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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第六章 聖歌公国・前編

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時期

前回のあらすじ


 港のポート近くの酒場に入る晴嵐とラングレー。早速ルノミについて、そして地球文明についての話を始める。二つあった崩壊の出来事。ルノミは一つを完璧に証言しているが、もう一つを全く語りもしない。判断に迷う晴嵐とラングレーの会話は続く。

 運ばれた料理を咀嚼しつつ、二人は言葉と状況をかみ砕いていく。晴嵐の知る状況と、ルノミの語る環境。偶然とは考えにくい合致を見ても、晴嵐はまだ断定を避けていた。


「問題はその後なんじゃよ……『世界を滅ぼす兵器』の着弾の後、わしの国の政府崩壊、そして『人から人へ伝染する化け物』の跋扈があった」

「なんじゃそりゃ……」

「ルノミが語っている『地獄』は、その実地獄の一丁目でしか無かった。一度目も十分パニックに陥ったが、わしのいた国……日本は割とマシな方じゃった。だがそのマシな日本にさえ、最終的に崩壊と地獄は来た。ルノミは……世界崩壊のきっかけを知っていたが、二回目の後を全く触れもしない」


 晴嵐の感じている違和感はここだ。『世界を滅ぼす兵器』周りの出来事を話しておきながら、その後の致命的な崩壊……『吸血鬼サッカー』の出現を知らないとは、考えにくい。

 そもそも『吸血鬼』を知っているなら、暢気にヴァンパイアや吸血種の事を語れまい。血走った眼で人を襲って食らい、自分が食い殺されれば醜い化け物の仲間入りだ。あんな特徴的な存在を、忘れたくても忘れられないと思うが……

 悩み考え込む晴嵐は、出された料理の一つを口に入れる。シンプルな塩と胡椒の味付けの魚類を食らう男に、ラングレーは確認した。


「全然ついていけないが……まぁ、ともかく晴嵐の世界、そしてルノミの故郷と推測される『地球』は、ブッ壊れちまったんだな」

「あぁ」

「で、壊れた原因っつーか、印象的な出来事は二つあった。ルノミは片方を完璧に知っているけど、もう片方は全く知らない。だから信じていいか、セイランも迷っている」

「うむ。そこもルノミ記憶喪失かもしれんが、何とも言えない」

「ふーむ……なぁセイラン、一つ質問良いか?」


 食器動かすのを止めて、晴嵐はオークと目を合わせた。不審な物を見る目つきではない。物事を探る知性を宿した目だ。分からないなりに、事実解明を目指す真摯な目だ。無言で首を縦に振る晴嵐に対し、ラングレーは尋ねた。


「一回目と二回目の……印象的な事件って、どれぐらい時間があった?」

「時間?」

「期間って置き換えてもいい。連続して起きたのか、それとも間があったのかを聞きたい」

「どうだったかな……思い出す。少し待ってくれ」


 老人の記憶では、遠い昔の出来事である。取り返しのつかない過去より、危険の迫る今への対処を優先していた。それに二回目の崩壊……『吸血鬼サッカー』の出没後も、終末世界と化した世界での人の営みがあった。そうした『壊れた世界の日常』に順応していた晴嵐には、一度目の崩壊も、二回目の崩壊も……印象に残ってこそあれ、時系列までは正確に思い出せない。だが。


「間があった事は確かじゃ。ただ、年数までは……」

「ざっとでいい」

「そうじゃな……十年近くはあった気がする。少なくても八年は固い」

「オッケイ、それなら十分猶予はあるっぽいな」

「?」


 首を傾げる晴嵐に、ラングレーは第三者目線でこう話しだした。


「セイラン。ルノミが記憶喪失って可能性もあるが……『ルノミの中身は、二回目を経験していない』って線もあるんじゃないか?」

「どういう事だ?」

「だって……一回目の事件でも、世界がえらい事になったんだろ? 二回目を回避したかったのか、一回目の時点で相当ショックを受けたのか分かんねぇが……一回目の直後に行動に移って、二回目の事件の前にルノミはユニゾティアに来たんじゃね?」

「ぬぅ…………」


 考えてもいない可能性だった。改めてその線を考えてみる。

 世界中に着弾した『兵器』……それこそ創作物めいた状況だが、地球と人類文明における一大事、重大な危機を迎えた事は誰でも自覚できるだろう。何とかして状況を変えたい。打開したい。救済したい。……誰だって、同じことを感じるだろう。ただ、やり方が少々ファンタジーめいている気もする。いまいち腑に落ちない晴嵐は唸った。


「しかしなぁ……やり方がファンタジーめいている気もするんじゃが……」

「オレに言わせれば、どっちもどっちさ」


 ぎろ、と晴嵐が睨みつける。全く怯むことなく、軽い調子でへらりと笑ってラングレーが言い返した。


「セイランの言っている事も、ルノミの言っている事も、異世界ユニゾティアの住人目線じゃおとぎ話と変わらない。筋が通ってるのか無いのかも、なんとなしにしか分かんねぇ。言い方悪いが、聞いた話でしかないんだよ」

「…………」


 まさかコイツにバッサリ切られるとは。いざ突き放されると胸に来るが、今まで晴嵐が使ってきた論調だ。

 そう、どこまで行っても『他人の話は他人事』でしかない。親身に理解しようと歩み寄ろうが、他人の言葉も人生も、他人視点でしか語れない。ましてや会話の規模が壮大過ぎれば、事実であろうと『話を盛っているのではないか?』と疑われるに決まっている。

 残念だが、それも仕方ない。何もかも白けて、無視されるよりは良い。強めの言葉を受けた晴嵐は、何か言おうとして口ごもり、数度呼気を吐くばかり……

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