計画変更
前回のあらすじ
ルノミはインターネットを通して、ヴァンパイアなる人物と接触していたらしい。偶然と運があったのだろうが、随分と信用されていたようだ。友好を深め、神と対話するプロジェクトを進めている中……世界を滅ぼす兵器が降り注ぎ、状況が一変してしまう……
「世界の神様と話している場合じゃない。最初はそんな感じで、計画は中止の流れになりました。けれど……『なろう系』の話を知っていた僕は、別方面のワンチャンスに賭けてみる事にしたんです。神様との対話から、交渉へと路線を変えました」
こう言われても、晴嵐には全くピンと来ない。そもそも前提の『なろう系』とやらに、晴嵐は知識が無い。地球のサブカルチャーのようだが、娯楽にかまける余裕のない終末では、自然と消滅してしまったのだろうか……とりあえず普通に尋ねてみる。
「一体、どういう計画にシフトした?」
「僕達の最初は……『世界の神様と対話する』計画でした。世界を上から見下ろす存在、地球と人類を見守っている存在、上位者、神様の本音を聞ききたかった。そのために、神々の世界側……『上層』へのアクセス手段を探していました。その後は、神様とおしゃべりして終わり。それが当初の計画でしたが、会話の内容を変更すれば……僕達は人々を救えるんじゃないかと考えたんです。『僕たちを別の世界に移動させてください』……なろう系小説に代表される『異世界転移』を、何とか交渉できないかと……」
「アホか」
バッサリと晴嵐は言葉で切った。計画そのものが陳腐なのもあるし、晴嵐にはもう一つ気に入らない所がある。
「『世界を滅ぼす兵器』とやらを使ったのは、お主らの世界の人間じゃろ。だったらケジメも、自分たちでつけるのがスジではないか? 神様がどんな奴か知らないが……とても要求が通るとは思えん。ただ『お喋り』するだけなら可愛げもあるが、自分で自分の首を絞めておきながら、いざとなったら神様に頼みこんで『助けてくれ』? ンなの通るか」
「辛辣ぅ!? で、でも、僕の国が、何が出来たかって言われると……怪しいところではありましたし……」
「わしは第三者目線で述べただけじゃ。お主の言う『神様』と、視点は近いと踏んでいるが?」
「く……で、でも、僕には思いつく方法が他に無かったんですよ! 僕だって必死だったんです! 自分に出来る事を、精一杯やったつもりです!!」
悲しげな瞳で、激情を見せるルノミ。何か不快な部分に触れてしまったのだろう。反射的に晴嵐は謝罪していた。
「……すまん。必死だった事は伝わった」
「あ、いや……ごめんなさい。協力者を集った時、反応が晴嵐さんみたいな感じだったので」
「嫌な記憶と被ったか」
「ムカつくのは、そうして散々バカにしていた癖に、『異世界移民計画』が軌道に乗ったら手のひら返した所ですよ……」
「……は? 上手く行ったのか!?」
無理筋に思えた神頼み。晴嵐目線でも『身勝手なわがまま』に思えたその『交渉』の結末を、ルノミはゆっくり、順序通りに話す。
「返答までかなりの時間がかかりましたけどね。
どう例えればいいのかな……あ! こっちのメールってあるじゃないですか」
「あぁ、あるな」
「えぇとですね……僕達の魔法で『神様の世界』側に、メールを送ってはいたんです。けれどずっと、相手側の返答がない状態でした。僕達の魔法『世界意思接続魔法』は、神々のいる玄関口に踏み入る所が精一杯でした。そこから先は『神様側が応答してくれないと、進みようがない』……」
「つまり……どういう事じゃ?」
「こちらは声を届けている。でも神様が反応してくれなかった。だから八方塞がりかと思ったんですけど、ついに返答が来たんです。『世界を滅ぼす兵器』が世界中に着弾した、十年後ぐらいだったかな……ようやく僕たちは『女神ベルフェ』と接触する事が出来ました」
「……ん? 名前を覚えておるのか?」
「あれ? そう言えば……あ! アレですよ! 人間じゃなくて神様だからじゃないですかね! 現に僕は『女神ガイア』の事も、ちゃんと覚えてますし」
「待て待ていっぺんに話すな」
突然神の名前を並べられても、追いつくことが出来ない。興奮気味だったルノミもトーンを抑え、神様についての説明を始める。
「僕達は当初……『女神ガイア』と接触する予定でした。
ヴァンパイアの人が言うには『この世界に神がいるとしたら、古き神話より登場する大地の女神『ガイア』に違いない』と言っていたんです。だから魔法にもガイアの名をつけたんですけど……実際に会った神様は『女神ベルフェ』と名乗ったんですよね……」
「仮説が間違っていたのか?」
「さぁ? でも僕たちにとって大事なのは『異世界に移民を許してくれる神様』との接触――壊れた地球から脱出し、異世界へ移動できるかどうか? 『異世界移民計画』に賛同してくれるかどうかでした。で、実際の所女神ベルフェとの交渉は、物凄くスムーズに進んだんです。女神さまは『最終的に、すべての人間に移民を許可する』だけじゃなくて『転移者全員に、なろう系小説にあるチートスキル』まで付与してくれると……」
「チ、チート?」
またしても聞きなれない横文字に、晴嵐は眉を上げた。ちょっと苛立ち気味に「強力な異能力の事です」と付け加える。
「能力の種類自体は色々ありますけど……不死身とか、能力を奪うとか、魔力無限とか、なんでも再生したり治せるとか、ともかく規格外の奴が何でもありです。一人につき申告制で、一個ずつ貰えました」
途端に、晴嵐の顔が胡散臭い物を見る目に変わった。
なんだそれは。別の世界に移動する事を許可するだけでも十分すぎるのに、加えて『異能力』まで、全員に一人ずつプレゼント?
冗談じゃない。いくら何でも都合が良すぎる……上手い話には裏がある物。疑念に満ちた瞳を向ける晴嵐に、ゴーレムの顔もまた曇っていた。
用語解説
世界意思接続魔法
それは本来、ただ『上位者と対話する』だけの魔法だった。人類の営みを、上から見ている『神』がいるのなら、その存在と言葉を交わしてみたい。そんな戯れめいた発想から始まったプロジェクトは、世界の崩壊によって用途が変更された。
『対話』から『交渉』へ。ルノミの知るサブカルチャー的発想を流用して、異世界転移とやらを実行しようとした。彼らが完成させた魔法は『神々の玄関口にメッセージを届ける』事を可能にしが、相手側が反応しないと意味がない。これで長い事放置されたようだ。
(メールを送った後返信が来ない、ラインの既読無視されたような状態とお考え下さい)
世界を滅ぼす兵器が着弾してから約十年後、彼らの下に返信がきた。しかし答えたのは当初接触を予定していた神『女神ガイア』ではなく、『女神ベルフェ』と名乗る存在だったらしい……




