が好き勝手書き込める情報源じゃ、どこまで信じてよいのやら。自分で試行回数を重ねて、経験として身につけておきたい。物価が上がり始めているけれど、今からでも何か出来る事はある筈だ。

 たとえ今が絶望的であったとしても、結局何も変えられなかったとしても、何か出来る事はある筈だ。何かやれる事がある筈だ。待つしかない時はあるけれど、その間に少しでも出来る事、やれる事を探し、実行する事は何ら恥ではない。

 自分の頭で、自分の現実と向き合う事。真偽の分からない世界であっても「面倒だ」「分からない」「答えだけが欲しい」と……自分の思考を放棄する人間は危険だ。

 失敗や間違いは怖ろしいだろう。馬鹿にされるのは屈辱だろう。だがそれでも……「自分の現実を自分で考える癖」は、決して無駄な事ではない。


 必要そうな情報を、お気に入り登録でピン止めしつつ、きっちり活字を読み込んでいく晴嵐。身近で出来るペットボトル栽培とか、室内で育てる野菜や、リサイクル栽培などの情報を漁る。他にもサバイバル系のウンチクを巡りながら、一人黙々と「次の展開」に備える。その中で一つ、真偽不明ながら……厄介な情報を発見した。


「――……最終的に、電子機器が全部使えなくなる、だって?」


 すっかりネット社会、便利な機器に慣れてしまった現代人。その人間たちにとって、悪夢めいた文言である。内容に一定の理解を示した晴嵐は、次の行動へと移った。

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