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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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大きな変化のない一週間

前回のあらすじ


 目を覚ます若い男。そこにはかつての日本の日常が流れていた。既に壊れているとは露知らず、学生たちは大学に通う。その中の一人、晴嵐も……悪夢から目を覚ましただけで、いつも通りだった。

「なぁ……いくら何でもこんな長い事、通信障害が起きているのはおかしくね?」

「…………」


 若き日の晴嵐は、一週間後の同じ講義に出た仲間に対して呆れた。

 あの奇妙な夢を見てから一週間。特に目立った発表は無かったのだが、所々おかしな所が見受けられた。最初こそただのネットワーク・エラーと判断されていたが、他の様々な要素が、直接言わずともはっきりと影を落としている。

 例えば、若干スーパーの物価が上がっていたり。

 例えば、連絡できない、通信できないと言う所は仕方ないが、異常にTVメディアでの海外特集が減少したり。

 また一部ネット界隈では「海外行きの飛行機離着陸が、ぱたりと途絶えた」との情報ももたらされた。確かに通信がまともに行えなければ、空の上で地図を開く事は難しくなる。安全性の面でも危険は危険だが、にしたって「完全に」消える事はおかしい。


「これさ……例の噂が本当の事なんじゃないか」

「例の? 例の噂って……実は周りの国が核戦争で滅びちまってる……って奴?」

「そうそれ」


 これだけの長い期間、海外との通信が切れてしまったら……流石に想像せずにいられない。通信が途絶する前に、喧騒を聞いたという人物もいる。信じているのかいないのか、相手は「どうだろうな……」と半信半疑だ。


「専門家のお偉い先生によれば、仮に核戦争だとしたらもう打つ手なしだってさ。地球は急激に冷え込んじまって、人間は生きていけないんだと」

「……それで?」

「だったら考えても仕方ないだろ。俺たち一般ピーポーに何が出来る? 偉くて頭のいい連中には何やっても勝てねぇんだし、今は今俺らに出来る事をやってりゃあいい。偉い大人のみんなが何とかしてくれるだろ」

「…………あっそ」

「なんだよそのシケた面」

「実際白けたからだよ」


 そして若い男……晴嵐は冷たい目線で席を立つと、講義用のカバンを片手に別の席に座る。あからさまにそっけない態度に腹を立て、残された方は後味が悪く、ぶさくさと文句を言いつつ授業を受けた。


「なんだよアイツ……」


 いや、変化は晴嵐の態度だけじゃない。大学生の一人はあからさまに苛立っていた。

 一週間前から通信周りが不調な事、そこにまつわる真偽不明の様々な噂。謎の悪夢を見た複数の証言に呼応するように、テレビや各種メディアは「噂に惑わされないように」と発信を行う。

 何が正しくて、何が間違っているのか。錯綜する現状の中で、不穏な空気が心にストレスを溜める。そこから解決策を求めるように、ネットで真偽不明の情報を適当に読み漁り……どれも下らないと笑って過ごす。そうしているうちに賢い誰かが、現状の解決策を見つけてくれるだろう。自分は答えが出るのを、ゆっくり待っていればいいのだ。


「ったく、晴嵐も神経質なんだよなぁ……こんなの適当に生きてりゃその内何とかなるってのに。今まで通りにやってりゃ、誰かが知らせてくれるだろ。悩んだってしょうがない事もあるし、人生経験たっぷりの大人たちが何とかしてくれるべ」


 のんびりと講義室に座り込み、周りの学徒と共に今まで通りの日常を過ごす。多くの人が同じように考え、同じように活動をする中で、はみ出し者となった男――晴嵐はボロアパートに戻った後、改めて深く深くため息を吐いていた。


「くそっ……なんで誰も真剣に考えないんだ……」


 上手く言語化するのは難しいけれど……なんとなしに「不穏な空気」を晴嵐は感じていた。嫌な予兆と言えば良いのか、はっきりとした証拠はないが、不安を感じる。

 そしてその可能性は、全くの思い込みや杞憂とは言い切れない節があった。となれば、備える事が肝心だと思うのだが……自分の判断で動かない、周りの人間に晴嵐は苛立っていた。

 真実がどこにあるかは、正直な所判断がつかない。しかしだからと言って……何か危険が迫っている時に、不穏な気配のある時に、誰かの言葉や主張を鵜呑みにして良いのだろうか?


「そんな訳があるか……分からないなりに、自分で考えて、行動に移さないと」


 何が正解かは分からない。何が間違いなのかも分からない。だが自分の見ている現実と世界を、自分以外の誰が解釈できると言うのか。偉くとも、賢くとも、善良だとしても……人間誰しも「間違える時は間違える」のだ。

 ならば鵜呑み程、危険な事はない。自分の頭が悪かろうと未熟だろうと、完全に思考を止めてしまうのはダメだ。誰かの言葉に惑わされていては、気が付いた時には崖から突き落とされているかもしれない。そして後から泣き喚いても「勝手に落ちたお前の自己責任」と一蹴されてお終いだ。

 正直、近くにいる誰かと話し合いたかったが……晴嵐は深く交流を持った相手がいない。遊び相手や、何らかのグループに属した事はあるが、元々彼は一人で黙々と作業をこなすタイプだ。


「ネットの相手は……ダメだ。適当な話し相手にしかならない」


 親しい友人などいない。家族も今は離れて暮らしている。

 ――と言うより、自分から距離を取った節がある。深く深くため息を吐いて、晴嵐は自分の行動を考え、選択し、実行に移す計画を練った。

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