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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第六章 聖歌公国・前編

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信用

前回のあらすじ


ルノミの中身に迷う晴嵐に、ラングレーは時間軸を整理して指摘する。二回目の崩壊を知らないのは、二回目の前に転移を進めたからではないか? ファンタジーめいているという反論に、ユニゾティアの住人にしてみれば、どっちもどっちと返されてしまう……

 一瞬キレそうになった晴嵐は、何とか呼吸を整える。自分が真剣に話している事を、馬鹿にされたような気がして頭に血が上ったが、冷静に頭を冷やした。


(……むしろ、この指摘は感謝すべきかもしれんな)


 はっきりと一線を引いてくれるラングレーは……だからこそ一定の信用を置ける。時に優しさや気遣いは、現実を見失わせる毒にもなる。敢えて突き放してくれる相手も、時には必要だ。

この世界の人間と、地球人目線では絶対に温度差がある。改めて自覚し、もう一度ラングレーと向き合う晴嵐。オークの彼は『異世界』の住人目線で、ラングレーは晴嵐には考えもしない意見を、投げかける。


「その第三者からするとな……ルノミの行動って、そんなにおかしいかな?」

「……何を言っておる?」

「……そりゃ内容はかなりブッ飛んでるよ? でも二回目の崩壊を考えると、完全に世界が終わっちまう前に、どうにか故郷の人間を救いたい……って心情は、俺らが言うほどおかしいか?」

「………………」


 言葉を失った。一ミリたりとも考えてもいなかった。ただ大袈裟なだけのルノミの話を、ラングレーは別方向に解釈する。


「馬鹿馬鹿しいかもしれない。愚かしかったかもしれない。でも『故郷の人間を、悲惨な目に会わせたくない』ってルノミの心情に、嘘があるとは思えねぇ。それにさ? ちょっと想像してみてくれよセイラン」

「……何を?」

「セイランの知ってる、二回目の崩壊が起きる前に……ルノミ計画が万事上手く行ってたらどうしたよ?」


 もし、二回目の地獄――『吸血鬼の出没』の前に、救われる方法があったなら……その質問を食らった晴嵐は固まった。

 あの地獄を――本格的な文明崩壊と、倫理観と生活の崩落。もしそれを回避できる手段があったなら、一も二もなく飛びついたかもしれない。仮に『二回目』が起きなかったとしても、地球の先行きは暗かった。

 しかし……ラングレーの言い分が真実なら、男に一つ不愉快な事がある。


「だとしたら、わしは『ルノミに救われている可能性があった』な。正直考えたくない。後で暴利めいた要求をされそうじゃが」

「オイオイ、ルノミは違うと思うぜ?」

「どうかな……力を持てば人は変わる」

「いや、ルノミは変わってない。アイツの言う事全部信じるなら、だけど」

「あん?」


 晴嵐は眉根を上げた。スーディアが能天気な事を言うならともかく、ラングレーは損得計算も出来る奴だ。情だけで動く人間ではない。にもかかわらず、一体何をもって断言するのか。猜疑に満ちた瞳を、オークの言葉が正面から砕く。


「力を持った奴が変わるってんなら『異世界移民計画』とやらが軌道に乗った所で、好き放題出来ただろ? 自分の気に入らない奴だけ、転移させずに置いてけぼりにするとかさ」

「………………それは」


 計画を主導していたルノミなら、確かに強気に振舞う事も出来ただろう。気に入らない人間はいたようだが、けれど疎外する様子は無かった。そもそも『移動する手段が見つかった時点で、周りの連中を置いてけぼりにして、自分たちだけが転移する』選択肢もあった。

 疑い、悩み、考え抜くことを常にしてきた晴嵐には、素直に善意を信じる事が難しい。どこまでもドブネズミ思考を続ける男に、ラングレーは伝える。


「なぁセイラン……全部を全部、信じる訳にはいかねぇのかもしれないけどさ。時には誰かを信じないと、進めない事もあるんじゃないか?」

「…………それは」

「俺はさ、つーかセイラン以外の人間はさ、ユニゾティア目線で語るしかねぇ。でもセイランはもう一歩だけ踏み込めるんだろ?」

「自分の正体を……ルノミに明かせと?」


 それ以外に、ルノミの話を前進させる方法が無い。頭では分かっているが、実行できるかとなると二の足を踏む選択だ。

 この躊躇の意味は、二つある。一つは『正体を明かす』事そのもの。もう一つは――『ルノミ本人に、計画の失敗を伝えなければならない』かもしれない事だ。

 もし、ラングレーの言った通りの時間関係……つまり『ルノミが二回目の崩壊前に、救済計画を実行した』としたら? 変わらなかった晴嵐の世界、それどころか『悪化』した地球の現状を、馬鹿馬鹿しくも真剣に救済を願ったルノミに、教えなければならなくなる。すなわち……「地球を救えなかった」と言う、真実を。

 普段なら……いつも通りの晴嵐なら、鼻で笑ったかもしれない。しかしルノミの計画が上手く行っていれば『こんな性格に晴嵐はならなかったかもしれない』……複数のもしもやたらればが頭に浮かび戸惑う。そんな晴嵐に対して、第三者目線でオークは言った。


「最後に決めるのはセイランだ。俺は……まぁ、上手い事話がまとまって欲しいとは思うよ。セイランはおっかねぇが、スーディア含め共通の知人だし……ルノミだって性根は悪そうじゃない。不幸になったら、ちょっとは気分悪くなるよ」

「……ケッ」


 他人は他人と線を引きつつも、完全に見捨てる口調ではない。あくまで第三者目線の助言に留め、ラングレーは男に選択と決断を促す。

 ルノミに――『自分を地球出身と伝えるか否か?』

 ぼんやりと顔を俯けた先に、骨の残った魚と皿が映った。

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