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終末から来た男  作者: 北田 龍一
幕章 終末世界編

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連鎖する破滅

前回のあらすじ


核の着弾により、被爆地は地獄と化していた。爆心地は消し炭となったが、即死した方が幸福と呼べてしまう、街だった光景の中で……人がケロイド状に爛れ、川に飛び込み、過去の被爆地で起きた災害が再臨するが、これは地獄の始まりだ……

 人類同士の核による報復合戦から、数時間が経過した。

 始めは弱小国が放った、一発の核ミサイル。そこから被弾した核保有国が「密かに別の核保有国が、核ミサイルを横流しした」と判断。自らの国が焼け野原になった現状に狂気に飲まれ、核保有国に対し報復を開始。

 誰も心当たりも、正当性もない核攻撃に……各国の対応は遅れた。迎撃兵装を保有する国家も少なく「仮に核を撃たれたら報復すればよい」と言う前提の演習訓練では、どこまで身が入っていたかも怪しい。射出されたミサイルの数も尋常ではなく、すべてを迎撃する事は不可能だ。先制攻撃の優位は、兵器が進化した現代でも変わらない。守り切るよりも、攻め潰す方がずっとずっと容易なのである。


 核による破滅の光景は――世界各国の有名都市に展開されていった。

 皮肉な事に、核を保有・維持出来る国家は少なからず繁栄を享受していた。より高度に成長し、肥えた果実にサンサンと降り注ぐのは、人類が作り上げた人工の太陽。ほんの一瞬、至近距離で顕現した核の熱により……すべての被爆地で煉獄が作られていた。

 だが、これもまだ始まりに過ぎない。文明が消え去った灰は、熱によって空へと舞い上がる。たっぷりと放射性物質を吸い取り、巨大な積乱雲として被爆地の上空を覆い隠した。やがて……スコールめいた雨が地表に降りしきる。神が犠牲者に対しての追悼の涙……ではない。仮にこの地獄を生き延びたとしても、遺伝子に呪いを刻み込む死の雨だ。


 大量の粉塵と灰を吸った、漆黒の雨。放射能を含んだ大きな雨粒が、地表へと次々と降り注いでいく。それは辛うじて生き残っている人々と大地に、猛毒をたっぷりと塗り込んでいった。

 放射能の減衰には数年、物によっては数十年単位でかかる。人類のみならず、地球にも凶悪な環境汚染が色濃く残留する……


 これでは、救助活動もままならない。現に広島、長崎の場合でも「被災地域へ、後から救助しようと侵入した者が、残留していた放射能と、降り注ぐ死の雨によって被爆した」のだ。

 この救助者達は、核による被災を免れた人物だった。にもかかわらず「核の炸裂から2~3日間に被災地に侵入し、長時間滞在した者は放射線状を患った」のだ。現代でも治療不可能の、一生に渡って苦しめられる遺伝子の傷を、である。

 人だった者達が、人のような異形に変えられ。

 町だった物が、街のような廃墟へ変えられた。

 終末的な状況で……それでもなお心を痛め、犠牲者や被害者を救おうと町に足を踏み入れた者へ、少しでも人を救おうと、美しい良識を持った者へ残留放射能は襲い掛かったのだ。まるでこれからの時代を……まともな精神性を持つ者から、損をする時代を予測するように。


 それでも悲劇は終わらない。


 核による破滅的光景は、核保有国の大都市すべて広がっていた。そして世界中で粉塵が……文明の遺灰が大気圏まで舞い上がる。死と呪いと絶望は、この程度では終わらない。

「核の冬」だ。世界中で核弾頭が着弾した事で、大量の熱と灰が発生した。これにより上昇気流が生じ、空を二酸化炭素と放射能を含んだ黒雲が、太陽光を遮る。地球温暖化で騒がれて久しい地球環境は、これを機に氷河期へと転じてしまうだろう。

 地球全土を温めていた太陽は雲の奥へ引きこもり、発生した磁気嵐が電子機器を破壊する。平均気温は常に摂氏零度を下回り、晴れぬ事のない極寒を包み込む。そして稀に降りしきる雪や雨には、もちろんたっぷりと放射能の毒が山盛りだ。

 さらにさらに――低温環境と日光を失った事で、あらゆる植物の成長も鈍化し、枯死が始まる。光合成が困難となり、低温は植物の成長を鈍くするのだ。


 そして――植物が生活困難となれば、今度は動物も危機に瀕する。

 植物の光合成は、二酸化炭素を酸素へと還元する。例外的な酸素合成はあるが、今の地球の基礎を支えているのは植物だ。酸素の面のみならず、食料面でも植物なしに地球は成立しない。

 つまり――人間の都市が吹き飛んだ、なんて小さな話では収まらない。彼らの悶絶死など、地球目線で見ればそれどころの話ではない。核報復合戦は文明どころか、星の命を終わらせてしまう……その危険を孕んだ大事件なのだ。


 文明が生きていた時代のシュミレートでも……核が落ちた地球でも「核の冬」の予兆はあった。世界中で急冷の危険性が見え、確実に世界が終わる瞬間が迫っていた。最も生き残った人類は、目の前の危機に思考を働かせる事も出来なかったが。

 生き残った国は、非核保有国だ。

 核弾頭が落ちた国は核保有国。抑止論と報復論は――裏を返せば「核を保有していない国家には、核による報復をする必要は無かった」のだ。よって直接の被害は無かったが、激変の兆しを持つ地球では……いずれ彼らの運命も死に向かうしかない。

 だが……ここで奇妙な事が起こった。

 滅ぶしかない。絶滅に向かうしかない。そんな地球に対して、まるで見えざる神が手を差し伸べたように……濃厚な雲が一部地域で晴れていった。それも、核弾頭が着弾しなかった地域に。まだ救いのある地域に向けて。

 核の着弾地点は、大量の熱と粉塵、上昇気流により汚染雲が発生する。だがその雲は風に乗り、厚く地球を覆うものと考えられていた。

 だが、実際にはそうはならなかった。果たして誰が、完全な破滅を止めていたのだろう?

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