第五章 ダイジェスト・2
いずれスーディアから連絡が来ると踏み、同じ都市内部でメールを送受信した晴嵐。確認すると、表示された件名は一つだけでは無かった。メールの通知はもう一つある。差出人はテティ・アルキエラ。ホラーソン村で世話になった『旗持』の女性である。晴嵐の内情を知る数少ない彼女は、戦争突入まで秒読みでありしばらく連絡が途絶えるであろう事、晴嵐の事を案じる内容が含まれていた。
温くなったものだ……と晴嵐は自虐するが、けれどかつては自分も、地球で普通に生きている人間だったと思い出す。なりたくて、こんな人間になったんじゃないと。
しかし、そんな世界で生きて来たからこぞ、自分のような人間が、弱い部分を見せた瞬間に襲ってくるのではないか……そんな不安が止まらない。
誰もが生きるために必死になって、他者を食い荒らすのも……世界が滅んだのも、それはそれで人が招いた世だった。そんな風に言いつつも、彼は全く納得し切れない。
あぁ……悲しいがな、それが大平晴嵐の経験と業だった。こんな彼の様子を見て……スーディアは何度もやんわりと、心構えを変えても良いのではないかと言っていたのだ。
そんなお人よしが……何かの拍子にぽっくり逝かないようにと、世話を焼くのが戦場に身を置く理由な面は否めない。素直にそう言えない自分が恨めしいが……簡単に変われないのも真実だった。
その後、スーディアにらしくない行動を突っ込まれ、それらしい理由を考えたが……少々無理のある言い分を使うしか無かった。スーディアが死なないようにするためと素直に言えない彼は、戦争下で吸血種と接点を持つのが狙いと言った。
不老不死の特性を持つ彼らは、千年前の戦争を知っている。もしかしたら、彼らの漏らした会話などから、過去に起きた事を紐解けるかもしれない……あまりに低い可能性と突っ込まれたが、社会的地位の無い晴嵐では、こうでもしないと接点を作れないと返す。現に晴嵐は、色々と歴史家の所を訪ねては見たものの、社会的立場の無さから門前払いを喰らった経験もあった。
無理筋で無茶な部分もあるが、混乱期は好機であり、戦争も何度も起きる様な事じゃない。今しかないのだとゴリ押されれば、他に良い手段を提示できないスーディアも反論が難しい。他にも、平和な所での捜査が肌に合わないと語れば、オークの目は悲し気に伏せられた。
現在のユニゾティアにおいて戦争は『緑の国』と『聖歌公国』の間に限定されていた。資源や物資不足の問題は、皮肉なことに千年前『グラウンド・ゼロに出現したダンジョン』によって大きく改善されている。戦争の爪痕も大きいが、もたらされた知識や技術によってこの世界が豊かになった側面もある。物資不足で他国から奪う必然性は下がったのだ。
そんな中で戦争を引き起こす『緑の国』の動機は……他種族に対する感情の悪さや『自民族至上主義』を国家単位で引きずっている節がある。特に千年前の長老格は、オークに対する憎悪が未だに根深く燻っている。亜竜自治区が戦士に対して敬意を見せる文化圏なのもあって、緑の国にとっては許しがたい相手なのだ。
両国間で着々と戦争準備が進む中……晴嵐は傭兵の登録手続きに入っていた。受付の者が呆れるほど、何度も何度も契約書類を見直している。武人祭が行われていた巨大闘技場の『ディノクス』前に設置された窓口で、係の者が呆れるほど晴嵐は一字一句見逃さずに内容を確認していた。武人祭は中断となり、静かになっているかと思いきや……ある意味今も盛況だった。
魔法の『闘技場』は戦闘訓練としても有用。加えて、武人祭を中断させられ、鬱憤の溜まった戦士たちがゴロゴロといる。緑の国は不意打ちしたつもりなのかもしれないが、むしろ逆効果に思えてならない。時世の雑談を交えつつ受付と話を進め、宿の移転などの確認事項も確かめ、晴嵐は正式に契約を締結した。
ポート封鎖から一週間。国家間単位で対話は続けられていたものの、悉く決裂。諸外国とも通信が封鎖され、開戦がすぐそこまで迫った所で、非正規な手段で国外に出ようとする人間が現れ出した。
通信施設であるポートが封鎖され、用事が特にないのに巻き込まれた人物は脱出を急いでいる。しかしこのタイミングでの移動は、どうしたってスパイの疑いがかけられてしまう。両国共に、非正規な出国者への取り締まりは激化していた。
実際に手続きを無視して逃げようとする者は存在し……特に亜竜自治区から、隣国のエルフの若者は逃亡しがちだ。三名の若者が脱出を図る中、再三の警告を無視して逃げ続けるものだから、監視役から本気の攻撃にさらされ焦るエルフたち。逃げ惑う際にうっかり罵倒で『トカゲ』と言ってしまい、ブチ切れた亜竜種が追跡にかかる。
だが、最初は警告から入り、うち一人が大人しく諦めたので応対が遅れてしまった。残り二名に逃げ切られる寸前、草むらに仕掛けられた簡素な縄の罠に引っかかり転倒する。仕掛けたのは大平晴嵐。時間がある時にこっそり仕込んでいた。侮蔑され頭に血の登った亜竜種をなだめつつ、捕縛した者を別の担当に突き出した。




