旧型の核兵器
前回のあらすじ
亡霊がルノミを導くのは、世界に破滅の一発目が放たれる瞬間。狂気と憎悪に飲まれた人々が、破滅の引き金を引く。幽霊のようなルノミが手を伸ばしても、滅びゆく世界は止められない。
放たれた飛翔体は地中海を超え、ヨーロッパの某国都市上空へ到達した。
本当に信じられない事だが――大国各所は某国の『核弾頭』の所有を把握しておらず、通常弾頭のミサイルと判断していた。
砂塵舞う国のテロリストの、長距離ミサイルの存在は驚かせたが……まさか核を装填しているとは、全く想像していない。長距離ミサイルと言っても、大陸間弾道ミサイルほどの射程はないし、所詮は旧式の兵装だろうと高を括っていた。
だから――飛翔体を確認しておきながら、攻撃された国家は見過ごした。運悪く市民か施設に犠牲は出るが、悪いのは撃って来た側だ。国民に痛恨の極みと涙ながらに訴えつつ、それを口実に介入すればいい。復興支援団体から援助を受けれるし、総合的に見れば最終的にプラスになるだろう。政治家が打算を巡らせて、見えているソレを敢えて見逃した。
旧式兵装な点は正しかった。だが判断は致命的に間違えた。
最後に実戦で用いられた核爆弾、ファットマンの破壊力は――半径二キロにあった建造物の、約90%を破壊した。爆心から3.5キロ以上離れた人物も熱線を浴び、皮膚に火傷を負ったとの記録もある。
しかしこの資料は、あまり参考にならないだろう。何せ70年前の兵器の記録だ。カラーどころか、モノクロのテレビさえ存在しない時代の兵器。そんな旧型兵器の記録は、発展した現代兵器と比較対象にならない。
当時の核爆弾、核兵器は「核分裂爆弾」で――現代の核兵器は「核融合爆弾」と呼んだ方が正しい。最後の核実験の記録によると、推定破壊力は長崎型の1500倍以上とされている。実際に都市部に着弾した記録はないが――コンピューターによる試算によれば、たった一発炸裂するだけで、直径40~50キロメートルの範囲にある建造物を、90%近く破壊する事が可能という。
爆心の端でこれなのだから、爆心地付近はなおの事、悲惨な情景を生み出す。爆心から半径五キロ内の場合――あらゆる生命も物質も巻き込んで、熱と突風と放射線の渦により、何もかもを蒸発させ、焼失し、消失させるとの演算結果が出ている。
さらに――最新の核ミサイルの場合『一発で複数個所に核攻撃を行う事が可能』だ。
複数個別誘導再突入体――その頭文字をとって「MIRV」と呼ばれるミサイル攻撃システムがある。1980年代に完成していた攻撃機構は、ざっくり言うなら「一発のミサイルに複数爆弾をセットして、別々の個所に爆弾を投下する」システムである。例を挙げると、たった一発の核ミサイルで、10以上の都市を核で爆撃出来るミサイルだ。先ほど記述した通り――威力が直径40~50キロの核爆弾を、一発のミサイルで複数個所にばら撒けるのである。
それと比較すれば、今回使用された核兵器の威力は大した事が無い。恐らく調達できた核武装が、数世代前の旧型、廃棄された物を流用したのだろう。1990年代に始まった核廃絶の動きにより、保有数を各国は削り始めた。
純粋な綺麗事ではない。数を保有せずとも、兵器の質が向上したのだ。少ない本数で敵を滅ぼせるのだから、数で虚勢を張る必要は無い。無駄に古い兵器を保持していても、管理面での手間がある。核であればなおさらのことだ。核の保有数を減らす提案は、互いにコスト面で利益があるし、数発のミサイルで相手を滅ぼせる現状に変わり無い。融和アピールで国民共が盛り上がれば、政権の成果としてアピールにも使える。
そうして核と言う極めて危険な物質を、政治的な道具として使い続けてしまった。
今回使用された破壊範囲は直径20キロ前後、消し炭になった範囲も、爆心から3キロ範囲が、熱線と爆縮で跡形もなく蒸発し消滅した程度だ。さらに発達した都市な事が幸いし、地下鉄や地下繁華街の奥にいた者は助かった。核の直近の脅威は強烈な爆風と熱線、そして爆発後に起こる「爆心方向へ吸い込むような突風」だ。そのため地表にいた者、高層ビルや窓のある建物の場合は、ほぼほぼ助からないが……同じ距離でも「地下空間深くの場合、熱と突風を回避できる為、即死せずに済む」のである。
念のため核シェルターに退避した、心配性の軍関係者や政治家も命を拾った。すなわち被爆国は、最低最悪の状態を回避していた。
土地には致命的な放射能汚染が残留するし、人々は心身共に深い傷を負った事も確かだろう。けれど、本当の本当に最悪な状況とは異なるし、人間の希望や可能性があれば、きっとここからも立ち上がれるだろう。周辺の人間だって同情的な目で見つめて、色々と支援も行われる。
だから大丈夫だ。その苦しみは一時的なものだ。歴史に残る大事件だけど、時間が経てば風化して、いつか人類は学んで二度と過ちを繰り返さなくなるさ。今までの人の歩みと同じように、荒廃しようと、別の人種が流れ込んで、全く別の統治体制が出来ても、今まで上流にいたんだから大丈夫。酷い災害で……かわいそうだけど、まぁ頑張れ。
外部の国は、きっとこういう態度をとるだろう。所詮何が起ころうと、他人事は他人事と割り切って、理解も共感も切れるのが人間の良い所でしょう?
数値ばかりで良く分からない? よし、じゃあ試しにシュミレートしてみようか。雑に。
パソコンの方がやりやすいが、スマホでも良い。君の知っている場所を三か所選んで、地図アプリで俯瞰するんだ。(縮尺も合わせるとより良いけど、まぁ適当に)
その地域は、一発の核ミサイルで全部崩れて灰になる。以上! 分かりやすいでしょ?
その破壊力のある兵器を、五つの国が500程保有していて、互いに向け合って脅しあって、世界は平和だって言ってるのさ。
はは、狂っているって? 冗談よせよ。破壊できる都市の数も、保有国の数も、保有している兵器の数も、今挙げた数値は実際の半分以下だよ?
もし異世界の人間が、地球の核抑止の現状を見たら――僕も君も、みんなみんな狂っているんじゃあないのかな。




