表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末から来た男  作者: 北田 龍一
第六章 聖歌公国・前編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

401/740

ここに至るまでの経緯

前回のあらすじ


ゴーレム技師の下に戻るルノミと晴嵐。ほとんどルノミが喋っていたが、胸の内の整理は進んだように見える。晴嵐は関係を続けるべく、ルノミの話を交えながら、歴史の講師になる事を申し出た。

 あの後も『ゴーレム工房・タチバナ』でいくつか話をした。

 晴嵐は……信用された訳じゃないが、疑われてもいない。彼らと対話して分かったが、どうやら『ルノミ』こと『復活した憑依型ゴーレム』は、彼らゴーレム技師にも予想外だったらしい。


「ボディの年代は千年前から九百年と、タチバナは推測していた。つまり彼は『ゴーレム人権運動』の最中か、その少し後ぐらいの時期の人物と予測していたんだ」


ルノミの身体は『ドワーフ山岳連邦』で発掘されたという。戦争が起こる前、晴嵐とラングレーが『亜竜自治区』で合流した時、オークの彼は『オデッセイ商会』の商隊で雇われていた。あの時彼は商隊と共に『発掘されたゴーレム』を輸送していたらしい。


「で、そのゴーレムを運んでくれって依頼を出していたのが『ゴーレム工房・タチバナ』だったってワケよ」

「なるほど。じゃが運び終わった後は、ここに留まる理由は無かったのでは?」

「丁度その時……聖歌公国と緑の国で、戦争が始まっちまったんだよ。ポートもそのうち封鎖されちまうし、根無し草の俺もやる事が無くなってさ……」


 そうだ。彼と別れた後に、緑の国は聖歌公国に宣戦を布告した。晴嵐も自分の行動で精いっぱいだったが、ラングレーもまた気を揉んでいた。オークは言う。


「おまけに……スーディアが戦地に行くってなったら、何かやってないと悪いことばっか考えちまう。ともかく手を動かしておきたかったんだ。そこで……ゴーレム運んで顔見知りになってたし、『オデッセイ商会』とも縁があったから『憑依型ゴーレム』の復旧を手伝ってたって訳よ」

「で、タチバナと僕、ラングレー君の協力で機体を修復し、やっとの思いで彼を目覚めさせてみれば……ユニゾティアの千年前の事はまるで知らず、代わりに別の世界について喋り始めるし、ボディだって普及していない型番で、中身は生身だったと来た。僕たちもどう対応したものか、考えていてね……」


 つまり――晴嵐にとってもルノミの語る内容は想定外だったが、目覚めさせた周囲の人間にとっても、彼の存在や中身は予想外だった。さらに『ルノミ』本人にも、想定外が起きている。

 誰もが戸惑い、理解しがたい事に悩まされている。それでも時間は無情にも進んでしまう。だから実直な問題を、ゴーレム技師は気にしていた。


「目を覚ましたのは良い。僕たちにも目覚めさせた責任もあるし、しばらくは面倒を見るつもりだけど……そのうち彼にも『ユニゾティア』に順応して貰わないと」

「うむ」

「真実も気になるが、まずは生活する事も大事だ。歴史教養も必要と考えていたのだけど、僕らは『ゴーレム技師』なものだから、歴史は自信が無くてね。速やかに教える必要も無かったから、後回しになっている。だからセイラン君の申し出はありがたい。報酬は――」

「構わん構わん。アイツと話せるだけで十分じゃよ。色々と知的好奇心をそそられる」

「おっ!? やはり君もロマンに惹かれる口かい!?」

「……多少は」


 深くは信用されずとも、技師たちと関係は築けたらしい。いくつかの対話を重ねていく内に、ラングレーと晴嵐の目が合った。

 二人で話したい事もある。ゴーレムの事もそうだし、他の諸々の事も、やはり直接会って会話したい。その気配を察したのか、グリジアはニッコリと笑って一礼した。


「セイラン君、ラングレー君、今日はありがとう! また後日、色々と頼みたい!」

「任せて下さいよ! な?」

「こちらこそ、よろしく頼む」


 技師二人とゴーレムを残し、晴嵐とラングレーは工房を立ち去った。まだ馴染みの薄い聖歌公国首都に、晴嵐はゆっくりと歩いていく。ラングレーは先を歩きつつ、彼は晴嵐との会話を始めた。


「……どうだった? ルノミは?」

「何とも言えん。わしも判別つかん……」


 率直な問いに、簡素に晴嵐も答えた。

 ラングレーは一応『スーディア越しに』晴嵐の正体を知っている。しかしラングレーは『聞いた話』でしか知っておらず、『スーディアのセンス』や『生まれ変わりの経験を持つテティ』と違い、確信を持っていない。適当に信じているような状態だ。


(親身に聞いてはくれんだろうな……ま、初遭遇が大分アレじゃし、これでも好意的な方だろう)


 これ以上を期待してはバチが当たる。とりあえずは所感を伝えてみて、反応を見つつ切り方を変えるか。軽く思考を挟んだ後、晴嵐はルノミについて述べる。


「わしの世界では……デカい転換点が二つあった。ルノミが語っている状況は、その片方と該当する」

「へぇ……直接単語は聞いたのか?」

「事件や兵器の名前は、向こうが明言を避けていた。じゃが他の単語、例えば『地球』や、わしの知っている国の名前や、ユニゾティアに無い向こう側固有の単語をいくつか喋っている」

「マジ? じゃあ決まりなんじゃ……」

「ところが、そうも言いきれんのがややこしい。さっきも言ったが、わしの世界のデカい転換点は『二つ』あった。ルノミは片方を知っているが、もう片方は全く触れやしなかった」


 晴嵐の考える、地球文明崩壊の転換点は二つ。

 一つは核兵器による報復合戦。抑止論が飽和崩壊し、世界を滅ぼす兵器による破壊。

 もう一つは……人から人へ伝染し、生き血を啜る化け物の跋扈。すなわち『吸血鬼サッカー』の出現だ。

ルノミは前者を語ったが、後者には触れもしない。それどころかこちらの『吸血種』に近い種族の存在を認め、交流さえしていたと言う。これでは『晴嵐と同じ経験をしていた』とは言い難い。同じ経験をしているのなら……生き血を啜る化け物に対し、拒否反応が生まれるはずだ。


「ふーん……そこも記憶喪失って可能性は?」

「それを言い出したら、なんでもアリになりかねんが……」

「まぁいいや、続きはメシの肴にしようぜ。ちょっと遠いが『港のポート』に行こう。いい店がいくつかあるんだ」


 軽い調子のラングレーだが、これぐらいの方が気楽に話せるか。

 晴嵐も疑問を胸に残しながら、ラングレーに勧められるまま後に続いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 今更気になったが、あの世界でセイランがたった一人名付けした次代の支配種な奴?アレ一体何時もしくは何処に関わってんだろうなぁ…。 [一言] 連絡が取れなくなったヴァンプがサッカーに転化し…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ