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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第六章 聖歌公国・前編

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滅びゆくきっかけ

前回のあらすじ


ルノミが奥へ引っ込み、晴嵐とラングレー、そしてゴーレム技師が残り彼らの話を聞く。経緯を見るに、誰にとっても想定外の出来事だったらしい。今度は、晴嵐の裏事情を知るラングレーと、話し合いをする事に。

 時刻は夕暮れ。波打ち際と『港のポート』は茜色に染まる。行き来する船と波の音が潮風を運び、停泊した艦船から荷下ろしをする船員が、大きな声で掛け声を交わしていた。

 水夫のほとんどは生身の人間だ。この手の力仕事は、ゴーレムが担当していそうなものだが……受け取り側に数人見えるだけで、船員に居ない。


「おーい、セイラン! そっちじゃないぞー」

「あぁ……悪い」


 都市の様子も気になるが、今はラングレーとの行動を優先しよう。オークの彼が進む先にあるのは『港のポート』周辺に広がった飲食店……と言うより、船乗りと観光客を一緒くたに飲み込む酒場だ。


「おぉ……こりゃやかましいな」

「でも『与太話』にはもってこいだろ?」

「確かに。聞き耳を立てるのは難しそうだ」


 陸に上がった船乗りが、陽気にメシと酒を煽っている。普通の客もいるが、割合で言えば圧倒的に船乗りが多い。

 長い船旅を終えた後は、その賃金を陸での娯楽に使いがち。最も手軽で手っとっり早いのは食事か。こういう所は、向こうもこちらも変わらない。


「適当になんか頼もうぜ。酒は無しで」

「うむ」


 つい熱気に押されて一杯行きたくなるが、今回はお預けとしよう。酔った勢いに任せてしまうのも、場合によってはアリかもしれないが……ラングレーがそこそこ気乗りしている今なら、シラフで良い。オススメと書かれたメニューから注文した二人は、料理を待つ間に『ルノミ』について話し出す。


「いつもあんな調子なのか? ルノミは」

「セイラン相手でも明るくファンキー、時々意味不明って感じだったのか?」

「う、うむ」

「……性格に『誰を相手にしても物怖じしない』も追加しておこう。アンタ相手に怯まねぇのは肝が据わってらぁ」

「物騒な事をしとらんだけじゃよ」

「にしたって、気配で察しそうなモンだがな……」


 意味深な笑みに、晴嵐も合わせて笑うしかない。男は自分ののドブネズミっぷりを承知している。なんとなしに気づかれそうなものだが、ルノミが知った上で寄ってきているのか、ただ鈍いだけなのか。今回に限っては厳しい言葉をあまり吐いていないし、言うほど交流も深くない。悟られなかった可能性もある。


「能天気……だけではないな、アレは」

「性根が素直っつーか、子供っぽいっつーか……言動はちょい意味不明だけど、真剣さは伝わってくるんだよ。内容が壮大過ぎるケドな」

「問題は……その『壮大な内容』が、わしの世界の過去と被っている所じゃよ……」


 そう……『合致』ではなく『被っている』点が、晴嵐の判断を迷わせている。

 これが完全に一致していたのなら、晴嵐もすぐに断言出来た。しかしルノミの語っている内容は、晴嵐目線だとイかれている部分と既知の部分が混じっていた。


「俺目線だと全部ブッ飛んで見えるが……」

「ヴァンパイアとか、なろう系とかは良く分からん。じゃが『世界を滅ぼす兵器』を向け合った世界と、それを使った牽制合戦と暴発は、わしもはっきり覚えておる」

「マジかよ……ちょっと信じられねぇんだが……」

「ユニゾティア目線じゃと、そうだろうな……わかった。作り話と言う体で、とりあえず一通り話そう。紙とメモでまとめるぞ」


 すっ、と懐から取り出した晴嵐は、すらすらと書き連ねていく。彼は自分の知る限りの『地球』のタイムラインを図に示しつつ、前提を話す。


「まず……『地球』と言う星があった。この世界、ユニゾティアとは別方面に発展していた文明があった。こっちと違い『魔法』はほとんど廃れつつあったが、代わりに『科学』と言う技術形態が発展していた。

 発展していく技術と文明の中で、あの世界の人々は『世界を滅ぼす兵器』を開発していた。原型が『わしの国』に二発使われた後、70~80年は実際に使われなかった。実験や、同じエネルギー源での事後はあったが、概ね平和と呼べたじゃろう」

「いやどこが平和なんだよ? 何かの拍子に世界終わるじゃん!?」

「全くその通りだ。実際に『世界を滅ぼす兵器』が使われ、わしの世界は滅茶苦茶になっちまった」


 今にして思えば……脅しあいの平和に慣れていた地球人の、感覚がマヒしていただけなのかもしれない。別世界の住人にドン引きされて、ようやくあの世界の異常性に気が付いた。最も、そんな反省は遅すぎるので脇に置いておく。


「幸いわしの国は『世界を滅ぼす兵器の原型を食らった唯一の国』だった事もあって、二回目の攻撃も控えめだったか、全く飛んで来なかったか。何にしても崩壊は免れたが、周辺国が滅びて追い詰められた。……ここまではルノミも、同じことを言っておる」

「…………マジで言ってる? ちょっと信じられねぇけど」

「ユニゾティアの住人目線で見ればそうかもな。が、わし目線で大事なのは……『こんなデタラメな話が合致するか?』じゃよ」

「あ……」


 晴嵐の正体を隠したまま、晴嵐の知る地球の史実と同じ内容を語ったルノミ。ユニゾティアの知識しかない人間が、こんなイかれた話を作る訳がない。偶然の合致は考えられないだろう。


「普通のユニゾティア住人なら、ラングレーと同じ反応をする。だから騙す為の嘘を言うにしたって、もう少しマシなやり方をするさ」


 晴嵐は思い出す。自分たち二人が最初に会った森のテティの話。何気なく漏らしたラングレーの言葉は、万人を騙すには無理があった。

 嘘だというなら、もう少し『多くの人に信じやすいように話を加工する』筈。が、だからと言って断言できないのは、その後の話が大きすぎるせいだ。

 しばらく無言で悩みこむ二人。沈黙の中、注文の品が運ばれてきた。

 豪快に火入れのされた海産物を前に、二人は一旦会話を止めた。

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