真実Ⅴ
前回のあらすじ
ルノミは自分たちの罪状を『地球での五百年前のアメリカとヨーロッパの関係』になぞらえて話す。平和的に、融和的に『異世界移民計画』を進めようとしていたルノミ。過去の歴史の失敗を、繰り返してはならないと話し合っていたのに……それでも、過ちは繰り返されたと俯く。
「笑えますよ。笑ってください。でないと……でないとやってられません。僕の計画は結果として……ユニゾティア侵略になってしまった」
乾いた小さな笑い声は、静かなライブラリ内部でも耳に残る。ライフストーンを手に、改めて晴嵐はユニゾティア史を読み直していた。
千年前のユニゾティアでは、各種族が対立し、争いの絶えない世界だった。
この世界の神は自らの配下『真龍種』を見張りにして、過剰な戦争を抑止したり、戦争調停の仲介役をさせ、何とか異種族間での共存を求めていた。
しかしある日、仲介役の真龍種が暗殺されてしまう。これに失望したユニゾティアの神は、すべての抑止力を停止する事を宣言。この世界の覇権を握るべく、各種族で好きなように争えばよいと通達した。
ところが……この戦争準備期間中に『空から人々が降って来た』と言う。異世界出身と名乗る彼らは、彼らの文明の知識と技術を提供した――
ルノミが主張するに、この人々こそが地球から来た『異世界移民計画の第一陣』だと言う。晴嵐も、この異世界人とやらが、地球人との関連を疑っていたが……この伝承の記述にある一つの異能が、晴嵐の判断を狂わせていた。
「測定不能の異能力」――リスクもコストもなく発動できる、規格外の力。理由不明、原理不明とされたその力は、ルノミ目線――いや地球のサブカルチャーに知識があれば、ピンと来たかもしれない。流行っていた小説に存在した「チートスキル」とやらが、この力の正体らしい。
ルノミが主導した『異世界移民計画』……それに賛同した神『女神ベルフェ』とやらは、随分と太っ腹だった。全く反応のない、当初接触予定だった神『女神ガイア』と異なり……最終的な全人類の移民と、加えて全員に望むがままの「規格外の異能」こと「チートスキル」の付与まで行った。当人たちも違和感を覚えたが、既に核兵器の使用から時間が経過し、衰退の気配のある地球に余力はない。選択肢はないと計画に飛び込み、そしてユニゾティアへと漂着したが……史実を見るに彼らは、ユニゾティアに到着すると、当初の予定を変えて分裂したと考えられる。
「……『聖歌の歌姫』とその一派は、お主が計画した通りに、平和的に話を進めようとしたように見える。じゃが全員が全員、お上品に計画を進めはしなかった。お主の計画や『聖歌の歌姫』軸のハト派と……力ずくで制圧してしまえば良い、相手は劣った文明なのだから……と主導したタカ派に分裂した?」
「記録を見る限り、そんな感じでしょう。ホント……何やってるんだか……」
戦争準備中だったユニゾティア。その有様を野蛮と称したのか、それとも強力な力――チートスキルとやらに酔ったのか。今でこそポートやメール、輝金属による魔法や、独自の発展や工夫がユニゾティアに見られるが……千年前では技術発展も、途上だった可能性が高い。中には戦争で進歩を促された技術もあるだろう。彼らの情報や知識を取り込み、進化した部分もあるだろう。
だが千年前の当時を「異世界移民計画の第一陣」は、自分たちの文明レベルより低いと断じた。チートスキルも保持していた彼らは、ユニゾティアの争乱前に便乗し――ルノミの言う『侵略』に舵を切ったのだろう。晴嵐が考えるに、原因はもう一つある。慰めになるか知らないが、今のルノミには率直に告げた方が良いと判断する。
「……『自分たちの世界の人々を救うため』って大義名分もあった。それがタカ派を焚きつけたのかもしれん」
「それはお題目に使ったでしょう。……誰も本気ではなかったと思います」
「何?」
乾いた笑い声を再び上げるゴーレム。絶望にかすれた声は、ドブネズミの晴嵐さえ背筋に嫌な汗をかいてしまう。何も表示のない金属の顔は、静かに泣いているようにしか見えなかった。
「初期にアメリカへ移民した人たちも……似たような立場だったんです。
あの時移民した人たちも、必ずしも自分の意思で、移民を選択した人ばかりじゃない。生活していた故郷を捨てて、沈没の危険もある中、長い船旅を選択して、全く未知の土地に行きたい人ばかりじゃなかった」
「……つまり?」
「選択の自由のない、社会的弱者――弱い立場の人が、アメリカへ移住『させられた』と言った方が正しい。そして『なろう系』を好む層もまた……そのテンプレートや生い立ちを見るに、社会的弱者と呼べる層でした。
――性根は同じだったんです。そして繰り返してしまったんです。自分より進んでいない文明に対して、社会的弱者だった者が強い立場と力を得た時――弱者は悪魔になった。自分がかつて受けた苦しみを……全く関係のない人に向けて押し付けたんです」
弱い人間は、より弱い人間を探して負債を押し付ける。
今まで「別文明」あるいは「別社会」で、負債を押し付けられた側が、強大な力を手にした途端に、自らも同じように、感情の泥を原住民側に押し付けた。それはかつて……自分たちが喘ぎ、苦しんだモノと同質であるにも関わらず……
「自分たちの正しさで、力で、能力で、文明で。対話も融和もすっ飛ばして……逆らう生意気な原住民を焼き払った。『なろう系』はずっと、焼く側の視点で書かれていた。オブラートに包んでいましたけど、根っこにある感情は同じだったんだ。
けど『ユニゾティア』は違った。『聖歌の歌姫』さん含む一部の人は、本当に……性根の良い人だったんでしょうね。最後までユニゾティア側に味方して、侵略者側を打ち倒した。だから歴史に残っているんです。『侵略された側』『原住民側』の視点で、異世界転移無双と言う行為が、相手側から見たら、どう映るかって話として……」
ルノミのかつての仲間の多くは……『異界の悪魔』『欲深き者ども』として、名を刻んだ。
この世界の転換点であり、異種族同士で手を結ぶ美点として記録に残り――そして侵略者たちは、一分も同情の出来ぬ悪魔として語られている。
暗い画面のまま嗚咽するルノミの事を……それでも晴嵐は、責める気にはなれなかった。
用語解説
ユニゾティア千年前・異世界移民計画第一陣
千年前のユニゾティアにおいて、崩壊しつつある地球から異世界移民計画の第一陣が漂着した。
最初は協調路線、融和路線で話を進めていた筈が、いつの間にかチートスキルや文明・文化の差から力に酔うメンバーが出現。
後に『聖歌の歌姫』と称されるハト派メンバーと、かつてアメリカ原住民と移民者の関係にあったような、積極的侵略行為をも『良し』とするタカ派メンバーに分裂。その後は『ユニゾティア連合』によって『欲深き者ども』『異界の悪魔』として、彼らは歴史に刻まれた。




