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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第六章 聖歌公国・前編

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グラウンド・ゼロ

前回のあらすじ


 ルノミ達が去った後の地球を、晴嵐は伝える。化け物どもの跋扈で滅びた世界を、ヴァンパイアの暴走とも考えたが……彼らの種族も、普通に理性が存在しているという。

 新たな謎も頭に入れつつ、晴嵐はルノミを慰める。結果としてユニゾティアを踏みつぶしてでも、泣きついて飛びつく人間はいただろう。計画が成功していれば、人々を救えたことは真実だろうと、ルノミの事を責めはしなかった。

 柄にもない事をしている。そんな自分自身の声を無視して、晴嵐はルノミに触れていた。

 この世界に残る、千年前の異邦人たち。その正体は――『吸血鬼出没前の日本人』だった。

向こうでの……だいたい五十年ぐらいだろうか? その向こうでの年月が、こちらで何故千年のズレになっている謎は、はっきりと判明していないが……今この場の議論において重要な点ではない。

彼らの目的は最初、ユニゾティアと地球で関係を作り――核兵器の着弾で崩壊しつつある地球から、異世界である『ユニゾティア』へ移民する事だった。


 だが……手にした測定不能異能力チートスキルに酔った第一陣は、救済計画をお題目にしてしまった。その後ユニゾティア連合との戦争となり、彼らは敗北する。

 さて……ここまで来て、晴嵐には一つ謎がある。計画を主導した当人に対し、出来るだけ責めないよう気を付け質問した。


「ルノミ……ハト派はどうしたと思う?」

「……どうって?」

「移民計画でこっちに来た連中は、分裂した。タカ派は『欲深き者ども』と呼ばれ駆逐されたが、ハト派代表は英雄になっている。お主の意思を引き継いで、移民計画を進める事も、不可能ではなかったのでは?」


 湿った空気の中、ルノミへ思考を促す。しばらく無言で考え込んだ彼は、おずおずと口にした。


「確か……転移の権限は、こっちに来た全員が持っていました。計画再開自体は、不可能じゃなかったかもしれませんが……晴嵐さんの証言と、僕視点、そしてユニゾティアの史跡を見る限りじゃ、やって来たのは『第二陣』までと思います」

「つまり最初に『移民計画を知っていた面子のみ』……か。どうして後続が途絶えたと思う?」


「憶測ですけど」と前置きして、ルノミは思案を巡らせながら解答した。


「多分……移民計画ハト派の人達は、ユニゾティア側に気持ちを寄せていたんじゃないでしょうか。救いを待っている故郷の人より、今目の前にいるユニゾティアの人たちを、優先したんだと思います。晴嵐さん視点ですと、見殺しとも取れますけど……」

「……努力はしたのかもしれない。わしの考えじゃと……ユニゾティア住人から、移民の了解を得られなかったのではないか?『欲深き者ども』と言う前例がある以上、後続の地球人を信用できなかった……」

「あぁ……ユニゾティア住人だけじゃなくて、ハト派の人たちも……地球人を信用しなかった可能性もあります。事前に打ち合わせしていた僕ら『第一陣』も、暴走してしまった。なのにどうして、それ以降の移民メンバーが暴走しないと言い切れます?」

「嫌でも悪い想像をするだろうな……それどころか、追加で厄介事を起こしかねない。ユニゾティアの住人……いや、ユニゾティアで暮らす者たちにとって、もう『地球人』は完全に信用を失っていた……か」


 言葉も意思も交わした筈の、移民計画のタカ派とハト派。ユニゾティア陣営側……すなわちハト派は勝利を収めたが、仲間の変わりように衝撃を受けたに違いない。計画を主導し、千年の時間が経った後の、今のユニゾティアで知ったルノミでさえ、この落ち込みようだ。当時のメンバーが失意に暮れた事は、確定的だろう。


「何にせよ『異世界移民計画』は、完全に頓挫した。所々まだ謎はあるが……これ以上深堀は難しいか」

「――いいえ、まだ一つだけ、真実を探る方法があります」

「うん?」


 記憶を失ったルノミ目線で、分かる範囲が限界……そう考えていた晴嵐だが、ルノミは液晶に(`・ω・´)と気合を入れた表情を浮かべる。ルノミが提示するそう方法は、なろう系に親しんだ彼ならではの発想だった。


「聖歌公国首都・ユウナギ……そこの『グラウンド・ゼロ』に行きましょう」

「確か……この首都の三つあるポートの一つか? なんでまた……」

「あの場所には『ダンジョン』があるそうです」

「……ダンジョン?」


 ルノミはちょっと考えてから、晴嵐に告げた。


「なろう系の流行りの中に……『ダンジョン物』と呼ばれる作品があるんです。地下深く広がる迷宮に、挑戦するような作品群なんですが……実は、逆側の視点『ダンジョンを経営する』パターンもありました」

「うん……うん?」


 なるほどわからん。ひたすら困惑する晴嵐を置いて、ルノミの口は止まらない。


「『グラウンド・ゼロ』と呼ばれる場所は、空から降って来た人々……つまり『移民計画の第一陣』が降下した場所だそうです。今その地点は、地中深くが巨大な迷宮『ダンジョン』になっていると。

 人々の転移が原因とされていますけど……これは違います。移民メンバーは全員、各々が欲しいチートスキルを保持していました。多分メンバーの中に――『ダンジョンを作るチートスキル持ち』がいたんです! 異世界に漂着した瞬間、自分のダンジョンを生成したんだ」

「ふむ……で?」


 全く理解の進まない晴嵐に、ルノミは真っ直ぐ告げた。


「ダンジョン運営物の場合……『迷宮の最深部にコアがあって、そこを破壊されると死ぬ』と言う設定が多いです。だから冒険者や探索者に侵入されないように、罠や敵を配置して撃退するって感じです。

 でもこれの拡大解釈として……『迷宮のコアを破壊されなければ死なない』設定も多い。自由にチートスキルを付与されていて、なおかつ今も『グランド・ゼロのダンジョン』は動いている事を考えると――『ダンジョン最深部で、チートスキル持ちが生存している可能性があります』! 迷宮が壊されない限りの、不老不死かもしれません!」

「つまり――迷宮の主は、千年前そのものを知っている?」

「はい!」


 多少覇気を取り戻したルノミだが、少々声色が大きい。

 再び目線を受けたゴーレムは、気まずそうに首を数度振って『すみません』と、周りの人に頭を下げていた。

用語解説


グラウンド・ゼロ

 ユニゾティア千年前にて、異界人が最初に降下して来たポイント。現在は「ダンジョン」と化し、ポートが配置されている。

 ルノミ曰く――ダンジョンの最深部に行けば、千年前に漂着した人間の一人と、接触できる可能性があるらしい。

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