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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編

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村への朗報

前回のあらすじ


 二人と分かれ、晴嵐とテティはホラーソン村を目指す。村からの依頼の詳細を彼女に話すと、一つ問題が発生していた。なんと救出前に気絶させた人間の中に、令嬢が一人紛れ込んでいたという。テティも立場上、起きたことをそのまま話せないと告げ、二人は口裏を合わせる約束を交わした。村の近場まで帰って来た二人は、一旦休息に映る。旗を掲げ、祈るような少女は、突如虚空に語り掛け始めた。

 軍隊を即応で動かすのは難しい。

 人員と装備の補充に、ホットラインを用いた中央部との政治的調整。そして事前偵察と諜報活動。無数にやることはある上、足並もそろえなければならない。

 空いた時間の苛立ちを埋めるように、また戦意と士気を持する目的で、実戦に近い形式で兵士たちは訓練を行っていた。

 兵隊たちの準備は十分。上の方でも比較的早く話がついた。今からでも動けなくはないが、何かもう一つ手札が欲しい。欲する彼らにその一報は届いた。


「これは……こちらホラーソン村駐留軍。貴殿の所属を明かせ」


『旗持』の一人が応答し、呼応するように『旗持』の者たちにも伝播する。すぐさま軍団長のアレックスへ伝令が飛んだ。


「一体誰からだ?」

「テティ……テティ・アルキエラです。先の戦闘で行方不明の……」

「……借りるぞ」


 旗持が立ち位置を譲る。軍団長が旗を握り、瞳を閉じて集中させると……彼女の声が脳裏に届いた。


「代わったぞ、テティ」

『アレックス・ベルロ軍団長……』


 少なからず、互いの声には抑揚があった。知った顔の相手の無事を確かめ、軽い感傷に襲われる。男は私情を抑え、軍団長としての対応に移った。


「君の無事は嬉しい。状況を報告してくれ」

『はい。今街道に出たところです。村まで約十分の距離に居ます。仕事を終えた猟師の、セイランと名乗る方と同行しています』


 ぴくりとアレックスの筋肉が動いた。確かその猟師は、シエラを助けた不審者気味の青年だったか?

 そう言えば彼女に「個人的な責任で依頼しても構わない」と告げた気がする。まさか彼が救助した? 後でシエラに問い詰めるとして……とりあえずはテティの報告を促す。


「その猟師に助けられたのか?」

『多少はそうです。経緯をお話しますと、まずオークの集団で内紛が起きました。細かな事情は不明ですが、個々の取り分で揉めたのかと。混乱の中で私は、最低限の装備を回収し、自力で逃げ出しました』

「……ヴィラーズ嬢の様子は?」

『不明です。申し訳ありません、自分の身で手一杯でした』


 普通に考えれば矛盾である。装備を手にする余裕があるのに、姫様を無視していると……姫の人柄を知らない人物なら、この場でテティを追及するだろう。

 けれど村の皆は、あの厄介な性格をよく知っている。今回の事も身から出た錆で、優先順位が低くなるのは致し方ない。故に軍団長は責めず、続きを聞いた。


「猟師とはどう出会ったんだ?」

『オーク達の内紛が起きた時、たまたま近場に来ていたそうです。森が騒がしくなって様子を見に来たら、私が逃げて来て……私が持ちだせなかった食料などを、融通して頂きました』

「……シエラに劣らず運が良い。あるいは彼が幸運持ちか?」

『どういう意味で?』

「少し前にシエラもその猟師に助けられた。今度は君だ」

『ただの偶然かと。仕事を終えて、これから彼も帰るようです』


 仕事を終えた。と言う単語がまた飛び出す。強調気味の単語の意図を、アレックスは汲み取った。

 終えた仕事とは猟の事ではあるまい。内紛を聞きつけて、居場所を割り出したのかもしれない。やたらとテティが強調するなら、猟師は彼女に内情を明かしたのだろう。いずれにせよ良い報告だ。手ごたえを感じるアレックスの背を、少女の言葉が後押しする。


『軍団長、具申よろしいでしょうか?』

「……聞かせてくれ」

『先程も申し上げましたが、オークの群れで内紛が発生しています。細かな被害は不明ですが、統率に乱れが生じているでしょう。それに苛立った集団が、姫様に虐待を始める恐れもあります。早急に行動を起こすべきかと』

「なるほど」


 すぐに行動するメリットと、時間をかけるデメリットが明確に示された。更に猟師の仕事もあれば、手札は十分に揃っている。ぐっと腹に力を込めて、彼はテティへ答えた。


「私も同じ見解だ。こちらでも調整を早める。ただし……君の参戦は認めない。テティ・アルキエラ。君は村に残る部隊と合流せよ」

『どうして? ここで中継も可能ですよ?』

「無理をするな……と言うのは建前だ。姫様と君を戦闘後に合わせたくない。絶対面倒ごとになるぞ」

『……あの人が帰ってきたら、何にせよ面倒でしょう?』


 だから村で待機しても、前線に出ても同じと暗に主張するテティ。呆れと苦笑を交えつつ、軍団長は強く命じた。


「だからこそ、身体は休めて欲しい。我々が戻るまでに、上手い言い分を用意しておいてくれ。こちらへの負担も低くしてくれると助かる」

『割と無茶ですよ、それ』

「私が考えるより良い文面になるさ」


 彼女が頭を抱える気配がした。テティは文章の作り方が巧く、上に提出する資料のほとんどを添削している。前線に出れる女性旗持であり、政治的な言い回しとも折り合いがつけれる、貴重な人材としてアレックスは評価していた。

 ただ……結果として、彼女の負担は大きくなる。懊悩を込めた吐息と共に、テティは言った。


『……後で何か奢って下さい』

「任せておけ。ちゃんと帰って来いよ」

『了解。通信終わり』


 魔法による交信が途切れ、旗同士での通話が終わった。持ち主に返してやり、もたらされた情報を整理する。まずは猟師に、どのような指示を出したかの確認だ。


「シエラ兵士長を呼べ」

「はっ!」


 兵士の一人は短く応答。駈け出して兵士長の姿を探す。

 軍隊を預かるアレックスの目に、確かな戦意が灯っていた。

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