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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第一章 異世界編
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狩りと釣り餌

前回のあらすじ


現状の整理と、手持ちの装備をチェックした晴嵐。未知の世界を歩き出す。

 ――深い深い森の中、一匹の兎が飛び跳ねている。

 草木に紛れる茶色の毛並みが、耳を立てて周囲を警戒する。

 捕食される側の動物は、非常に警戒心が強い。特に兎は臆病なことで有名だ。耳を立て、首を動かし、周囲に天敵がいないか確かめている。しばらくキョロキョロ見渡していたが、やがて安全と判断した兎は、柔らかな野草を存分に食んだ。

 一見、隙だらけに見える姿でも、耳や鼻に異物を探知すれば、兎は速やかに逃げる態勢を取るだろう。一手の遅れが致命的になることは、野生動物において珍しいことではない。

 だから、突風が吹いて木の葉が揺れれば、ざわめきに驚き兎は顔を上げるのも当然だった。そして――『彼』を初めて目にした。

 冷たい眼差し、握られたナイフ。狼などの捕食者と変わらない、明確な脅威が眼前にあった。けれど、反応も逃走も間に合うはずがない。兎が彼を目にした時には、既に喉元に刃がふれていたのだから。

 

 

***



 一際強く突風が吹くと同時に、晴嵐もまた一陣の風となり駆けた。野兎は木々の音に注意を向けている。野兎の喉へ晴嵐のサバイバルナイフが振り抜かれると、首から鮮血が吹き出し、獲物は一瞬で致命傷を負う。己の身に何が起きたかを察することなく、二の太刀を受け野兎は生命を失った。

 そして晴嵐は……切り裂いた首筋へ口を開いて血を啜った。断っておくが、晴嵐は吸血鬼ではない。しかし彼の行動は、サバイバルの考えでは一理ある。

 寄生虫リスクも大きいが……安全な水の確保が難しい場合、生き血は貴重な水分として代用できる。勿論生暖かく、臭みもひどいが、新鮮な血は栄養補給も兼ねる優れた飲み水。砂漠の遊牧民がラクダから、とある戦闘民族は馬の生き血から水分を補給し、血止めをしてから再び動物と共に移動する……そんな人々もかつて彼の世界では、いた。

 小さくよぎった感傷を振り払い、晴嵐は口元と刃についた血をぬぐうと、せっかく仕留めた獲物を投げ捨てた。当然ながら生き血では必要なカロリーが足りてない。兎の肉は食用としても優れているし、彼もそれは承知していたが……一つの懸念が脳裏をよぎっていた。


(兎が居るなら、捕食者もおるの)


 未知の環境に、未知の生態。

 豊かな自然と兎がいる事は確定した。ならば、それを捕食する獣が存在する。終末でも野生化した犬が狼に近づき、人間と敵対したこともしばしばだ。ここがどこかは知らないが、狼や猛獣がいるかもしれない。彼なら気配を消して逃げる事もたやすいが、予め敵を知っていれば、選択肢を増やせる。

 野ざらしにした兎はいわば釣り餌だ。どんな生態なのか、危険な生物の種類と有無を既知するための撒餌。そしてもう一つ、晴嵐には考えがあった。

 出没した生物の種類によっては、水源の特定に役立つ。上手くいけば川までの案内役として使えるだろう。ただ、すぐ都合よく生物が出てくるとも限らない。兎は大きめなことを考えれば、少しだけその場を離れても問題ないか? 周辺をもう少し調べてみたくもある。

 しばしの黙考を挟み、彼はその場で待ち伏せることに決めた。最低限とはいえ、生き血を口にはしたし、餌を食い逃げされることは避けたい。たとえ何も出てこなくとも、その時は兎を回収し捌いてしまえば良いだけだ。

 見知らぬ森林の奥深く、晴嵐は独り、息を潜めて待っている……

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