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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第六章 聖歌公国・前編

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講師の申し出

前回のあらすじ


 話に一区切りついた所で、ルノミと晴嵐の二人は『歌姫の銅像』を発見する。互いに見覚えのある人物の像に、混乱と戦慄を禁じ得ない。千年前、一体この世界で何があったのか……


 歩きながらのお喋りを終えて、ルノミと晴嵐は『ゴーレム工房・タチバナ』に帰ってきていた。二人のゴーレム技師は作業中で、特にドワーフのタチバナは器具を動かしている。鎧の指輪を使って体を保護しながら、慎重に金属を加工していた。

 なので……出迎えたのは部外者のラングレーだ。ただ、帰って来た二人を見て、ラングレーも様子を伺う。


「お帰りさん。どうしたんだ二人とも、顔色が良くないぞ?」

「「あー……」」


 理由は同じなのか、それとも別なのかは微妙な所。しかし『歌姫の銅像』がきっかけに違いない。自分たちのバックボーンと、この世界の千年前との接点に、激しい動揺を隠さずにいられなかったのだ。

 お互いに己の事に気を取られ、相手の表情を見ていなかったのか。それとも彼らが影響を受ける前と後で、顔の印象が違うのか。液晶表示のルノミまで違いが分かるのなら相当な物だろう。ルノミも晴嵐つい目をそらしてから、言い訳がましく喋った。


「ちょっと……色々と衝撃が」

「う、うむ……」


 なんと説明すればいいのか、分からない。自分の中でさえ、現実を整理しきれていない。その状況で『異世界の』住人に理解を求めるのは無理だろう。煮え切らない空気の中、工房の奥からエルフの技師も出迎えた。


「やぁルノミ! どうだった? 彼は参考になったかな?」

「あー……微妙です。と言うよりほとんど、ぼくが喋っちゃいましたし……」

「おいおい……」

「で、でも! 話は分かってくれるって言うか、理解度高いなぁって感じで……すごく話しやすかった、かも?」


 何とも言えぬ曖昧な表情で、ゴーレムと技師は見つめあう。ロマン馬鹿ことグリジアは、晴嵐に瞳で問うた。男も男で、はっきりとは返せない。


「ルノミの言っている事の真偽は……正直判別がつかない。『地球』と言う場所は、あまりユニゾティアに残っている名称ではないからな……」

「ふぅむ……」

「ただ、この世界『ユニゾティア』とは、別の発展をしていたらしい。ルノミの話を鵜呑みにするなら、なんでも『世界を滅ぼす兵器』を製造し、それが使われてしまったと証言している」

「なんだい、それは? 悪の大王でもいたのかい?」

「それが……聞いた限りじゃが、複数の国家が『兵器』保有していたらしい。敵対陣営同士で、互いにソレを向け合って牽制し、逆に保持していない国に圧力をかけていたと」

「……修羅の世界か何かか?」


 完全な第三者から見ると『地球の歴史』はそう映るらしい。実際『兵器』で破滅を招いた身としては、ユニゾティア住人の言葉に、反論が出来なかった。

 しばし沈黙していた晴嵐の続きを、ルノミ本人が語りだす。


「でもある日……この『世界を滅ぼす兵器』を使った戦争が起きてしまいました。一瞬で滅びたと思いますから、戦争って言えるかも分かりませんけど……ともかく『兵器』の撃ち合いが起こってしまったんです。そのせいでぼくのいた世界『地球』はメチャクチャになってしまって、もう長くはありません」

「修羅ではなく地獄だったか……」

「そう、地獄です。幸いぼくの故郷は『兵器』の直撃はありませんでしたが、余波を受けて危険な状態なんです。だから……ぼくは『別世界』への行き来を考えました」


『だから』から先があまりにブッ飛んでいる。エルフの技師は額を抑えつつも、どうにか理解しようと努めた。


「母国……いやこの場合『母世界』と表現すればいいのかな? ルノミ君の世界は滅びかけていて、君はそこから脱出したと?」

「ぼく一人が脱出するんじゃなくて……こっちの世界に、みんなで移民を希望する予定でした。その時仲間たちと一緒に、こっちに来た筈なんですけど……でも、何故かぼく一人だけだし、体は人間……じゃなくてヒューマンからゴーレムになっているし、訳が分からない」

「……半端に筋が通っているのが、タチが悪いね」


 滅茶苦茶な要素に、理解不能な部分も多い。だが『世界が崩壊しかかっているから、そこから脱出を図る』という動機は、こちらの住人でも、心情は理解できるようだ。晴嵐と異なり『地球』の知識が無い分、ルノミの証言が胡散臭く見えてしまっている節がある。が、それでも理解を示そうと、ゴーレム技師の彼には努力が見える。晴嵐も話を補足した。


「あまりにブッ飛んでおる話じゃが……ルノミ本人も『想定外のトラブルが起きている』事は認めている。そうじゃな?」

「はい……正直ぼくも把握しきれていない所が多くて……はぁ(´Д`)どうしてこんな事に……」

「なるほど……ややこしい話みたいだね?」

「本当にそうですよ……あの、グリジアさん。ぼくの身体……このゴーレムって他に見つかっていませんか? ぼくの仲間たちが、同じような状況かもしれません」

「うーん……でもねぇ、君のその型番『憑依型ゴーレム』は、六百年前に製造が止まっている。僕たちも『ユニゾティアの過去を、当事者から取材できる』と期待して、君を復旧したものでね……正直、君が仲間と合流できるとは、とても……」

「そんな……」


 改めて孤独を感じ、落ち込むルノミ。別にカバーする気はないが、晴嵐はグリジアに提案した。


「それで……色々話して分かったんじゃが、どうも『千年前の連中』と、ルノミには関連があるかもしれん」

「……本当かい?」

「はい。中心街のポート近くの……『歌姫の銅像』でしたっけ? あの人、ぼく見覚えがあるんです。同じタイミングで、こっちに来る人の一人だったような……」

「ふむ……興味深いね。ルノミ君の身体は、製造年代が『千年前から九百年前』と推定されている。符号としては面白いが……」

「地球と千年前についても、わしは繋がりがあると踏んでいてな。こうして所々『要素が繋がる』と、ルノミの言っている事も、完全にデタラメと断じられん。

 そこで後日、ルノミにわしがこの世界の歴史について話したい。まだルノミには『ユニゾティアの歴史』について教えてないのじゃろ?」


 意外な提案だったのか、グリジアは眉を上げる。晴嵐はここぞとばかりに畳みかけた。


「わしは地球の痕跡を探す中で、世界の史跡も巡って来た。ある程度歴史の授業も出来る」

「ありがたい申し出だけど、それで、どうする?」

「話している中で、ルノミが色々と思うところも出てくるじゃろう。信じる信じないはとりあえず置いておいて、まずは全部話させてから考えればいい……『嘘や作り話の類なら、どこかで致命的に破綻する』じゃろ。ツッコミ入れられる度に、話が二転三転するようでも同じだ」

「……君は信じているのかい? セイラン君」

「まだ前段階だと考えておる。要素を吐かせてから考察したい。内容がぶっ飛んでおるのはわしも同感じゃが……人を騙す作り話にしては、明らかにやりすぎじゃろ。これは」

「ただ狂っているだけかもしれないけどね……」

「本人の前で酷いですよ!?( ;∀;)」


(イラストで)涙を流すルノミだが、けれど晴嵐ともう一度会う事は拒まない。

 ――それはそうだろう。

 話を真剣に聞いてくれる誰かの存在は……『別世界に飛ばされ、一人でいる』人間にとっては、非常に心強いものだ。軽く匂わせられるだけでも、惹かれてしまう。

 かつて晴嵐がこの世界に来た時、ラングレーの『ちょっとだけ漏らした話』に反応した時のように。当事者の彼も察したのか、オークの彼は晴嵐に苦笑を送っていた。

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