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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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正体を晒して

前回のあらすじ


 その頃村では、反攻作戦への準備が進んでいた。戦闘訓練中の彼らの下に、ある一報が届く。軍団長のアレックス・ベルロが応対すると、攫われたはずのテティ・アルキエラからの連絡だった。彼女は内乱の隙を突き、脱出後猟師の晴嵐に助けられ、村を目指しているという。増えた好材料を確かめるべく、シエラ兵士長に連絡をつけた。

 最初は独り言かと思った。

 旗に祈りを捧げるように、額を触れさせ声を発する少女。

 金色の長髪と、魔法の旗が風に揺れる中……ようやく晴嵐もその意味を知った。どこかと連絡を取っている、と。


「了解。通信終わり」


 アレックスと発した事や、会話の内容を纏めると……軍団長と会話していたのは間違いない。電話に似た物だろうか? 魔法という異世界技術で代用している?

 何度目かの衝撃を受けたが、いい加減多少は慣れてきた。それに今、何故だどうしてと悩んでも、有力な証拠はどこにもない。材料を揃え、安全を確保してから、考察を伸ばせばいい。息を鎮める晴嵐へ、テティは紫の瞳で見つめる。


「……そんなに驚くこと?」


 焦る彼の内面を、見透かすような目つきだった。

 責めてはいない。怒気も含んでいない。ただただじっと、こちらの奥底まで覗き込むような……真っすぐな視線。

 心が凍りつく。じわりと冷や汗が流れ、心音が耳障りで仕方ない。ある種の魔性さえ感じさせる、真摯に過ぎる目線であった。

 両目が鋭く据わる彼に対し、緊張を汲んだ女性がなだめる。


「物騒な気配出さないでよ。おじいさん?」


 彼女から切り出すのは予想外。先程の会話で警戒を強めた晴嵐だが、テティから振ってくるならば……例の話の信憑性も増す。

 即ち、彼女が『中身が違う』人間であること。

 テティの振る舞いは……事実をそれとなく彼に感じさせている。けれど明確な証拠は見いだせない。回りくどく、徐々に追い詰めて吐かせる腹積もりが、いい意味で崩れた。


「…………いつわかった?」


 ある程度警戒心を残しつつ、彼女の言葉を促す「見抜いたのは私じゃない」と前置きの後、テティは明かした。


「貴方を見抜いたのはスーディアよ。私の正体もだけど」

「あいつが……?」


 別れた二人組の一人の、まだ若い男の顔が脳裏に浮かんだ。

 あまり多くは話さなかったが……もしや距離を取っていたのか? 混乱中の彼と同じ思いで、テティも語調は優れないまま説明した。


「本人曰く『筋肉の使い方、身体の姿勢が年を召した方の物』だそうよ。独特だから分かるらしいわ」

「…………信じられん」

「けど実際私は暴かれたし……貴方の事も勘づいた」


 にわかには信じがたい。信じがたいが……理屈はわかる。

 確かに老いれば筋肉は衰え、若い者と姿勢が異なるだろう。そして長い生活で染みついた『姿勢のクセ』は、そうそう矯正できるものではない。何せ習慣にしていた、無意識のクセだ。若い身体で不要となっても、未だに行使を止められない……

 愕然と固まる彼に、テティは同情を浮かべている。彼女も『見抜かれた』と言うことは……この衝撃を、彼女も味わったと考えていい。同じ経験をした相手へ、一つ質問をぶつけた。

 

「ショックを受けるのは分かるが……かつての素性まで明かさずとも良かろう?」

「初めての経験だし、捕縛されてヤケになってたのよ。公にした時の反応も愉しみたかったし」

「愉しむて……」

「全部語り終えたら、スーディア急に『あなたをここに閉じ込めてはおけない』って決意決めて……後は知っての通りよ」

「……よくわからん男だ」


 いまいち、スーディアの行動原理が分からない。己の感覚で、中身を見抜いたまでは良し。だが人生経験一つ聞いたくらいで……集団に逆らい、命を賭けるか普通?

 下らない。馬鹿げている。内面にあるスーディアの像を、本気でこき下ろして罵倒する。情動が磨耗している晴嵐には、若者の心情がさっぱり共感できなかった。

 冷たい意思が態度に表れ、斜に構える彼。テティが不機嫌に唇を尖らせても、彼は無愛想なままだ。


「ああいう情熱は、ずいぶん前に枯れておってな」

「そうでしょうね。私から見ると貴方は……世捨て人のクソジジイって感じ?」


 暴言めいた表現を受け取り、晴嵐は……腹を押さえて笑い始めた。


「クソジジイ! クソジジイか! ぴったり過ぎるわい!」

「笑うところ!?」

「わしはずっと自分を『ドブネズミ』と思っとったが……うむ、今度からクソジジイも加えよう。感謝するぞテティ」

「しなくていいから!」


 少女の目つきが、みるみる内に据わった。

 彼女には解るまい。終末世界を生き延びるには、屈折することが必要不可欠。他の若い人間を見殺しにしてでも、自分が生き延びる事を優先した晴嵐は……まさしく老害、クソジジイであろう。

 ひとしきり笑いきった後に、晴嵐は息を整える。ぎろ、と挑むような眼光が突如として現れ、テティがピタリと動きを止めた。


「さて……その様子なら、わしの素性は納得しておるのじゃな?」

「えぇ。貴方も一からやり直したのでしょう?」

「……やり直した?」


 奇妙な単語に一歩踏み込む。テティは動かず彼の顔をまじまじ見るだけだ。

 とてもじゃないが、晴嵐が置かれた状況は「一からやり直した」と呼べない。若返って、物資も手元にあるが、訳の分からない世界へ投げ出された感触だ。


「わしは死んだと思ったら、いきなりこの森に横たわっておったが……」

「ちょっと待って、私は赤ん坊から生き直したのだけど……?」


 二人の『見た目は若者、中身は老人』は

 互いの違いに立ち竦み、言葉を失った。

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