ゴーレムの中身は⋯⋯
前回のあらすじ
言い争いを続けるゴーレム技師の二人。仲が良いのか悪いのか、良く分からないやり取りに『憑依型ゴーレム』が訴える。しかし感覚ミュートすればよいと返す二人に、ゴーレムは奇妙な動作をするばかりで、機能がない。どう判別すればよいかと、晴嵐はゴーレムを連れ出して外で話すことに……
扉を開け、来た道を戻る晴嵐。初見の地域なので、本当はあまり出歩くと戻れなくなるかもしれないが……そこはゴーレムが外の景色も覚えているので、問題ないそうだ。
「ずっと室内にいても退屈ですから……実物見た方が、早い事も多いですし」
「ふむ……百聞はなんとやらじゃな」
「そうですね。色々と目新しい物も見れて、楽しいです!」
明るい声色に、演技っぽさは感じない。しかし、いきなり別世界に投げ込まれたというのに、随分と楽観的だ。確かに晴嵐も衝撃を受けたし、新しいモノに触れる事に刺激を覚えもした。多少なりともこの世界、ユニゾティアの観光を楽しんだ事もある。
『中身』は若い人物なのだろう。軽くもう一度、晴嵐は『憑依型ゴーレム』に聞いた。
「『地球』の出身と言っていたな? みんなゴーレムなのか? 地球の知性体は」
「そんな訳ないです……ってそっか、詳しくは知らないんでしたね……」
本当は『地球』を詳しく知っているが……いきなり漏らすには、リスクがあるかもしれない。楽天的な性格のゴーレムなら、普通の会話からある程度探れるだろう。何より向こうは『晴嵐が地球出身』とは、全く予想していない。ユニゾティアの住人として、色々と探ってから核心に踏み込む気だ。だから彼は、すっとぼけて尋ねる。
「ゴーレムではない? 現に今、お主はゴーレムじゃろ?」
「そう……そうらしい、ですね」
「煮え切らん答え方じゃな」
「実は、ぼくは普通の人間……じゃなくて、ヒューマンだったんですよ」
「ほぅ? わしの同族か」
顔文字を平行棒にして、唸るような声を上げる。ゴーレムの中身は、困惑を浮かべながら続けた。
「これは、良く分からないのですけど……ぼくはヒューマンの男だったんです」
「男? お主、ルノミと呼ばれていたが……女性ではないのか」
「間違いなく男です。それは覚えています。声はどっちつかずと、生身の頃から言われてましたが……」
「今も中性的な声じゃな。自分の声に違和感は?」
「ほとんどないです。ちょっとロボっぽい……じゃなくて、えぇと、生の声帯とは違うかなぁ……とは思いますけど」
晴嵐は思わず笑いそうになってしまう。表現の仕方に難儀しているのが伝わった。必死なのが分かって、ちょっと微笑ましい。しかし今の話に、晴嵐は矛盾を見つけていた。
「お主、名前に関して忘れていると言っていたが……」
「この体に刻印されていた文字列……みたいです。二人が言うには、作った人が命名したんじゃないかって……だからとりあえず使っています。でも、自分の名前かどうかは、全然ピンと来ない。多分違うんじゃないかなぁ……」
「どう考えても『ルノミ』は男に付ける名じゃないな」
中身は男、しかし体の製造者が付けた名前は、明らかに女性のような名だ。作った奴はどんな意図なのやら。街を歩きつつ、晴嵐はゴーレムの彼に同情するように言った。
「となると……目覚めた直後は大変だったんじゃないか?」
「本当、その通りですよ! だって……目が覚めたら全く別の身体なんですから!『異世界転移で目覚めたらゴーレムでした!』って感じです」
「うん……うん?」
時折コイツは、訳の分からない言葉を口走る。それはこちらの住人にとっても、地球出身の晴嵐にとっても妙な言葉だ。呆然とする彼に対して「やっちゃった……」と(´・ω・`)と顔を変えて謝罪した。
「す、すいません……つい『なろう系』のノリで」
「なんじゃその『なろう系』ってのは?」
「ぼくの世界のネット界隈で……あーちょっと特殊な媒体で、一時流行っていた創作物です。自分たちのいた世界から、別の世界に移転するって奴です」
「そ、そうか」
参った。晴嵐には覚えがない。
彼が生きて来た世界は、文明が崩壊した終末世界だ。それこそ『世界が壊れるまでは』創作の話だったが、実際に起こって難儀した覚えがある。人を襲って食らい、次々と同族化する化け物の跋扈も、現実としてやってくるまでどこか遠い話だった。
晴嵐は知らないが、似たようなパターンなのか? しかし彼ルノミは、混乱する彼に対し、勢いのままとんでもない事を口にした。
「あの作品群のテンプレ……基本的な流れだと、不幸な事故が始まりなんですけど……ぼくは、ううん、ぼくたちは世界の神様と直接対話、交渉して、別世界への転移を実行したんです」
「――お前は何を言っておる?」
「全部話すのは……あぁでもいつか、ちゃんと話さないとダメだよなぁ……」
晴嵐に話すかどうか、少しだけ迷いを見せていたルミノ。しかし意を決した彼は、コミカルな表情を引き締めて、真っ直ぐ真剣に男を見つめて、朗々と語り始めた。
「実は……ぼくの暮らしていた世界は今、大変な事になってしまいました。ぼくのいた世界『地球』は、滅びかけています」
「……」
「そこで……ぼくと、あるヴァンパイアの人……あぁ、えと、こっちの『吸血種』みたいな人がいるんですけど、その人とぼくの共同で、ある魔法を完成させました。
『世界意思接続魔法』って言って、ぼくのいた世界を見守る神様と、直接対話するための魔法です。そして神様と交渉し、ぼくたちは『異世界転移』を実行しました。壊れかけた世界から脱出して、別の世界で暮らすために」




